第78話 ヒトプラセンタ
待機所での話。
こんな商売なものだから、美容関連のアイテムにはこだわる子が多い。
「えへへ、買っちゃった~」
その子が嬉しそうに自慢していたのは、仰々しい毛筆書体で「紫河車」と書かれたチューブ入りの化粧品だった。たぶんフェイスクリームだろう。
「なにそれ? なんて読むの?」と誰かが尋ねると、
「しかしゃ、だって。ヒトプラセンタなんだよー。すごいでしょ?」
「ええー、それって病院じゃないと扱えないって聞いたよ」
「うん、だから個人輸入」
「すごーい!」
プラセンタとは胎盤のこと。つまり人間の胎盤から作った化粧品ってことだ。
もう一人の子が言った通り、日本では医療機関でしか扱えないことになっている。材料は産婦人科から調達するそうで、出産時に剥がれ落ちた胎盤を利用している。妊婦に無断で採取されてしまっていることもあるらしい。
日本では超のつく希少品だが、一部の途上国では大量に作られているという噂もある。一体どうやって原材料を確保しているのかは想像したくもない。
よくそんなものを使う気になれるなと思うが、彼女たちは気にしないようだ。まあ、私はウマやブタのプラセンタを使った化粧品にも抵抗があるので、気にし過ぎなのかもしれないが。
それから何日かして、
「もう最悪! 絶対に訴えてやるんだから!」
彼女が大声で愚痴を言っていた。
「どうしたの?」と尋ねると、
「見てよこれ!」と右の頬を突き出してくる。
そこには、奇妙な形の吹き出物ができていた。
親指の先よりも一回り大きく、吹き出物というよりもはや瘤だった。
「絶対あの化粧品のせいだよ。すごく高かったのに。あー、ムカつく! 偽物の粗悪品なんて売りつけやがって!」
彼女はそう続けたが、私の考えではあれはおそらく本物だと思う。
なぜならその瘤は、まるで妊娠初期の胎児のような形をしていたから。
化粧品の使用をやめると、一ヶ月ほどでその瘤は跡形もなく消えていた。
それから間もなく、彼女はまた別の国のヒトプラセンタを見つけたと喜んでいた。




