表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デリヘル怪談 ▓▓恵美さんを探しています  作者: 瘴気領域


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/108

第85話 侍幽霊

 女の子から聞いた話だ。

 この仕事を始めたばかりの頃、毎晩悪夢にうなされることがあったという。


 枕元に侍の幽霊が出るのだ。

 幽霊は立派な(かみしも)を身にまとい、きれいに整ったちょんまげをしている。しかし、頬はやつれて目は落ち窪んで隈がひどく、肌は蒼白で明らかに生きた人間のそれではなかった。

 ベッドで横になるたびにその侍が、


〈ああ悔しや 恥ずかしや 情けなや なぜ遊女などに落ちるのだ……〉


 とずっと呟くのである。

 その間は金縛りにあっており、とても眠った気になれず疲れも取れない。

 とある占い師に相談したところ、それは先祖の霊ではないかという。子孫が風俗嬢になったことを嘆いているのだろうと。

 そんなことを言われても、彼女だって事情があってこの仕事に就いたのだ。

 はいそうですかとやめられるわけではない。

 それならせめて供養をしなさいとアドバイスをされた。


 侍の格好をしているから、きっと何百年も昔の人だろう。しかし、実家の墓は新しく、とてもそんなに古くからあるものとは思えない。

 そこで彼女は思い出した。

 子供の頃に、祖母から先祖の話を少し聞いたことがあった。おぼろげな記憶をたどると、そういえば先祖は武士だったと話していた気がする。


 さっそく祖母に電話をして確認すると、確かに先祖は武士だったようだ。それも上級武士であり、千石だか二千石だかもらっていたらしい。

 きっとその先祖の仕業だろう。お墓参りをしてみたいから場所を聞くと、

『供養なんかしなくていいよ!』

 と吐き捨てるように言われた。


 あまりの剣幕にびっくりして理由を尋ねると、

『ご一新のときにね、博打みたいな投機に手を出して身を持ち崩したんだよ。お向かいの■■さんの畑もね、裏の■■さんの山もね、本当はぜんぶうちのもんだったんだよ。それをあいつが台無しにしちまったのさ』


 祖母も生まれていない頃の出来事だろうに、まるで見てきたように悪口を連ねる。

 どうしてそんなに嫌いなのかと聞くと、


『若い頃にね、夢枕に立たれたんだよ。うちはスナックやってたろ? それで毎晩毎晩恥ずかしいだの情けないだのぐちぐち。そのうち腹が立ってね。バカヤロー! うちが落ちぶれたのはてめえのせいだろうがっ! って怒鳴ってやってね。それから出なくなってね。甲斐性なしの上に肝っ玉も小せえんだよ、あの野郎』


 それを聞いて、彼女もその日に試してみた。

 夢枕に立った侍に思いつく限りの罵倒を浴びせたのだ。

 彼女がこの仕事を始めたのは経済的な理由である。この先祖がしっかりしていれば、自分も左うちわのお嬢様だったかもしれないのだ。そう考えるとだんだん本気で腹が立ってきて、いくらでも悪口が溢れ出てきた。


 すると侍は落ち窪んだ目を丸くして、それから泣きそうな顔になり、やがてしおしおと萎むように消えていった。

 それっきり、侍の幽霊が枕元に立つことはなくなったそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