第44話 そっくりさん
待ち合わせで思い出した話。
これも女の子から聞いた話だ。
指定された場所は駅から少し離れた喫煙所。ガラスの衝立で囲まれて、その中に灰皿がふたつ立っている。周辺になるべく副流煙が漏れないように……という配慮なのだろうが、屋根もなく足元も素通しで、こんなすかすかで意味があるのかはわからない。
人通りの少ない場所で、普段は滅多に利用している人がいない。
しかし、当たり前のことだが、この日は人影があった。
グレーのニット帽にタートルネックのセーター、カーキ色のダウンジャケットにダメージジーンズ。指名のあった客だ。待ち合わせがスムーズになるよう、お互いの服装は事前に教え合っている。
喫煙所にいるのはひとりだけ。間違う心配もないと安心していると、反対側から別の女性が歩いてきた。喫煙所に入り、男と何やら話している。
あ、待ち合わせの客じゃなかったのか。間違って関係のない人に声を掛けてしまうと気まずい。間違わなくてよかった。
しかし、喫煙所に近づくにつれてなんだか違和感をおぼえてくる。
女の方に、妙に見覚えがあるのだ。
オリーブベージュのロングヘア。バストが強調されるボーダー柄のタイトなセーター。プリーツのミニスカートに黒のタイツ。膝下まであるロングブーツはヒールが高く、なるべく足を長く見せようとしている。
見覚えがあるに決まっている。今日の自分のファッションとまるで一緒なのだ。
変な偶然もあるものだと思いながら、喫煙所へ足を進める。
えっ!?
はっきり顔が見える距離まで近づいて、思わず声を上げた。
顔まで自分だったのだ。
まるで鏡に映したように、自分そっくりの女がガラスの向こうに立っていた。
声に気がついたのか、相手の女もこちらを見て目を丸くしている。
一方、男の方はにたにたと粘ついた笑みを浮かべていた。
何なんだろう。
気味が悪い。
半歩、後ずさったときだった。
うしろから「ぽん」と肩を叩かれた。
「ひっ」
今度は悲鳴を上げてしまう。
咄嗟に振り返ると、グレーのニット帽にタートルネックのセーター、カーキ色のダウンジャケットにダメージジーンズの男が立っていた。たった今まで、喫煙所の中にいたはずの男だった。
「あっ、ごめん、驚かせちゃった? ■■さん……だよね?」
返事もできないまま、もう一度喫煙所を振り返る。
そこには誰もおらず、ふたつの灰皿がぽつんと立っているだけだった。
何かの錯覚だったのか……。
一服したいという男とともに喫煙所に入ると、たった今まで誰かがタバコを吸っていただろう残り香が確かに漂っていたという。




