14:おまじないの話
この話の元ネタは、なんか笑える霊体験スレの「こ.ど.く.し.ら.ず」です。
ちょうど今頃、小5の梅雨の時期にクラスの女子から告白されたことがあるんだ。
まぁ、すぐに断っちゃったけどな。
その頃はすでに羽柴が好きだったし、何よりその子はほとんど不登校、たまに来ても保健室登校な子だったからぶっちゃけほとんど何も知らなかったんだよ。
俺はその頃保健委員だったから、その子が登校してきた日はプリントやら給食を保健室に持って行ったことが何度かあったくらいで、惚れられる覚えは全くなかったからパニくったのは覚えてる。
とにかく俺は、気持ちは嬉しいけどお前のことをよく知らんし、そもそも俺には好きな子がいるしとか、今思うとかっこ悪くて、しかも相手を傷つける断り方したな。
そんな断り方だったけど、その子は割とさっぱりとした笑顔で、「ううん、いいの。困らせてごめんね」って言ってくれたんだ。
その子が不登校で保健室登校な理由を俺は今も知らないけど、何となくいじめだろうなーと思うくらい、よく言えば物静かで大人しい、悪く言えば暗くて気弱な子だったから、その反応は正直言って意外だった。
で、別に俺はその子の事が嫌いだから断ったわけでもないから、そんな反応だとなんか罪悪感が湧くじゃん?
だからさ、せめてこれを受け取って食べてくださいって言われて、受け取っちゃたんだよ。
その子の手作りクッキーを。
で、その後はちょっともやもやしながらも、普通に家に帰ってゲームでもしながらオヤツにそのクッキーをボリボリ食ってたんだ。
なんかたまに変な苦みとか歯ごたえがあったけど、そこは小学生の手作りだからと気にせずに食ってたら、クッキーに混じってたものが歯と歯茎の隙間に刺さったんだよ。
あんま痛くなかったけど、何が混ざってたんだ? つーか、何か混ざりすぎだよとか思いながら、その刺さったものを抜いて、その後トイレに直行。
歯と歯茎の隙間に刺さっていたのは、クッキーに混ざってたのは、虫の足。
何の虫かは流石に今もわからないけど、とにかくそれがゴミでも爪楊枝でもなく虫の足だってわかった瞬間、じゃああの妙に苦いと思った味は、あの変な歯ごたえは……って考えたら、もう即効リバース。
もう吐いて吐いて、あらかた吐いた後も指を喉の奥に突っ込んで胃液しか出なくなるまで吐いて、オカンに心配されたなー。
心配されたけど、流石に告白されて断った子のクッキーに虫が入ってたとは言えなかったから、気分悪いって言ってそのまま夕飯食べずに寝たよ。
実際、食欲ゼロだったし。
ベッドの中であれは嫌がらせなのか、それとも作ってる途中で気付かず虫が入って、そのまま仕上げちゃっただけなのかを悩んだけど、どうしてもあの笑顔が嘘だとは思いたくなくて、俺は知らんうちに入っちゃっただけだと自分に言い聞かせているうちに眠っちゃったんだ。
それで、悪夢を見たよ。
夢の俺は虫くらいのミニサイズになってんのか、それとも他の虫が人間サイズなのかはよくわからないけど、とにかく俺と同じサイズの色んな虫が、ひたすら俺や他の虫を襲って共食いしまくるって夢。
またその虫のラインナップが最悪でさー。
蜂に毛虫にムカデにゲジゲジにクモ。
もう、キモい虫ばっか勢揃いで俺に襲いかかってくるんだよ。
しかもその虫は全部、告白してきた子の顔をしてたんだ。
その顔は、俺を恨んでるとか怒ってるって顔じゃないのがまた怖いんだよ。
その子、嬉しそうで楽しそうな笑顔で「好き、好き、大好き」とか呟いて、襲いかかってきてたんだ。
怒ってる、恨んでる顔で恨み言を呟いてるんなら、やっぱりあのクッキーは嫌がらせだった、この夢はそのせいか? って思えるんだけど、楽しそうな笑顔で好きだからな、わけわかんなくてずっと逃げて逃げて逃げまくってたわ。
で逃げまくってたら、いつも間にか俺と一匹の虫以外は全滅してた。
で、最後に残った虫、もうあれは虫と言っていいかも怪しいモンになってたな。
色んな虫のキモいところをひたすらに混ぜ合わせたキメラみたいな虫に、女の子の顔だせ?
