第71話 名探偵きらり
待機所では盗難がよく起きる。
自分が働く業界の悪口は言いたくはないが、まあ、一般的な企業に比べるとお行儀のよくない子が働いている割合が多いのだから仕方がない。
店側でも犯人探しなどは出来ないし、盗まれたら困る貴重品は自己管理が基本となる。デリヘル嬢が大きなボストンバックやスポーツバッグを抱えているのは、タオルなどのアメニティの他、私物もすべて持ち歩いているからなのだ。
とはいえ、ちょっとしたものなら待機所に置いていくこともあるし、うっかり置き忘れてしまうこともある。そういうものが盗まれても騒ぎ立てず、黙って諦めるのが不文律だった。
しかし、そんな不文律には従わない女がいた。
きらりである。
客から一千万円以上の婚約指輪を巻き上げ、亡くなった客のプレゼントを特級呪物と称してネットオークションで売り払う例の彼女だ。
「あー、もう最悪ー。いくらすると思ってんのよ」
無くなったのは化粧品。何万円もするブランド物のチークパウダーで、例によって客からもらったものらしい。化粧台に置き忘れたのだが、仕事から帰ってきたら無くなっていたのだそうだ。
「あたしのものを盗むなんてただじゃおかないからね……」
執念を燃やす彼女は、さっそく嬢たちに聞き込みを開始した。
待機所で何か盗まれたことはないか。盗まれたのはどんなもので、時間帯はいつ頃か。そういったことを丹念に聞き取っていく。盗まれているのは口紅やマスカラなどの化粧品の他、タバコやライターも被害に遭っているらしい。
こんなことをすれば雰囲気が悪くなるのだが、そんなことを気に留めるきらりではない。ダントツナンバーワンの人気嬢であるから、店の方からも注意が出来なかったようだ。
そうして一週間ほどが過ぎた頃。
私が待機所に戻ると、きらりが何かと格闘していた。
大きさは大根を二本つなげたくらい。
バスタオルでくるまれ、その上からガムテープでぐるぐる巻きにしている。
それがびちびちとのたうって、まるで蛇みたいな動きだった。
「何してんの……?」と尋ねると、
「ドロボー! 捕まえた!!」と、きらりはそれを両手で高々と掲げ、にかっと笑った。
「それが泥棒?」どう考えても人間の大きさではない。
「うん、ドロボー。犯行のパターンがわかったからね。張り込んでたんだよ」
きらりは得意げだが、聞きたいのはそういうことではない。
「だから、何を捕まえたの?」
「腕!」
「腕?」
ちょっと何を言っているのかわからない。
「白い腕がねー、通気口からシャクトリムシみたいに入ってきてさ。それが盗んでたんだよ。まったくふてぇ野郎だよねー」
ますます何を言っているのかわからない。
「でもさー、腕がチークだの口紅だの、タバコだの欲しがるわけないじゃん。だからこうやってふんじばって、本体をおびき寄せようかなって。人質作戦的な?」
「そ、そうなんだ」
私は理解しようとするのを諦めた。
ちょうど次の予約の時間が迫っていたので、待機所を出て客先に向かう。
二時間してほど戻ると、にこにこ顔のきらりが待っていた。
「盗まれたもの、ぜーんぶ取り返したよ。恵美はタバコをやられたんだよね? 銘柄これだっけ?」
差し出されたタバコを受け取る。
行きつけのバーの紙マッチが箱に挟んである。中身が半分ほどに減っていたが、確かに私のタバコだった。
「迷惑料もきっちりせしめてやったからさあ。焼肉でも食べに行こうよ。駅前の食べ放題、プレミアコースだと上タンもOKなんだよね。あとはシマチョウ、マルチョウ、ハチノスにセンマイでしょ。あっ、ひさびさに豚足も食べちゃおっかなあ。こういうのってさあ、客のおごりだと食べづらいんだよね。イメージ崩れるっていうか?」
一体何から取り返したのか、それを聞きたいのだが、きらりの興味は完全に焼肉に移行していて、結局聞き出すことはできなかった。




