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1:今朝の話

 今日さ、時間があったから2丁目のコンビニに寄ってから学校に行ったんだ。


 で、あのコンビニのすぐそばの横断歩道でこの間、事故があったじゃん。

 ほら、飲酒運転の車が横断歩道を歩いてたOLさん引っ掛けて、2キロも引きずって死なせたって事故。


 信号のすぐ下の枯れた花束を見たらそれを嫌でも思い出しちゃって、「かわいそうだな」って思っちゃったんだよ。っていうか、思うじゃん!


 ……それが、悪かったんだよなー。

 いきなり耳元で、「かわいそうでしよ?」って囁かれたのは、久々にびっくりしたわー。


 目だけを自分の肩に向けて背中の方を見てみると、いるんだよ。

 右半身が引きずられて、ズタボロになった血まみれの女が、俺の背中にしがみついてた。


 んで、そいつは俺にずっと言うんだ。

「私、かわいそうでしょ?

 何にも悪いことしてないのに、信号だって守ってたのに、どうしてこんな死に方をしなくちゃいけないの?」って。


 気持ちはわかるけど、知るか! ってのが正直な俺の感想だけど、かわいそうだと思ってるのも事実だからどうしても正直な感想は言えなくて、でも同情したらもっとヤバくなるのも経験上わかってたからひたすら無視して学校に行ったんだ。


 ……ほんと、はじめに同情しなきゃ良かったよ。

 その女の霊、まだ死んで一月もたってないのに思ったより強い悪霊だった。


 だって、周りの生きた普通の人間も、自分に見せるとかやってきやがったし。

 ふと前を見たら、背中にしがみついてるはずの半分ズル剥けグロ幽霊が前からスタスタと歩いてきたから、危うく悲鳴をあげるところだったわ。


 そんで背中の女も、前からやってくる女も、後ろから追い越す女も、口々に「私、かわいそうでしょ?こんな姿になって、何にも悪くないのに、一人で死ぬなんて、かわいそうでしょ?」とか言い続けて、俺に同情を求めてくるんだ。


 もう俺には周囲の女が全部幻なのか、それともまた変な空間に迷い込んだのかもわからなかったけど、とりあえず風景はいつもの通学路だったから、やっぱりひたすら無視で進んだんだ。


 進んで、後悔した。

 二丁目のコンビニから学校に最短距離で向かうと、踏み切りを渡らなくちゃいけないことをすっかり忘れてたよ。


 そして運悪く、丁度踏み切りが下りたタイミングで、俺は踏み切りの前まで来ちゃってさー。

 俺を囲んでるのは、電車が通り過ぎるのを待つサラリーマンや同じ学校の生徒だってことは頭ではわかってるんだけど、俺の目にはグロい幽霊にしかみえなかったから、俺は目を閉じてひたすら踏み切りが上がるのを待ってたよ。


 そしたら、幽霊のセリフが急にエンドレス「かわいそうでしょ?」から、別のセリフに変わったんだ。

「寂しいの」って。


 そう言われた瞬間、俺の体は指一本動かなくなった。

 金縛りまで使ってくんのかよこいつ、って思える余裕があったのは2秒くらいだったかな。


 背中におぶさってしがみついてたのが離れると同時に洒落ならない気配がしても、余裕があるのはあいつくらいだよ。

 ほら、あれ。目を瞑っていても、眉間に指を近づけられたら、なんか圧迫感みたいなのを感じるだろ?

 あ、わかんないか。

 まぁ、それの超すごい版みたいなのを背中に感じて、思ったんだ。


 あ、こいつ突き飛ばす気だ、って。


 何か一周回って冷静になった俺が、そんな未来予想図を浮かべると同時にあの幽霊は勝手に語りだしてたな。

「寂しいの。生きてた頃も一人だったのにこんな死に方をして、独りきりは嫌なの。もう、独りは嫌なの」とか言ってた。


 もう背中にしがみついていない、むしろ突き飛ばそうとしてるんだから、少しは距離があるはずなのに、そう言った声はやけに近く感じたなー。


 そんなん知るかアホー! って叫びたかったけど、絶賛金縛り中の俺が言えるわけもなく、一周回った冷静さも吹っ飛んで、もうひたすらどうしようどうしようってパニくったわ。