キモいどころじゃねーよ。
そこまでキモい姿になっても、その子は嬉しそうで楽しそうな笑顔のまま、やっぱり俺にずっと「好き」って言ってるんだ。
いや、そんな体で言われたら顔が羽柴でも俺は泣いて逃げますよ、って思う余裕はもちろんなくて、俺はごめんなさいごめんなさいって、誰に何で詫びてるのかわからないけどとにかくひたすら謝りながら逃げまくったよ。
逃げても逃げてもその虫は俺を追って来て、虫の足が俺の足を掴んだと言うか引っ掛けて転ばされて、そのままその虫は俺を覆いかぶさるように見下ろして来たよ。
それでやっぱり笑いながら、こんな体と状況じゃなったら、素直に可愛いなって思える笑顔で言うんだ。
「大好き」って。
……俺はあの時、何て言えば良かったのかな?
まぁ、なんて言ってもたぶん途中でぶった切られてたけど。
俺に覆いかぶさって、ムカデみたいな足をいくつもの伸ばして俺を捕まえようとしてた虫が、いきなりビョーンって後ろに吹っ飛んだ。
本当にビョーンって音がピッタリな吹き飛び具合だったな。
いきなりの展開で俺は唖然としたけど、虫も唖然としてた。
まさしく鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしたまま、吹っ飛んでた。
で、吹っ飛んだ先でその虫は消えた。
正確には食われた。
遠くだったからシルエットしか見えなくて、そのシルエットもなんか遠くの山みたいな三角にしか見えなかったけど、とにかくその三角が虫を自分の元に引き寄せて、ばくんと丸呑みしたんだ。
俺はあまりの高速展開と超展開についていけなくなって、ボーゼンとしてたよ。
そしたら何か今度は頭の上の方から呼ばれたような気がして、反射で顔を上げたら俺がぐいっと上に引き上げられたんだ。
その引き上げられる感覚に驚く前に、俺は目覚めたよ。
目が覚めて、まだ夢か現実か頭が追いつかなくてぼーっと天井を見てたな。
何かオカンとオトンが俺を見下ろして俺を呼んでた気がするけど、そこらへんの記憶は曖昧。
ハッキリ覚えてるのは、何か首のあたりにべちゃりと冷たくて気持ち悪い感触がした後、ヌッとどアップででかい蛙が俺の顔を見下ろして俺が絶叫したことと、羽柴が「おはよう、ソーキさん。まだ夜だけど」とか言いながら、蛙をプラスチックの水槽にしまってたことだ。
まー、その後も10分近くはカオスな状況だったな。
オカンもオトンも泣きながら俺に大丈夫なのかと聞いてきたら、また変なものに取り憑かれてって叱るわ、羽柴にはペコペコ頭を下げて礼を言ってるしで、俺一人置いてけぼり。
何とかカオスな状況が落ち着てから何があったのか教えてもらったんだけど、俺が吐きまくって寝るって言ってしばらくたった後、オカンが俺の容体を心配して様子を見に来たら、寝てる俺が顔色は真っ青なのに汗だくで、「虫が……虫が……」とか言いながらうなされてたらしい。
オカンがいくら揺さぶってもオトンが思わず力一杯ビンタしても起きないし、顔色最悪、汗だくなのに体温自体はさほど高くないってことで、またなんか変なものに取り憑かれおったー! と思って、オカンらは即、救急車じゃなくて羽柴を呼んだらしい。
……まだ夜の7時頃だったけど、そんな時間に小学生を呼ぶなよオカンら。
そしてよく素直に来てくれたな、羽柴。
俺、マジで羽柴に足を向けて寝れないわ。
で、来てくれたのはいいが、羽柴は何故か蛙を連れてきた。
「神社の池のウシガエル、モーちゃんです」とか言ってたけど、どうでもいいよそこは。
羽柴はどの時点でどれくらい何をわかっていたのかは知らないけど、やっぱりあいつ、チートだわ。
あいつは来てまず初めに向かったのが、ベッドでうなされてる俺じゃなくて、机の上に置きっぱだったクッキーの残り。
それをモーちゃんに残っていた分を全部食べさせて、その後に俺の胸にモーちゃんを置いてから、自分の手を俺のデコに置いた途端、俺は目覚めて絶叫にいたる。
