閑話3 イマジナリーフレンド
「イマジナリーフレンドって、いた?」
いつものバーで恵美さんに原稿の続きを読んでもらった後だった。
彼女はハイボールのロンググラスを片手にそんな質問をしてきた。
「どうだろ、おぼえてないな」
イマジナリーフレンドは幼児では珍しくない現象らしい。五~六歳で発症(発生?)し、十歳頃までに姿を消す。小学校で言うと三、四年生の頃か。そんな昔のことは記憶に残っていない。
「恵美さんはどうなの?」と尋ね返すと、
「どうだと思う?」とさらに質問を返してきた。
これほどたくさんの怪談を語ってくれた恵美さんだが、別にオカルトに傾倒しているわけではない。むしろ怪現象に遭遇してるのに、考え方はひどく現実的に思える。子どもの頃から空想に耽ったりはしないタイプだったのではないだろうか。
そう思って、
「いなかったんじゃない?」と答えると、
「うふふ、正解」とハイボールを飲み干して笑った。
「その代わり、リアルの友だちも少なかったけどね」
「そうは見えないけど」
何が「その代わり」なのだろう。イマジナリーフレンドは友だちが少ない方が生まれやすいのではと思うが。ちょうど先ほどの話に出てきた美大志望の女の子がとても社会に溶け込めるタイプではなかったように。
とはいえ、しょせんは酒席での雑談だ。言葉尻を捉えたって仕方がない。
りんりぃん
ドアベルの音が響いて、がやがやと団体客が入ってきた。
カウンターだけの狭い店である。常連のマナーとして席を詰めようとすると、
「じゃ、私は失礼するね。怪談、面白かったよ」
と、恵美さんは席を立った。
団体客の脇を猫のようにすり抜け、店を出てしまう。
もう少し詳しく感想を聞きたかったのだが、仕方がない。
飲み足りなかった私は小一時間ほど居残って、会計のときになって気がついた。
「あ、またやられた」
恵美さんの支払いがそのまま私につけられていたのだ。
思い返してみると、初対面のときから私が奢ってばかりいる気がする。
まあ、いまのところ取材みたいなものだから仕方がないが。
しかし、この作品が世に出て何らかの利益を上がったときには、きっちり飲み代を差し引いてから分け前を渡そう。そう心に決め、領収証をバッグにしまった。




