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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

「傾国の血」と捨てられた第三王子。残念ながら死の舞踏を踊るのは貴方たちです。

作者: きゅーび
掲載日:2026/02/16

「――第三王子イグナシオ。今こそ王宮の秩序を正すべき時が来た。

 素性も知れぬ踊り子の血を引く者が、この神聖なる玉座の近くに侍る不遜……今日この時をもって終わらせてやろう!」


 第一王子は興奮のあまり頬を紅潮させ、声は僅かに震えていた。

 その傍ら。玉座に座り、嘲りと歓喜に濁った視線を向けてくるのは王妃ヴァルトレアだ。

 口元を隠していた繊細な金細工の扇をパチリっと閉じる。それは断罪を告げる槌のように広間に響いた。


「イグナシオ、……貴方には最前線、『灰鉄の砦』へ向かってもらいます。

 二度とその『傾国』の血をひく顔を我らの前に晒さすことまかりなりません、即刻立ち去りなさい」


 イグナシオはゆっくりと顔をあげた。

 齢15歳となるイグナシオは、傾国の美姫と呼ばれた母の血を存分に受け継いでおり、面を晒すだけで周囲が思わず息を飲む。

 その肌は王都では滅多にみない褐色、髪もまた不吉とされる夜に夜を重ねたような漆黒だ。

 だがそのブルーダイヤのような瞳は、確かに彼が王家の血を引いている事を告げている。

 王妃は忌々し気にその瞳を睨みつけたが、イグナシオはまるで凪いだ湖面のようにその憎しみを受け止める。


「……仰せのままに。父上の病状が、一日も早く快方に向かうことを、誰よりも願っております」


 イグナシオは立ち上がると、大広間を立ち去っていく。

 ここには王妃の独断を非難する者もいなければ、イグナシオを呼び止める者もいない。それがこの国の答えだった。

 だがイグナシオの足取りはとうてい敗者のものではなく、優雅に、まるで舞いを踊るようなしなやかさだ。

 なぜならばイグナシオは知っている。本当に舞を踊るのは彼らの方だと。

 それはあまりにも美しく残酷な、死の舞踏であることを――。





【10年前】

 死んだ母は、傾国と呼ばれた美貌に反してたいそう強かな人だった。

 母は自分亡き後にイグナシオがどのような扱いを受けるか全て予期していたのだろう。

 彼女は持てるすべてを愛しい息子に教え込んだ。

 人を操る視線の送り方、鮮やかな舞踏、そして一族に受け継がれてきた『呪われた血の秘術』も。


 王宮の喧騒が遠く響く、月明かりの裏庭。

 イグナシオは、石造りのベンチの影に身を潜め、白い呼気を散らし震えていた。

 母を亡くしてから一年。

 かつて「王の寵愛を独占した踊り子」あるいは「傾国の美姫」と囁かれた母の威光は、今は微塵も残っていない。寝所は厩の近くにまで追いやられ、着せられているのは、ぶかぶかの色褪せたシャツのみだった。


「おい、隠れてないで出てこいよ。踊り子の小汚い種が!」


 隠れた獲物を狩ろうとする、荒い罵声がしじまに響く。

 第一王子エドワードと、第二王子マルクス。

 腹違いの兄たちは、今夜の晩餐会で酒が入っているらしい。飲み過ぎてはいけないと強く言い渡されているにも関わらず、夜会のたびに貴族たちに無理を言って酒を持ち込ませ、浴びるようにあおるのだ。