 いやー、こういう状況には慣れたつもりだったけど、全然慣れてねーな、俺。


 で、後ろの嫌な圧迫感がさらに増して、風船が割れる直前みたいな嫌なの感じがしてきたと同時に聞こえたんだ。


「ねぇ、死んで」


 そんな声が、鼓膜の内側から聞こえてきたかと思うくらい、囁きなのにはっきりと聞こえたんだけど、突き飛ばす手の感触とか衝撃は来なかった。


 代わりに、もはや聞き慣れたスプレーの中身を発射させたブシュッ! って音と、同じく嗅ぎ慣れた昼寝したくなるようなお日さまの匂いがしたんだ。


「何してるの、ソーキさん」って、いつもの淡々とした声が聞こえた時には、金縛りは解けてたな。

 目を開けたら、視界も元に戻ってた。

 振り向いたらグロい幽霊がまだいたけど、踏み切り待ちの人達は普通の人間に戻ってたし、何より幽霊の後ろには羽柴がいた。


 知ってるだろ? 羽柴(はしば)れんげ。

 詳しく話すのは初めてか。


 羽柴は俺の……何て言えばいいんだろう?

 幼馴染って言うにはまだ付き合いは短いし、友達って言うには女子だからなーんか恥ずかしいんだよな。

 一番しっくりくる関係は、「霊感仲間」か。

 そういう関係のあいつが、いつもの無表情で立ってたんだ。


 羽柴はチラッと、お日さまの香り付き消臭剤をぶっかけられて唖然としてる幽霊を見てから、俺に言ったよ。


「ソーキさん。霊に同情しないほうが良いって言ったでしょ?

 特にこいつは、する価値ないよ。犯人も捕まって供養もされてる、土地に縛られてもないのに死んだ場所に留まってる奴は、構って欲しいだけのワガママなんだから」


 そんなこと言いつつ、もっかい羽柴は周りの人の「何やってんの、この子?」と言いたげな引いた視線をもろともせず、幽霊に向かって消臭剤をぶっかけてた。

 幽霊の顔が唖然からガチギレに変わったのは、言葉のせいか消臭剤のせいかは、俺は知らん。

 ともかく、幽霊は人間よりも般若に近い顔になって羽柴に叫んでた。


「お前に何がわかる!?」って。


「お前がかわいそうなんかじゃないことだけはわかる。

 邪魔。消えて」


 羽柴は即答でそう言って、幽霊に前蹴りかましやがったよ。

 しかもいいタイミングで、電車が通過。

 羽柴のヤクザキックで踏み切りに突き飛ばされた幽霊は、そのまま電車に轢かれて、俺は反応に困った。


「次、ソーキさんにつきまとったら、地獄に落とす」

 横の羽柴のセリフにも、反応に困った。


 列車が通り過ぎたらもう幽霊はそこにはいなかった。

 もう一回死ぬわけはないから、たぶん羽柴の慣れ切った躊躇のないぶっ飛んだ行動についていけなくなって逃げたんだろうな。


 んで、いつものことながらボーゼンとただ羽柴のやらかすことを眺めてるだけだった俺に羽柴は、これまたいつものように、「ソーキさん、大丈夫?」って淡々とだけど心配をしてくれて、気まずかったなぁ。

 だって俺、いつものことだと言われたらそうだけど、なーんもしてないから。


 俺は霊ホイホイな体質だからあんまり事故現場とか行くなって言われてるのに、のこのこ行って、同情するなって何度も言われたのに同情して、自分で引っ掛けておいて、危ない目にあって、尻拭いは全部、羽柴まかせ。



 ……好きな女の子に俺、守られてばっかなんだよなぁ。


 サイテーだよな、俺。

 羽柴に、いつもの迷惑かけてばっかでごめんとしか言えなかったし、謝る以外のことができなかったよ。


 ……でも、羽柴はそっぽ向いて、いつものクールな無表情だったけど、言ってくれたんだ。


「迷惑なんかじゃない。

 ……ただ、心配させないで」って。


 それを聞いて、誓ったよ。

 ……中学に上がってクラスが別になって話す機会が激減したから、また霊に取り憑かれたら話すきっかけになるかなーと思って、わざと羽柴の忠告を破りまくったのは一生の秘密にしようって。



 * * *



『…………うん。それは生涯、隠し通しなさい。このバカ』


 突発的に書きたくなった、ホラー?短編集。

 トラウマクラッシュ時々、トラウマメイカーをコンセプトに、タイトル通り100話を目指します。


 次回もホラークラッシュ回です。

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