『その縄、魔法につき。〜十九歳の縛術師は、殺さずの技術で乱世を縛り上げる〜』第3話 城からの招き
力を持つ者は、
従うべきか、抗うべきか。
第3話では、
リオネルの「縛る力」が、
ついに王権の前に差し出されます。
彼は英雄でも反逆者でもありません。
ただ、自分の選択を曲げない青年です。
その姿が、
この国に何をもたらすのか――
物語は、ここから大きく動き始めます。
翌朝、城下町の空気はどこか張りつめていた。
通りの先に、騎士の姿が見える。
それだけで、人々は道を譲り、声を潜めた。
「……来ましたか」
リオネルは宿の窓からそれを見下ろし、静かにつぶやいた。
予想はしていた。
あれだけ派手にやれば、放っておかれるはずがない。
ほどなく、扉が叩かれる。
「リオネル殿。騎士団より正式な要請だ」
「城まで同行していただきたい」
拒否権は、ない。
その言い方がすべてを物語っていた。
「分かりました」
リオネルは縄を肩にかけ、部屋を出る。
その背中に、宿の主人が不安そうな視線を向けていた。
*
王城は、高かった。
石造りの門、広い中庭、整然と並ぶ衛兵たち。
どれもが、彼にとっては馴染みのない光景だ。
「……本当に、場違いですね」
思わず漏れた独り言に、先導していた騎士が眉をひそめる。
「貴様が呼ばれた理由は分かっているな」
「ええ。縄を振り回したせいでしょう」
「ふざけているのか」
「いいえ。事実ですから」
それ以上、会話はなかった。
*
謁見の間は、静まり返っていた。
玉座の前に立たされ、リオネルはゆっくりと周囲を見渡す。
重臣たちの視線。
警戒、好奇、そしてわずかな期待。
「――そなたが、例の縄使いか」
低く、威厳ある声。
王だ。
「名を名乗れ」
「リオネルと申します」
「年は」
「十九です」
ざわ、と空気が揺れた。
若すぎる――その反応が、はっきり伝わってくる。
「報告では、騎士を無力化しながら、一人も殺さなかったそうだな」
「はい」
「なぜだ」
即答を求める問いだった。
リオネルは一瞬だけ考え、顔を上げる。
「殺す理由が、見当たらなかったからです」
沈黙。
重臣の一人が、苛立ちを隠さずに言った。
「甘い! 力を持つ者が情けをかければ、国は乱れる!」
「殺さなかったのは、慢心ではないのか!」
リオネルは、その声を真正面から受け止めた。
「力を持っているからこそ、選べると思っています」
「縛るか、斬るか。その違いです」
再び、静寂。
王はしばらく彼を見つめ、やがて言った。
「……面白い」
その一言に、場の空気が変わる。
「リオネル。そなたの力、国のために使う気はあるか」
それは、招きであり――試練だった。
「条件があります」
「申せ」
「命を奪う命令には、従えません」
重臣たちが色めき立つ。
だが、王は手を上げ、それを制した。
「よい」
「そなたの流儀のまま、見せてみよ」
その瞬間、リオネルは理解した。
ここからが、本当の始まりなのだと。
*
城を出たとき、昼の光が眩しかった。
「……やれやれ」
大きく息を吐き、肩の縄を見下ろす。
「また、厄介なことになりましたね」
だが、不思議と後悔はなかった。
遠く、城下町の方角に、見覚えのある淡い外套が見えた気がした。
――フィアだ。
彼女はまだ、こちらには気づいていない。
リオネルは小さく笑い、歩き出した。
縄を手に、
殺さない選択を抱えたまま。
第3話をお読みいただき、ありがとうございます。
王からの招きは、栄誉であると同時に試練です。
リオネルは従属を選ばず、しかし逃げることもしませんでした。
「力を持っているからこそ、選べる」
この考え方は、この世界では決して主流ではありません。
だからこそ、彼の存在は波紋を広げていきます。
そして最後に、フィアの気配。
彼女はまだ物語の中心にはいませんが、
確実にリオネルの選択を見つめる存在となっていきます。
次話では、
王の試練が具体的な形となり、
リオネルの「縛術」が真価を問われることになるでしょう。
引き続き、お付き合いいただければ幸いです。