 お陰で二人は、まだ10歳そこそこだと言うのに頬は常にむくんだ赤ら顔をしており、腹の肉も緩んでいる。

 そんな彼らにとって、見目の良いイグナシオを虐めるのは何よりも愉しい娯楽だった。


「おい! 見つけたぞ! こんな所に隠れていやがった!」


 ガサリっと藪を掻き分け、エドワードが顔を出す。すぐさま、マルクスも顔を出し、イグナシオは大きく息を飲んだ。


「……兄上、どうかお許しください。僕はただ、母様の形見を探していただけで……」


 イグナシオはペンダントを握りしめながら、涙目になって訴えた。

 だが本当は、……それは真っ赤な嘘だった。母の形見など何一つ手元に残ってはいない。

 髪飾りも指輪もネックレスも。母が触れたもの全ては、王妃が炉にくべて焼き払い、すべて灰にしてしまったのだ。

 だが兄たちがそれを知る筈はない。あるいは耳にした事があったとて、すぐに忘れてしまっただろう。

 イグナシオの言葉に、兄たちは”弟を虐める手段が増えた”と思い込んで歓喜する。


「おい、そのペンダントをよこせ!」

「やめてッ!!」


 イグナシオは悲痛の声をあげると、ポケットに隠しておいた腐りかけの果実を投げつける。

 それは見事にエドワードの顔面を直撃した。


「てめぇ! 許さねぇ!!」

「殺してやる!!」


 エドワードとマルクスは激高し、すぐさま殴りかかってきた。

 だがイグナシオは母から教わったステップで彼らの腕を掻い潜る。

 踊るように、軽やかに。

 そうして、隙をついてぱっと垣根へ向かって逃げ出した。


「待てこの野郎!」


 迫る怒声を聞きながら、イグナシオは『血の秘術』に、……血を注いだ傀儡に問いかける。


(ロロ、父上の場所は?)


 傀儡は言葉では答えない。だが感覚を共有する。

 人よりも遥かに低い視点。色彩は濁って抜け落ち、靄がかかったように曖昧だ。しかし、音と匂いは視界より饒舌に周囲の状況を物語る。


(――見つけた。垣根を左に抜けた先、……すぐ、目の前!)


 イグナシオは垣根から飛び出した瞬間、きらびやかな光景が飛び込んでくる。

 着飾った貴族たち、テーブルの上には贅を尽くした料理が所せましと並べられ、今まさに演奏を開始しようとした楽団の目の前にイグナシオは足をもつれさせたふりをして転がった。

 まさにその瞬間、垣根から顔を出したエドワードが、腐った果実を勢いよく放り投げ、……それはつい先ほどまでイグナシオがいた場所を通過し、パーティの主役である国王にぶつかった。

 貴族たちが一斉に息を飲み、護衛騎士が剣を抜き払う。

 凍り付く空気の中、声をあげたのはイグナシオだった。


「父上、畏れながら、発言をお許し下さいッ!! 申し訳ありません。僕が兄上から逃げたばっかりに、父上に果実が当たってしまいました!」


 イグナシオはブルーダイヤのような青い瞳を涙の煌めきで色どり、声を震わせながら訴えた。

 やせ細った手足に薄汚れたシャツ、それすらもいまのイグナシオには憐れな第三王子を演出する小道具に過ぎない。

 月明りを浴びて、頬を濡らすイグナシオに、国王は彼が愛した美姫の面影を感じ取る。


「おお、憐れなイグナシオ。お前はなぜそんなに痩せているのだ?」


 国王は自らの服が汚れるのも厭わずに屈みこむと、イグナシオの身体を抱き上げる。

 そうしてエドワードとマルクスを睨みつけた。


「お前たち、弟に対して何をしている! 挙句、この私に果実を投げつけるとは!」

「お待ちください国王、彼らは悪気があった訳では」


 慌てて割って入ったのは王妃だった。だが国王は王妃にも冷ややかな視線を投げかける。


「お前もだ。イグナシオの養育はお前に一任していた筈だ。だがこの様をみろ! ろくに食事もとっていないばかりか、服も与えていないとは!」


 怒りを露わにする国王の腕の中で、イグナシオは青い目を鈍く光らせていた。


(お前も同じだ。正妃をないがしろにし、妾妃に溺れればその先がどうなるか考えもしないのか?)


