第41話 メリークリスマス!
私の話だ。
クリスマスイブの日、お客と繁華街を歩いていた。待ち合わせの客だ。これから客が予約したホテルに向かう途中である。
きらきらと光るイルミネーション、腕を組んで歩く若いカップル、楽しげな家族連れ、そういうので一杯の街を歩いていた。
「メリークリスマース!」
人混みの向こうからおどけた声が聞こえてくる。
見れば、サンタクロースのコスプレと、トナカイのコスプレをした男の二人組だ。二人は色とりどりの風船を山ほど持って、道行くカップルにプレゼントしていた。
商店街の企画だろうか。シャンシャンと鳴るベルが耳障りだ。
シャンシャンシャン
シャンシャンシャン
シャンシャンシャン
「メリークリスマース!」
あるカップルは恥ずかしげに受け取って、
「メリークリスマース!」
あるカップルは迷惑そうに顔をそらし、
「メリークリスマース!」
家族連れは子どもにお礼を言わせたりする。
だんだんと近づいてきて、私たちの番になりそうだった。
こういうときは対応に悩む。
客の姿勢次第で取るべきリアクションが変わってくるのだ。
恋人気分を味わいたい客なら喜んで受け取るし、他人の目を引きたくない客なら無視をする。この客はどちらだろう。見定めてから対応する必要がある。
いよいよ二人組がやってきた。
近づいてきてわかったが、ずいぶん安いコスプレだ。赤い三角帽子は手縫いなのか、太い木綿糸が乱雑に交差している。トナカイの角にはぼろぼろの軍手に綿を詰めたものを使っているようで、歩くたびに情けなく前後に揺れていた。
どちらも赤い鼻をつけていて、使い古しのピンポン玉だろうか。ボコボコで塗りむらが酷い。垂れた染料が血の跡のようにでたらめに表面を這っていた。
こんなだから、商店街などのちゃんとしたところの企画だとはとても思えない。
ひょっとして、動画配信者だろうか。それにしたってあまりにも雑すぎる。再生数目当ての迷惑系かもしれない。嫌がったカップルにドッキリを仕掛けているのかも。炎上動画で晒されてはたまらない。客がどんな反応をしようと下手にネタにされるようなことはしまいと、身を硬くして眼の前に来る瞬間を待ち構える。
シャンシャンシャン
シャンシャン
シャン
「違うじゃん」
シャン
シャンシャン
シャンシャンシャン
すれ違いざまにそう言い残して、二人組が通り過ぎていった。
客は「何だったの、あれ?」などと首をかしげている。
しかし、私はわざわざ振り返ったりはしない。
何が違うのか、確かめる必要などないのだから。




