第65話 発信情報開示請求
店長から聞いた話。
以前に働いていたお店でトラブルが起きた。
ある嬢の誹謗中傷が匿名掲示板やSNSでしつこく投稿されたのだ。
「性病持ち」「何度も堕胎してる」「五千円で中出しいけるよ」「店外余裕の超絶ビッチ」「✕✕✕が目に染みるレベルで臭えw」「元男で性転換したんだって」「水虫伝染された」「財布盗まれた」「ヤクザの情婦だってさ」
一件や二件なら無視もするが、とにかくしつこく件数が多い。
彼女も精神的に参ってしまい、仕事にも影響が出てくる。
ナンバーワン嬢だったので店としても見過ごせない。
弁護士に依頼をし、発信者情報開示請求を行うことにした。
手続きは順調に進み、相手のIPアドレスが判明した。
しかし、調べてみるとおかしなことがわかった。
そのIPアドレスは、待機所に設置している回線と同じものだったのだ。
あまりメジャーではない格安プロバイダなので、近隣でたまたま重複した可能性は低い。
同僚の嬢が成績を妬んで嫌がらせをしているのだろうか。
身内を疑うのは嫌だが、待機所に監視カメラを設置し、誰が書き込んでいるのか確認することにした。
それでわかったのだが、悪口を書き込んでいたのは彼女自身だった。
どうしてそんなことをしたのかと聞くと、みんなに同情してもらえるのがうれしかったからというなんとも子供じみた理由だった。
余計な手間をかけさせて……と腸が煮えくり返る思いだったが、相手はナンバーワンだ。売上の要である。怒りをぐっと飲み込んで、二度とこんな真似をしないよう厳重注意をして済ませた。
しばらくは止んだのだが、一ヶ月ほどしてまた誹謗中傷が書き込まれるようになった。前回の犯人が彼女自身だったことは他の嬢たちには話していないが、雰囲気で感じ取ったのだろう。以前と違って同情する者はいなかった。
相手をするものがいないせいだろう。書き込み内容はどんどん過激になっていき、ついに殺害予告まで書き込まれた。しかし、いまさら相手をする気にもなれない。そのまま放置した。
そんなことがしばらく続き、彼女は出勤しなくなった。
連絡なしのバックレだ。ナンバーワンに辞められるのは困るが、もともと精神的に不安定だった子なのは間違いない。仕方がなかったのだと諦めた。
しかし、その数日後だった。
警察から突然連絡が来た。なんと彼女が殺されたのだという。路上で何者かにめった刺しにされた状態で発見されたのだ。勤務先ということで事情聴取を受け、いつかの自作自演の件も含めて洗いざらい話すことになった。
猟奇殺人ということで雑誌記者などもぞろぞろと取材に来て閉口したという。
それから半年ほどして、週刊誌に彼女の件が報道された。
やっと犯人が捕まったのかと記事を読んだのだが、
【デリヘル嬢の闇! 壮絶、めった刺し切腹自殺!!】
思わず「は?」と声が出た。
記事によると、他殺と見られた彼女の本当の死因は自殺だったらしい。
当初は怨恨による殺人と見られていたのだが、防犯カメラに自分の腹を執拗に刺す映像が残っていたのだという。
同情を引くつもりで狂言自殺を試みたら本当に死んでしまったのだろう。
あまりにも病的で、同情どころか呆れや恐怖心の方が勝ってしまう。
そう思いながら続きを読むと、
【遺書などはなく、自殺の動機は不明である。記者は今後もこの謎を追いかけていきたいと思う。】
と記事は結ばれていた。
記者にも話したはずの自作自演の件は一言も書かれておらず、ただただ動機不明の謎の自殺としてセンセーショナルに扱われていた。そして、結局その後、続報はなかったそうだ。




