第38話 置き配
女の子から聞いた話。
個人宅での仕事の場合、行為中に宅配などがやってきてインターフォンが鳴ることがある。
その日の客先は閑静な住宅街にある新築の一軒家だった。注文住宅らしく、広々とした前庭付きで豪勢な作りをしている。客は三十代前半くらいの溌剌とした男で、相当稼いでいるようだ。
「どんな仕事をしてるんですか?」と尋ねると、
「うーん、ざっくり高齢者向け? いわゆる経営者」という返事だった。
これは太客になるかもしれないぞ、といよいよ気合を入れたのだが、
ぴんぽーん
と、何度もインターフォンが鳴るせいで気が散って仕方がない。
客は「あー、またか。どうせ宅配だから。置き配指定してるのにわざわざチャイムを押してくんだよね」と出ようともしない。
嬢としては文句を言う立場ではないし、太客が取れるかどうかの正念場だ。なるべく行為に集中し、満足させるよう心がけた。
そうして一仕事終わり、名刺を渡して「上手だった」「ホントにイッちゃった」「また会いたいな」などと世辞を並べ、玄関のドアノブを回したときだった。
がしゃん
重たく、硬いものが落ちた音が聞こえた。
驚いてそろそろとドアを開けていくと、ざりざりと妙な手応えがする。
ある程度開いたところで、「ひっ」と悲鳴が漏れた。
玄関ポーチの床いっぱいに、曲がった釘や錆びたノコギリ、剃刀の刃、折れた包丁、腐った木片などがぶちまけられていたのだ。妙な手応えの正体は、これらをドアで引きずったせいだった。
思わず後退りすると、後ろで男が言った。
「あー、またか。いいよいいよ、片付けとくから、気にせず帰って」
彼女は早足で送りさんの車に飛び乗った。
車中から男の家を振り返ると、玄関先にビニール袋がいくつも落ちている。
どうやら何者かがドアノブにビニール袋をぶら下げて、ノブを回すと落ちて中身をぶちまけるよう仕掛けていたらしい。
車が客宅を離れて住宅街を抜ける途中、ビニール袋を片手に提げた老人と何人もすれ違ったそうだ。彼女はシートに身を深く沈めて隠れていたため、ビニール袋の中身まではよく見えなかったという。




