第45話 このはしとおるな
送りさんから聞いた話。
仕事柄、道には詳しくなる。
ナビで検索しても出てこない、ちょっとした近道などに詳しくなるのだ。
その橋も彼の秘密の近道のひとつだった。
コンクリ製の、のぺっとした雑な二車線。長さは十メートルほどで欄干がない。歩道の白線はおろか中央線も掠れて消えそうで、軽自動車がすれ違うので目一杯の小さな橋だ。
「あの橋は危ないから通るな。対向車が来たら大変だぞ」
と、先輩の送りさんから注意されていたが、自分で見つけた近道だ。ほんの数分しか違わないのだが、ついつい使いたくなる。
とはいえ、寂しい道で対向車が来たことなどこれまで一度もない。
ひょっとして「あの橋を通るな」とは、橋と端を引っ掛けたとんちだったのだろうか。確かに欄干もないのに端を通るのは危ない。
ある日、尿意を催した彼は橋のたもとに車を停め、立小便をした。嬢を降ろしたあとの待ち時間だから自由なものである。冷たい夜風にほかほかと白い湯気がたなびく。
車に戻り、橋を渡り始めたときだ。
反対側から軽トラックが走ってきた。
参ったな。
車を限界まで端に寄せて徐行する。
軽トラックは荷台に何かを満載して走っている。
軽では長距離でもあるまいに、何を載せているんだろう。
すれ違いざまに何となく荷台に視線をやる。
ボーリング玉みたいなものが乱雑に積み上げられていた。
落ちてきたら危ないな。
そう思って目を凝らすと、
生首。
生首。生首。生首。生首。生首。生首。生首。生首。生首。生首。生首。生首。生首。生首。生首。生首。生首。生首。生首。生首。生首。生首。生首。生首。生首。生首。生首。生首。生首。生首。生首。生首。生首。生首。生首。生首。生首。
男、女、老人、若者、幼児。
ありとあらゆる生首が満載され、真っ黒な口をにへらと歪ませて、縦横斜め、ありとあらゆる角度で、なのに数百の白濁した瞳はぜんぶこちらに向いていて、
「ひゃあっ!?」
情けない声を上げて急ハンドルを切った。
車がひっくり返って数メートル下の川に落下し、気を失ってしまった。
目を覚ましたのは病院のベッドだった。
近隣の住人が救急車を呼んでくれたのだろうか。
医師の問診の後、警察官がやってきた。
正直に事情を話すと、警察官はため息をついた。
「あの道ね、誰も通らないでしょ。そういう道だから。もう通らないでね」
そう言って警察官は帰っていった。
わけがわからないが、下手に引き止めて違反切符を切られてもつまらない。
制服の背中をそのまま見送る。
気絶こそしたが怪我は軽傷で、首にギプスをつけてその日のうちに退院できた。
後日、ギプスのまま出勤した彼を見て先輩の送りさんがつぶやいた。
「だからあの道はやめておけって言ったのに」
改めて理由を尋ねても、頭を振るだけで何も答えてくれなかったそうだ。
話をしてくれた彼だが、夜風が冷たい日はいまでも首がずきりと痛むという。




