第49話 生成AI
女の子から聞いた話。
この業界には客を騙す悪質な店もある。
その店のホームページには女優やアイドルでもかなわない非現実的な美人が大勢在籍していることになっている。そのわりに料金は安い。
非現実的なのは当然だ。彼女たちは実在しないのだから。
タネは簡単なことで、最近流行りの生成AIで出力した画像を使って存在しない嬢を偽造しているのである。
これらの架空の美女で客を釣り、入れ違いで指名が入ったことにする。そして店のおすすめと称して実在する嬢を推すというカラクリだ。
匿名掲示板では詐欺店舗として有名になっていたが、そんなところまでチェックする客は多くない。リピートなんて不要という方針で一見客相手に荒稼ぎをしていた。
客の不満のとばっちりを受けるのは所属する嬢たちだ。
そもそも指名した相手ではないので、客はあからさまにがっかりする。生成AIで出力した理想の美女と比べられてしまうのだから当然だ。プライドを傷つけられて、だんだん心が荒んでくる。
あるとき、女の子たちが集まって相談をした。
指名料は稼げないし、チップがもらえることもない。おまけにバスタオルやうがい薬などのアメニティ代も給料から引いてくる。こんな店で働いてられるかと、一斉に店をバックレる約束をしたのだ。いわばストライキである。
ストライキに参加したのは全員。
こうなればさすがに営業はできないだろう。
一人の子のマンションに集まって、ホームページを確認する。
臨時休業のお知らせでも出ているのだろうかとわくわくしながらサイトを開くと、どういうわけか開業状態で、生成AIの美女たちもいつもどおり並んでいた。
一体どういうことだろう?
ボイスチェンジャーアプリを使い、男のふりをして予約を取ることにした。
『はい、ご指名承りました。■■さんですね』
「え、ええ、はい」
『ありがとうございます。では二十分ほどで伺います』
指名替えをされることもなく、そのまま通ってしまった。
ますます何が何やらわからない。
一体誰が来るんだろう。
ひょっとして、バックレた女の子からのイタズラだと察して怒鳴り込んでくるつもりだろうか。逃げようかという話も出たが、こちらは多勢ということで気も強くなっている。それにこのマンションはオートロックだ。危なそうならエントランスのロックを解除しなければいい。
ぴんぽーん
二十分後、インターフォンが鳴らされた。
『お待たせしました。■■です』
スピーカーから聞こえたのは鈴を転がすような女の声。
声だけでも男を落とせるんじゃないか、清純なのに艶めかしい、不思議な響きの声だった。
「女の子が来た?」
「たまたま今日から入った子とか?」
思わずざわついてしまう。
開けるかどうかは別にして、まずは顔を確認しよう。
インターフォンの液晶画面を確認する。
すると、そこに映っていたのは絶世の美女の顔だった。
抜けるような白い肌。二重のぱっちりした瞳。ふっくらした涙袋に、妖艶な泣きぼくろ。鼻筋はすっと通って、唇はしっとり濡れたように赤い。
「えっ!?」
思わず声を上げる。
実在しないはずの、AIで出力したそのままの美女が映っていたのだ。
「きも……」
二次元のキャラクターが現実に出てきたような違和感。
美しい。確かに美しいのだが、「これは人間じゃない」という気持ち悪さが背筋をなぞる。
「ど、どうする? 開けてみる?」
一応聞いたが、他の子たちも揃って首を横に振った。
液晶の向こうの美女は人差し指を唇に当て、小首をかしげて不思議そうな顔をしてエントランスを後にした。まるでアニメのキャラクターのように完璧な所作だったという。
くだんの店だが、いまでも営業を続けている。
気になって噂を集めたこともあるが、働いている女の子の話どころか、店長やスタッフの話もまったく聞こえてこなかったそうだ。