 浅はかさは罪だ。それが権力を持った者であれば大罪だ。

 だが、イグナシオを救ったのもまた、王の浅はかさによるものだ。


(まぁいいさ。これでしばらくはまともな暮らしが出来るだろう。その間に、――反逆の牙を研ぐ。)





 イグナシオが母から譲り受けた『呪われた血の秘術』、それは”死者を操る”というものだった。

 死にゆくものに、十分なだけの血液を与えることで、死後その遺体を不滅の兵として使役することが出来る。

 ただ、幼いイグナシオにとって、彼自身の血で使役できる対象はあまりにも限られていた。

 イグナシオが目をつけたのは、部屋のすみで死にかけていたネズミだった。

 たかがネズミ一匹、それは畏るるに足らぬ存在だ。

 ――ただの、ネズミであったならば。


 そのネズミは『血の秘術』によって不滅の体を手に入れた。

 イグナシオはネズミを『ロロ』と名づけると、城の地下に潜む他のネズミたちを少しずつ、少しずつ食らっていった。

 『血の秘術』で蘇った死体は、殺した相手の死肉を食らうことで強化される。

 最初は、一匹を殺すことすら難しく、死にかけた個体を貪って僅かずつ力を蓄えた。

 十匹も食らうころには、ロロは他のネズミを圧倒するほどに強くなった。

 そこからは、一方的な蹂躙だ。

 なにせネズミは山ほどいる。

 食らっても食らっても、後から後から湧いてくる。

 食らって、食らって、食らって、城のネズミを全て食らい尽くすころには、ロロは外見こそネズミだが、その強さは騎士団がたばになってかかっても苦戦するほど凶悪な力を手にしていた。

 一匹目の育成に成功したイグナシオは、茶番劇を演じることでエドワードとマルクスを出し抜いた。

 だがイグナシオはそれが束の間の安寧であると分かっていた。

 故に、二匹目、三匹目と配下のネズミを増やしていき、餌場も城の地下から城下町へと拡げていった。


 イグナシオがじっくりと牙を研ぐ傍らで、王国は意外な恩恵を享受していた。

 ネズミがどんどん減っていく。

 それは食糧庫の食料を守るだけでなく、ネズミが齧ることによって床や梁が浸食され建物が崩壊することも激減した。

 家畜や赤子が齧られることもなくなったし、なによりも、恐ろしい病が蔓延することが減ったのだ。


 一部の賢明な知識人はその異常性を必死に説いていたものの、ただの杞憂だと一笑された。

 王国の平和を謳歌する人々にとって、足元の、薄暗い闇の中の出来事など、知りたくもないことだった。






【現在】

 王城を出たイグナシオは、罪人を運ぶ鉄の棺のような馬車に乗せられ、『灰鉄の砦』へと向かっていた。

 さび付いた車輪はギィギィと耳障りな音をたてており、中は狭く、そして凍えるように寒く、まさに棺桶のありようだ。

 『灰鉄の砦』、それは王国の最北端に位置し、隣接する国家との境として長らく血で血を洗う争いが繰り広げられてきた場所だった。

 貴族出身の騎士たちは『灰鉄の砦』への配属を拒み、平民出身の騎士たちも派遣されてもすぐに戦で、あるいは過酷な環境によって死んでいく。

 万年の戦力不足に悩んだ王国は、罪人たちを送り込み、兵役をこなす役目を押し付けた。

 当然、治安は最悪だ。

 かつて存在した城下町は、いまは僅かな面影のみを残しており、砦自体が牢獄そのものになっている。

 吹きすさぶ風に針葉樹は歪んで育ち、空気にはつねに硝煙と焦げた、あるいは腐った肉の臭いが混ざっている。

 馬丁は、こんな場所でおろされたイグナシオがすぐにでも泣き出すのではないかと思っていた。

 だがイグナシオの顔に浮かんだのは、北風より底冷えのする笑みだった。


「灰鉄の砦、罪人の檻。いいじゃないか、これ以上ないほど、俺に相応しい舞台だな」


 歌うように言いながら進むイグナシオ。

 その前に立ちはだかったのは、砦を任されている巨躯の男、ヴォルフガングだった。

 まるで大岩のような身体はただそこにいるだけで暴力的な威圧感を放っている。雪焼けした浅黒い肌には無数の傷跡が刻まれており、城にいる貴族たちなどは出会っただけで尻もちをついてしまいそうな風貌だ。


