第82話 ロフト
女の子から聞いた話。
客先にロフトがあった。ハシゴが取り外されており、見上げると荷物が乱雑に詰め込まれている。
「ロフトあるのに使わないの?」と彼女は尋ねた。
ロフトに憧れがあり、次の引っ越し先はロフト付きにしようと考えていたところだったのだ。
「ロフトねえ。俺も最初はいいなと思ってたんだけど、実際住んでみるとダメダメだよ」
曰く、夏になると熱が籠もって異常に熱い。そうでなくても狭くて寝苦しい。起き抜けに頭をぶつける。掃除がしにくい。そもそも上り下りが面倒……などなど。使いづらくてしょうがなく、一ヶ月と経たないうちに収納スペースになったのだそうだ。
しかし、そう言われても憧れが捨てきれない。
男に頼んでハシゴを出してもらい、ロフトを覗かせてもらうことにした。
わくわくしながらハシゴを登る。秘密基地みたいで楽しそうじゃないか。多少の不便なんて気にしない。そう思いながらロフトの上に顔を覗かせる。
それと目が合った。
それは炭を固めたみたいに真っ黒で。
天井から垂れ下がるように生えていて。
左右の大きさがばらばらの目玉はくすんだ黄色に燃えていて。
その中には針でついたような無数の瞳。
それはぶるりと体を震わせて。
逆再生みたいに天井に吸い込まれて姿を消した。
「ね、別に面白くも何ともないでしょ?」
足元から声をかけられて、はっと我に返った。
ロフトには雑然と荷物が散らかっているだけで、他には何もない。黒い何かが消えていった天井を見ても、とくに変わった様子はない。
「う、うん。何もなかったよ」
彼女はロフトに上がらず、ハシゴを降りた。
その後、彼女の物件探しでは「ロフトなし」が必須の条件になったそうだ。




