15:こっくりさんの話①
この話の元ネタは、なんか笑える霊体験スレの「キ.タ.シャ.マ」です。
いやー、無知というか無自覚って怖いわー。
今日はオカ研で部長が、「こっくりさんやりたい!」って言いだしたんだよ。
まぁ、それは羽柴の「どうぞ。するなら私は帰ります」って本当に来てすぐ帰り支度始めたから、結局やらなかったけど。
つーか部長の守護霊のことを考えたら、どーせ部長が参加って時点で何も降りてこないだろうが。
もしくは守護霊じきじき、いい加減にしろってお説教がくるか。
まぁ部長の話はいいとして、こっくりさんをやりはしなかったけど、何故かそのままオカ研メンバーがそれぞれ、自分達のこっくりさん体験談になったんだ。
当たり前だけど、さすがオカルトマニアの巣窟。
全員経験者かよ。
けどほとんどが全く動かなかったか、誰かが動かしたんだろうって感じの話ばっかりで、別にこれといってヤバイ経験も面白いことが起こった奴もほとんどいなかったんだけど、……紅葉先輩がヤバかった。
俺と羽柴以外で唯一のオカルトに興味がない、むしろ嫌いな人だけど、姉が部長だから巻き込まれて色んなことをやらされてるんだけど、これは部長じゃなくて友達とやった話らしい。
もちろん部長とこっくりさんを何度も付き合わされたけど、部長とやっても何にも起こったことなかったから、友達に誘われてやった時もどうせ何も起こらないと思って、怖がらずにやったってさ。
で、その時に限ってなんか降りてきたらしい。
紅葉先輩を誘った友達も、ちゃんと動いて質問に答えたのは初めてだとか、紅葉先輩抜きでやってもうんともすんとも言わなかったとか言ってたそうだから、先輩が呼び寄せたんだろうな。
んで、その呼び出した奴がやたらとすごかったらしい。
先輩や一緒にやってた友達の名前、先生のアダ名とかはもちろん、誰それが好きな女の子とか明日の小テストの答えとか全部当てるし、来週の天気や抜き打ちテストの日にちまで当ててきたから、間違いなく誰かが動かしたじゃなくて本物。
それも浮遊霊じゃないだろうな、あの的中率は。
で、そんな的中率ほぼ100%なんて、怪しいじゃん?
一体何を呼び出したのこの人? とか思って俺、呼び出した奴の名前か何かを聞いたかを尋ねたよ。
そしたらキョトンとした顔で、「予言はすごかったけど、ショボい奴だったな」とか前置きして、言いやがったんだ。
「『ハエの王』って名乗ってた」って。
羽柴以外の全員が吹いてから、絶句。
その反応に紅葉先輩、ビビりつつもまだキョトン顏。
あんた、姉のせいでオカルト関連には詳しいはずだろ。
何故、ベルゼブブを知らん。
そんな感じで部員、特に姉である部長から総ツッコミをくらって、ようやく自分が呼び出したもののヤバさに気付いて先輩の顔は真っ青。
おせぇよ。オカ研で唯一まともかと思っていたら、あの人も相当変だわ。何かが激しくずれてる。
まぁ、部長も心配ゆえのツッコミじゃなくて、「何で紅葉だけそんな面白霊体験してんの!? ズルい!!」って反応だったから、あの姉弟、似てないと思ったら案外似てるわ。やな方向で。
紅葉先輩、ビビリなのによくそんなこっくりさんやって平気で話すなーと思っていたら、ハエの王を漫画やゲームのボスキャラレベルな悪魔の異名だとは全く思ってなくて、幽霊じゃなくてよかったー、いくら王でもハエってショボいなーとぐらいにしか思ってなかったらしい。
だから、今更になって羽柴に泣きついてたよ。
「俺、大丈夫? 何かヤバイもの憑いてない?」って取りすがる先輩を羽柴はウザそうにあしらいながら、とりあえず守護霊のコーギー以外は何も憑いてないことを断言して、フォロー入れてくれたよ。
「低級霊は相手をビビらせたり騙す為に、神とか精霊とか逆に悪魔とか上位の存在を名乗ることがあります。先輩のも、たぶんそれ。っていうか、何でキリスト教系の悪魔がこっくりさんで呼び出せるの?」って、冷静に突っ込んでたわ。
最後のツッコミで俺らも紅葉先輩もそりゃそうだと安心して納得したんだけどさー、そこで終わればいいのに紅葉先輩、爆弾発言をさらに追加で投下。
「あー、安心した。
でも俺、もう二度とやらねぇよ。
低級でも帰るのをごねて、全員を金縛りにしたり外の天気を悪くさせたりこっくりさんの紙から悪臭と黒い煙みたいなのを出すんなら、本当にヤバイ奴はどんなんだよ?」とか言い出して、また部員が絶句。
しねぇよ。俺でも外の天気を変えれるような悪霊、お目にかかったことないわ。
紅葉先輩のセリフにさすがの羽柴もドン引いたみたいな顔で、「……それ、本物かもしれませんね」とか言われて、また先輩がパニック起こしてたよ。
つーか的中率ほぼ100%って時点で、低級霊ではないよな。それなりにレベルが高い存在だろうよ。
でも羽柴が本当に悪いもんは先輩に取り憑いてないっていうんなら本当だろうから、羽柴も他のみんなも首を傾げてたよ。
呼び出して名乗った名前が神様なら、悪いものより何で呼び出せたのかが謎だけど本物なら凄いで終わるし、偽物でもイタズラ程度で騙ったんだなと思うけど、悪魔を名乗るんなら本物でも偽物でもタチが悪いもののはずだからな。
しかも帰るのをごねたそうだし。
何で先輩、当時も今も無事なんだ?
俺がそう思ってたところで、羽柴が先輩にどうやってそいつを帰したかを訊いたら、先輩は顔をさらに青くして答えたよ。
それも思い出したら、とんでもないことを言ったって自覚したんだろうな。
「……ば、バルサン焚くぞって言ったら帰った」
……ハエの王だもんな。
確かに有効そうだよな。
俺も他の部員も、三度目の絶句から回復したら突っ込むつもりだったよ。
そんなんで帰るかー!! って。
でも、それ聞いて羽柴がものすごく納得してたんだよ。
そうだ、あいつは事故物件とか密室の地縛霊にはバルサン焚けばいいってアドバイスして、実行してる女だった。
それで俺たちはまた絶句して、今度は何も言えなくなったわ。
もう今日は、何もしてないのになんか疲れた。
とりあえずオカ研内で、バルサンが最強武器扱いになったことだけは教えとく。
何の役にも立たない情報だけどな。
* * *
『あんたの先輩は何なの? 現代のソロモン王なの?』
元ネタでは、さすがにバルサンで追い返してません。
ただ、本物なら節操がないくせに洒落にならないラインナップを呼び出してましたね、体験主は。
次回は、羽柴さんの瞬殺集です。




