第66話 忠猫キャラメル
この業界で働く女の子にはペットを飼っている子が多い。
精神的にかなりしんどい仕事であるし、まともな恋人も作りづらい。癒やしが必要なのだろう。中でも一番人気は猫だ。犬よりも孤独に強く、室内飼いをしやすいからかもしれない。
女の子から聞いた話。
彼女も例によって猫を飼っていた。毛並みは茶トラで、金色の目をしていた。食事には気をつけているのに太り気味で、キャットタワーもてっぺんまで登れない運動音痴。そして「ギャァア」と汚い声で鳴く。なんともダメな猫なのだが、それがかえって可愛かった。毛色にちなんで名前はキャラメルとした。
あるとき、彼女はどうしても引っ越しをしなければならなくなった。
懸命に探したが、ペット可の物件がどうしても見つからない。仕方がなく、キャラメルは友人に預けることにしたのだが、居心地が悪かったのか数日で逃げ出してしまい、行方がわからなくなってしまった。
心配だったが、遠く離れた土地に引っ越してしまったので探しに行くことも難しい。誰か親切な人に拾われて幸せに暮らしていると信じて過ごしていたある日のこと。
彼女の家に強盗が入った。
目出し帽をかぶった男が押し入り、彼女にナイフを突きつける。男は住人が若い女と見て、獣欲を発散しようとした。悲鳴を上げることさえ出来ないまま、男に押し倒された時だった。
ギャァァァァァァァァァアアアアアアアアアアア!!
ベランダから凄まじい絶叫が響いた。
男は慌てふためいて逃げ出していき、彼女は九死に一生を得た。
ベランダまで這ってカーテンを開けると、そこには懐かしい茶トラの猫がいた。あの絶叫はキャラメルの鳴き声だったのだ。
窓を開けて泣きながらキャラメルを抱きかかえ、警察に通報した。後日、犯人は無事逮捕されたという。
それから彼女は大家さんに事情を話し、キャラメルを飼うことを特別に許可してもらえた。主人の窮地を救った忠猫としてローカルニュースに取り上げられたのが後押しとなったようだ。
しかし、説明するときに毎回困ったことがあったという。
彼女の部屋はマンションの七階で、とても猫が登ってこられる高さではなかったのだそうだ。