「貴様が第三王子のイグナシオか」


 ヴォルフガングは地響きのような声で言い放った。

 そこには王族に対する尊敬の念は小指の先ほどすらも見当たらない。

 彼の目に映っているのは、厄介払いされた世間知らずのガキだった。


「この砦で生き残りたかったら、部屋に閉じこもって鍵をかけて一切顔を出さないことだ。俺はお前がのたれ死のうが、囚人どもの慰みものにされようが、一切助けてやるつもりはない。

 ここでは、役立たずに慈悲をかける余裕などないからな」


 ヴォルフガングもまた馬丁と同じようにイグナシオが泣き出すだろうと思っていた。

 だがイグナシオは、ブルーダイヤの瞳でまっすぐにヴォルフガングに見つめて返す。


「では、役立たずではないと証明しよう」

「なんだと?」

「三日、……三日でいい。その間に敵軍を撤退させてみせよう。三日で敵が撤退しなければ、あなたの忠告を聞き入れる。だが、三日後、敵軍が撤退していれば、貴方は膝を折って俺に忠誠を示すんだ」


 イグナシオの不遜な言葉を受け、ヴォルフガングは思わず固まった。

 そして次の瞬間には、空気を震わせ地を這うような哄笑を轟かす。


「いいだろう!やれるものならやってみろ! だが三日後、敵が一人でも残っていれば、忠告を聞き入れるだけではすまさない。貴様が俺の足元に頭を垂れ、生意気を言ったことを謝罪しろ」

