第68話 床下にて
オーナーから聞いた話。
郊外の一軒家を購入した。所有者とは知り合いで、不動産屋を通さない直接取引だ。なんでも海外移住を決めたので、なるべく早く売りたいということだった。
事情を聞くと、愛娘が行方不明になってから七年が過ぎ、心の整理ができたから……ということだった。オーナーは知らなかったが、夫婦の間には娘がひとりいたのだ。だが、五歳の頃に行方不明になってしまった。
もしも娘が生きていたとき、帰って来られる家がないのは可哀想だと住み続けていたが、失踪から七年が経ち、法律上死亡扱いとなったことで区切りがついた。娘の思い出が詰まったこの家で暮らし続けるのは辛すぎる、ということだった。
一軒家は新規出店するデリヘルの事務所兼待機所とすることにした。間取りがちょうどよかったのだ。一階は風呂やトイレの他、広々としたLDKと六畳ほどの和室がある。LDKは休憩スペースとし、嬢たちが普段過ごす場所にする。
和室は事務所スペースだ。畳の上にフロアマットを敷き詰め、デスクとチェアを並べる。床が柔らかくて少々据わりが悪いが、その程度のことは問題にしない。
二階には夫婦の寝室と書斎の他に、フローリングの部屋が二つある。それぞれ子供部屋だったようだ。物置と仮眠室にする。
開業届が無事に受理され、営業を開始した。経営は順調でとくにトラブルもない。一軒家でマンションやオフィスビルより居心地がよいということで、女の子にも評判がよかった。
ただ一点、気になることがあった。
事務所で作業をしていると、奇妙な地震が起きるのだ。
どんどんどんどんどん
と、床下から突き上げるような唐突な揺れで、書類やキーボードに飲み物をこぼしてしまったことは一度や二度ではない。どういうわけか、オーナーのデスクしか揺れない。スタッフや女の子たちに確認しても地震なんてないという。
家にひょっとして、柱でも腐ってるんじゃないか。
そう思って、床下を調べることにした。
キッチンの点検口から懐中電灯片手に床下に入り込む。
びっしり張った蜘蛛の巣と、舌先が渋くなるようなかび臭さに辟易しながら、和室の方へ這い進んで、それを見つけた。
地面からにょきりと突き出す人の手の骨。
すぐさま警察に通報した。
警察によると、五歳くらいの女児の人骨で、十年近く前に埋められたのでは……ということだった。となれば犯人はもう彼らしかいない。失踪から七年待ったのは、死亡保険金が下りるのを待っていたからだと考えられた。重要参考人として指名手配がされ、ニュースにもなった。
自分のデスクにだけ起きた奇妙な揺れは、床下に埋められた女児が這い出ようとしたものだったのだろうか。暗く冷たい土の中に七年も閉じ込められていたことを考えると哀れになった。
警察の現場検証が一段落してから、僧侶を呼んで供養をしてもらうことにした。手を合わせて和室に響く読経に耳を澄ます。
おかーぁさーん おとーぉさーん どーこー
遠くから幼い女の子の声がした。
おかーぁさーん おとーぉさーん どーこー
声は繰り返され、だんだん遠ざかっていき、やがて聞こえなくなった。
僧侶にその話をしたところ、彼には声が聞こえなかったが、「きっと成仏したのでしょう」とのことだった。
それから三年が経ち、あの奇妙な地震はもう起きていない。
しかし、オーナーは思うのだ。本当にあの女の子は成仏したのだろうか。
ひょっとしたら、両親を探しに行ったのではないか。警察の指名手配は今なお続いているが、ひょっとしたら彼女はとっくに見つけているのかもしれない。
根拠はないが、なぜかそんな風に思うという。




