第55話 耳掃除
特技を営業に活かす嬢もいる。
女の子から聞いた話。
彼女は耳かき専門店で働いていたことがあった。その経験を活かし、プレイ後の客に耳掃除をしてやるのだ。これがなかなか好評で、耳かき目当てにリピーターになる客は多かったという。
ある時、いつものように客を膝枕して耳掃除をしていた。
綿棒にもこだわりがあり、ドラッグストアで買える普通のものではなく、専門店仕様の細いものだ。これを使うと普通の綿棒では行き届かないところもきれいに掃除できるのだという。
綿棒の先端を消毒用アルコールで濡らし、耳垢を柔らかくしこそぎ取っていく。その日は客は初見で、耳垢がたっぷり溜まっている。こういうときは実にやりがいを感じる。
耳掃除を初めて数分過ぎた頃だ。
くいっくいっ
と、指先に変な感触がした。
かすかにだが、綿棒が耳の奥に引っ張られるような手応えがするのだ。
何か大きな耳垢があって、それが引っかかってるのかもしれない。
一旦綿棒を抜いて、新しいものに交換する。
消毒用アルコールをたっぷりつけて、耳垢をふやかす作戦だ。
くいっくいっくいっ
また引っ張られるような感じがした。
指先の感覚に集中し、まだ見ぬ大物を絡め取るように綿棒をゆっくり回転させながら慎重に引いていく。
ずるずると耳垢が引きずられる感触が綿棒を通じて伝わってくる。これは耳かき専門店で働いていた頃にも出会ったことがない大物かもしれない。こういうときは、まるで釣り人が魚との駆け引きを楽しむような気持ちになって高揚する。
しばしの格闘のあと、わくわくしながら綿棒をずぼっと引き抜くと、
人型の何かが綿棒の先端にしがみついていた。
虫のように細長い手足。
内臓が入っているのか疑わしい棒みたいな胴。
全体的にレモン汁に近い薄黄色をしているが、縦長で尖った頭だけはピンク色をしている。
何かは外に引きずり出されると彼女に顔を向け、それからびくっと体を震わせて耳の中にさっと戻っていった。
「んー……気持ちよかった。こっちは終わった? 反対もお願い」
驚いて声も出せないでいると、客が寝返りを打って反対側の耳を差し出した。
さっきのは一体何だったんだろう……。
疑問に思いながらも反対側の耳掃除も済ませた。
そちら側ではとくに変わったことは起きなかったという。
これ以来、彼女の耳かき熱はさらに燃え上がり、ファイバースコープ付きの医療用耳かきまで用意した。いつか必ずあの「大物」を捕らえたいのだそうだ。