「……喜んで」


 イグナシオは優雅な笑みを浮かべてみせた。





 二日後。

 ヴォルフガングは度重なる不可解な報告により、戸惑いと苛立ちに揺れていた。

 前線が異常なほど静か過ぎる。

 普段であれば、陽が昇るとともに砦に詰めかける兵たちが、今日はどういう訳か大人しい。

 大人しいが、……不穏な空気に満ちている。

 砦の物見塔からは、敵の前哨基地が森の合間にわずかに見える。普段ならば基地のあちこちで炊事や鍛冶のための煙があがっているはずだ。

 だが、今日はそれすらもない。

 そのくせ、伝令の兵はせわしなく動き回っており、何か予期せぬ事態が進行していることが窺えた。

 気に食わない。こんな事は初めてだった。

 それがあの、イグナシオという青年が現われてからの事なのだ。

 まさか、とヴォルフガングは息を飲む。

 あの青年、敵軍と密通しているのではなかろうか。

 だから不遜な態度をとり、ヴォルフガングの行動をけん制するような真似をした。

 それならば全て説明がつく。

 ヴォルフガングは低く獣じみた唸り声をあげると、すぐさまイグナシオの部屋へ突撃した。


「ノックくらいはするものじゃないか?」


 頭から湯気でも出しそうなヴォルフガングを前に、イグナシオはお道化けた顔をする。

 その様子に、ヴォルフガングの中で何かが切れた。大股で歩みよるとその細い首を片手で捕まえる。

 そのまま、強引に持ち上げようとした刹那、すさまじい悪寒に襲われた。


「ああ、……大丈夫だ、ロロ。これはきっと彼なりの挨拶なんだよ」


 イグナシオは笑うと首に絡んだヴォルフガングの手を丁寧に振りほどいた。

 ヴォルフガングは息を殺して固まっていた。自分の足が、意思とは無関係に凍り付く。

 それは彼の長い戦場生活の中でも初めて感じる類の恐怖だった。


 ――影が、動いている。


 イグナシオの背後。松明を光源に室内に落ちる青年の影。

 その影が不気味に蠢いているのだ。

 いや影ではない。

 それは、意思をもった禍。

 それは青年の足元で血のように赤い目を爛々と輝かせている。


「なんだ、それは?」


 ヴォルフガングは喉がからからに乾いていくのを感じながら問いかけた。


「見ての通り、これは俺の影だよ。俺に逆らわない限り、影がお前を襲うことはない」

「影、だと? その影でいったい何をした?」

「なに、簡単なことだよ。敵陣の食料をすべて食い尽くしてやったのさ。干し肉に小麦、飼い葉から薬草まで残さずこぼさず、一つ残らず平らげた。

 そうそう、勿論、水も一滴残らずすべて彼らの腹の中だ。水筒も食い破ってやったから補充をするのも無理だろう。

 さて、兵糧がすべて食い尽くされた軍隊は、いったいどれくらい持つだろうね?」


 ヴォルフガングはぎりぎりと軋む音が響くほど、奥歯を強く噛みしめた。

 三日だ。確かにそれは三日だろう。

 食料、なによりも水。

 それがなくなって耐えきれるのはせいぜい三日。撤退も視野にいれるのならば、現時点でデッドラインを超えている。


 でまかせだ。


 笑おうとして声がうまく出なかった。

 ヴォルフガングはすでに本能で悟っていた。戦士としての本能が、本当に危険な相手を嗅ぎ分ける。


「明日で三日だ。君が膝を折ることになるかどうか楽しみだ」


 笑うイグナシオにヴォルフガングは低く唸る。


「三日もいらねぇ。今、この場で十分だ」


 ヴォルフガングは頭を垂れて膝をつく。

 敗北に甘んじる将としての行為ではない。敬意と、心胆が凍り付くような畏怖。

 だがヴォルフガングは今にも笑い出してしまいたくなるほどに、晴れ晴れとした気分だった。

 優れた将は覇道を見る。青年の行く先にはそれが見えた。


「ヴォルフガング、君の忠誠を受け入れよう」


 イグナシオはこの上もなく満足げに微笑んだ。

 ――そして、翌朝。

 敵軍は一兵残らず、砦の前から消えていた。






 イグナシオは『灰鉄の砦』の軍議室で優雅に足を組んでいた。

 敵陣を敗走せしめたネズミたちが、砦に潜むネズミたちを一匹残らず駆逐したことで、砦の生活は驚くほどに向上した。

 食料は荒らされず、負傷兵が足を齧られることもない。

 井戸の水は以前よりはるかに綺麗になり、深夜にネズミたちが駆け回る足音で睡眠を妨げられることもなくなった。

 以前は火を焚くための薪すらも齧られていたが、今はあちこちで赤々と炎が燃え寒さに凍えることもない。


 一方で、王都は崩壊の危機に瀕していた。

 おおよそ10年、ネズミの被害を免れてきた王国の社会基盤となる多くの設備は、あまりにも杜撰で脆弱だった。

 天敵がいなくなったと気付いたネズミたちが押し寄せて、王国をその基盤ごと食い荒らし、王城もあちらこちらで床が抜け、柱が倒れ、目に見えての崩壊がはじまった。

 王城も、街のいかなる場所でも、ネズミたちが食い荒らす音が四六時中響いており、皆、気が狂う寸前になっている。


 あと少し。

 カタストロフィ(破局的な結末)の秒読みは始まっている。

 イグナシオを追放したときから、彼らは死の舞踏を踊らされていたのだった。


「さてと、どうしようかね?」


 王都が危機に瀕したときに、次に差す一手はどうすべきか。


 『灰鉄の砦』の狂犬たちを引き連れて、思う様に蹂躙する。

 無様に滅びゆく様を、ただ眺めるのもいいだろう。


「……お望みのままに、我が主。我が剣も、ここの荒くれどもも、あんたの一言で王都の門を叩き壊す準備はできている」


 イグナシオの傍らでは、ヴォルフガングが主を守る番犬として石像のように膝をついている。

 そして、かつての囚人たちは、今は主にのみ忠実な犬として皆が頭を垂れている。

 恐怖だけでは成しえない、羨望、あるいは狂信だ。


 そうして、傾国の血を引く青年は、文字通りに国を傾ける。





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― 新着の感想 ―
非常に面白いお話でした。これは連載で読みたいですね。ありがとうございました。
王様、王妃に遅効性の毒で毒殺されようとしてるんじゃないだろうか
いつも作品を楽しく拝読しております。 本作、読み切りとしての完成度、本当に素晴らしいです。 主人公イグナシオの、自らの異能をどこまでも残酷かつ現実的に使いこなす機転と、迷いのない行動力に強く惹きつけら…
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