……そうか、あの夢の三角のシルエットは、あの虫を食ったのはモーちゃんだったのか……と俺は遠い目をしつつ、とりあえず羽柴とモーちゃんに礼を言っておいた。
んで、羽柴はそのまま俺の親に送られて普通に帰って、俺は次の日の朝になればもう虫クッキーの気持ち悪さも夢の怖さもほとんど忘れて、やっぱり普通に学校に行った。だいぶ心霊現象慣れしてたとは言え、図太いな俺。
まぁ、そんな図太い俺でもさすがにあれは凹んだ。
学校に行って、朝のホームルームで知らされたよ。
クッキーをくれた子が、昨日の夜中に急病で亡くなったって。
それ聞いて、頭が真っ白になった。
俺、虫クッキーなんてモンを食わされたけど、あんな夢を見て、羽柴に迷惑もかけたけど、それでも俺は、あの子が夢の原因であると確信しても、あの子のことを嫌いにはなれてなかったから。
あの子に、悪意があったとは思えなかったから。
だから、聞きたかったんだ。
何がしたかったのかを。
どうして、あんなのを俺に渡して、あんな夢を見せたのかを。
俺なんかを、好きになった理由を。
でもそれは最悪な形でもう二度と聞けなくなったのが、俺が自分で思うよりも辛かったのかな?
俺、つい最近どころか、3時間くらい前まですっかり忘れてたんだ。
思い出した理由は、オカ研で部長がヤバいサイトを見つけたとか言ってそのサイトを見せてきたから。
そのサイトはおまじないを紹介してるサイトで、そのサイト内の恋愛系のおまじないに「こどくしらず」ってのがあって、それが部長が言うヤバい部分だった。
内容は、何種類もの虫を箱や壺の中に一緒に入れて共食いをさせて、最後に残った一匹をすり潰してお菓子に混ぜて、意中の人に食わせろっていうとんでもないモン。
これだけで十分とんでもないのに、部長だけじゃなくて風守先輩や先生が真っ青になって教えてくれたよ。
……これは「蠱毒」っていう、人を殺すことを目的とした呪いそのものだって。
つまりあのサイトは製作者も騙されて教えられたか勘違いしてない限り、恋愛のおまじないと騙して、人殺しの方法を教えてるってことだ。
人殺しの方法といっても、毒薬の作り方とかとは違って呪いは法的には咎められないから、サーバーに削除依頼は難しいし、内容が内容だから真に受けて実行する奴はそういないだろうということで、部長たちは結局そのサイトを静観すると決めたけど、俺はそのサイト主を見つけてぶん殴りたかった。
思い出したと同時に、理由がわかったから。
あの子にはやっぱり、悪意はなかった。
心から信じてたんだ。
あの悪意しかない、おまじないを。
……羽柴はさ、あの日、帰る直前にこんなことを呟いてたんだ。
「人を呪わば、穴二つ掘れ」
あの頃は意味わかってなかったけど、今ならわかるよ。
あの子は、知らない間に自分で自分の墓穴を掘ってしまったんだってこと。
俺は死にたくないよ。死にたくなかったよ!
……でも、あの子も死ななくちゃいけなかったのか?
あのサイトの製作者じゃなくて、あの子が死ななくちゃいけなかったのかよ!?
* * *
『その質問の答えはわからないけど、少なくとも穴はちゃんと二つ、埋まってるわ。
よく見なさい。あのサイトの更新がいつから止まってるかを。
……2年前の梅雨に、ちゃんと止まってるわ』
元ネタはなんか笑える霊体験スレですが、これは元ネタも笑えません。
絶対に作中の「おまじない」を真似しないでください。したければ、しっかり自分の分の墓穴も掘って、そこに埋まってください。
まぁ、呪いは法で罰せられなくても、虫入りのお菓子を無断で食べさせたらなんらかの罪にはなるでしょうから、犯罪者になりたくなければ絶対にやめてください。
次回も、なんか笑える霊体験スレが元ネタの話です。
今度はちゃんと、笑える元ネタです。




