第63話 当たるよ
待機所で麻雀が流行ったことがある。
スマホアプリでルームを作り、待機所にいる子で対戦するのだ。四人でも三人でも東風戦で連荘なしの特殊ルール。長引くと指名が入ったときに困ってしまうが、このルールなら長引いても十五分もかからない。嬢同士の賭け事はトラブルの元ということで禁止されていたが、ちょっとしたお菓子を賭けるくらいなら店にも注意されなかった。
その中に、やけに強い子がいた。
とにかく絶対に振り込まないのだ。リーチはもちろん、ダマテンにも振り込まない。一度など役満の手を崩してもピンポイントで当たり牌を止めていた。すごい腕前だ。秘訣はあるのかと尋ねると。
「実はわたし、神様がついてるの」
不思議なことを口にした。
「神様って?」
「当たりを教えてくれるの。何かマズイことが起きるときは、『当たるよ』って教えてくれるんだ」
彼女によれば、それは麻雀以外でも通用するらしい。
友だちと生牡蠣を食べたとき、『当たるよ』と言われたので一人だけ食べなかったら自分以外は食中毒になった。交差点で『当たるよ』と聞こえたので立ち止まったら、信号無視のトラックがものすごい勢いで通り過ぎていった。上から植木鉢が降ってきて、目の前の地面で砕けたなんてこともある。そんな話をいくつもしてくれた。
「当たりがわかるんなら、競馬でも宝くじでも大儲けできるんじゃない?」
「そういうのはダメ。わたしにとって不幸な『当たり』のことしか教えてくれないんだ」
それでも本当なら大した能力である。
とくに麻雀は当たりを回避できれば勝率が格段に高まるのだ。
「麻雀プロでやってけそうだね」
「えへへ、やれるかなあ。オリるのは得意なんだけどね」
彼女は照れながらもまんざらではなさそうだった。
ある日、彼女が浮かれていた。お客がたまたま麻雀プロで、彼女の腕前を聞いてスカウトされたのだそうだ。名前を聞いて検索してみると、確かにプロリーグに所属するプロ雀士だった。今はチームメンバーに空きがないが、誰か抜けたときには推薦すると約束してくれた。
彼女はプライベートでもその客と会うようになった。
近頃はネット配信も盛んで、プロ雀士として人気が出れば年収何千万の世界なのだという。タレントや芸能人などの交流も多く、一緒に撮った写真を何枚も見せられた。
出会いが出会い故に当然のことかもしれないが――身体の関係も出来た。愛もなく、金も払わない男に身体を許すのには抵抗があったが、「業界じゃ、みんなやってるよ」と言われれば断りにくい。将来への投資だと思って受け入れた。
夢見る生活が始まって半年ほどが過ぎた頃だろうか。
彼女が泣きながら愚痴っていた。
「どうしたの?」と尋ねると、
「妊娠しちゃったの! アイツに言ったら『本当に俺の子かわからない』って。生でさせたのなんてアイツだけなのに! 着拒までしやがってふざけんなよ!」
どうやら男に騙されていたようだ。
馬鹿だな……と思うが、もちろん口にはしない。
しかし、どうして避妊しなかったんだろう。
これもやはり口にはしなかったが、彼女が勝手にしゃべってくれた。
「神様も神様だよ! 『当たるよ』って言ってくれたら絶対に生でなんてさせなかったのに!」
子どもが授かることは彼女の神様にとって果たして不幸なことだったのだろうか。子宝祈願、安産祈願というのはあるが、避妊祈願というのは聞いたことがない。
結局、男とは二度と連絡がつかず、彼女は自腹で中絶手術を受けた。
それっきり神様の声は聞こえなくなったらしく、麻雀がすっかり弱くなっていた。




