16:小学校の七不思議の話
小学校に七不思議ってあった? って聞かれたんだ。
オカ研じゃなくて、クラスの友達。別の小学校の奴に。
……オカ研の先輩達ならもはや笑い話として話せたけど、羽柴のこと何も知らん、人形のような憧れの美少女だと思ってるあいつらには言えなかったよ。
七不思議はあったけど、全部羽柴がボコったなんて。
どのツラ下げて言えばいいんだよ?
美術室の目が動くモナリザの絵は、羽柴が目潰し決めてから泣くモナリザに変更したとか。
しかもあいつ、その涙を雑巾で拭くし。
プールに浮かぶ生首なんて、羽柴がプールサイドから飛び込みジャンピングキックで沈めてから目撃証言がないんだぞ!
あとグラウンドに生える手首は、ローラーで潰してたな。
あれは別にいいや。
あの手が俺の足を掴んで転ばせたせいで、50メートル走のタイム最悪だったし。
あと、読むと自殺したくなる本ってのもあったな。
どの本かわかってなかったんだけど、俺が夏休みの読書感想文でテキトーに選んだ本が見事にそれでさ、最初の1ページ読んだだけでずっと「死のうよ」って耳元で囁き続ける霊に取り憑かれたよ。
まぁ、3分後くらいに羽柴が気付いて、広辞苑の角でその霊が消えるまで滅多打ちしたけど。
俺、本当に羽柴に迷惑かけてばかりだなー。
硫酸先生も羽柴に追っ払ってもらったし。
硫酸先生ってのは、嫌われ者の先生が生徒の悪戯で転んで薬品棚に頭から突っ込んで、硫酸被って死んだって霊で、そいつに会ったら硫酸をぶっかけられるって話でさ。
俺、その話は信じてなかったんだよ。
小学校の薬品棚に硫酸が置いてあるわけねーだろとか思って。
そしたら放課後、算数のテストが悪くて居残りしてたら会っちゃってさ。
もう泣きながら逃げたよ。顔が焼けて溶けたぐちゃぐちゃのゾンビだったから、硫酸をかけられるよりも、そっちが怖くて。
そしたら、なんか用務員のおじさんの手伝いをしてた羽柴が廊下の曲がり角からひょっこり出てきてさー。
掃除を手伝ってたらしくて、手には箒を持ってたんだ。
んで、ゾンビみたいな霊に追いかけられて自分の方に向かって走ってきてる俺に、いつもの無表情で「ソーキさん、頭下げてー」とか言い出してさ、わけわかんなかったけど反射でその指示に従って、スライディングみたいな形で羽柴の方に滑り込んだ。
そしたらさ羽柴の奴、持ってた箒を思いっきりフルスイング!
箒は硫酸先生の鳩尾にジャストミートして、大の大人の霊が吹っ飛んで消えた。
もう何度目かわからないけど、正直言って霊より羽柴怖いってまた思ったわ。
それからこれは女子トイレの話だから俺は直接は知らないんだけど、羽柴は花子さんも泣かせたらしい。
羽柴が友達と一緒にトイレに行ったら、自分達以外に誰もいないはずのトイレでどこからか、「遊びましょう」って声が聞こえたらしい。
友達の方はもちろんビビって何も言えなくなるんだけど、羽柴は手を洗いながら即答したそうだ。
「こんな汚いところじゃ嫌」って。
……うん、確かにトイレで遊びたくないよな。
羽柴が言った後、友達も花子さんもシーンとしちゃって、羽柴はそのまま花子さん無視して出て行ったらしい。
あ、友達はちゃんと連れて出て行ったらしいよ。その友達本人が言ってた。
で、それ以来女子トイレでは時々、「私だって好きでこんなところにいるんじゃないわよ」ってすすり泣く声が聞こえるって話は、ただの噂だと思いたい。
それで最後が、七不思議のうち六つを体験すると別の世界だか地獄だかに連れて行かれるって話だったんだけど、これはさすがに俺は体験してないわ。
つか、花子さんを体験してたら俺は大問題だろ。
それで、羽柴の方は見事に六つコンプリートしてんじゃん。
この七つ目も体験してるっぽいんだよ。
小6はじめの方だったかな?
授業中、真ん中の方の席だから途中で抜けたら絶対に誰かが気づくって位置の席なのに、気がついたら羽柴がいなくなってたことがあったんだ。
もう学校中が大慌てで、先生も生徒も羽柴を探したんだけど見つからなかったんだけど二時間後くらいかな? そろそろ警察に連絡した方がいいんじゃないかって話が出はじめた頃に、ひょっこり戻ってきたんだよ。
羽柴は多少怒られてたけど、あの大騒ぎの割には説教は短かったな。
そんで、俺もクラスメイトも先生達も、羽柴が行方不明の間どこにいたかを訊こうとしなかった。
気にはなるけど、ちょー気になるけどさ、聞く勇気ねーよ。
戻ってきた時のあいつ、ベコベコに曲がって凹んだ金属バットを持ってたんだぜ?
* * *
『もはやれんげちゃんはいつものことだけど、危害を加える系を全部引き当ててるあんたも実は凄いわね』
七不思議ネタは1話1話やるか一気にやるかで悩んだ結果が、小学校のは一気にやって、中学校のは1話1話やることにしました。
羽柴の中学の七不思議の霊たち逃げてー、超逃げてー。
次回は、ゆるいコメディです。




