第30話 顔認識
女の子から聞いた話だ。
まるで客が来ない時節、というのもある。
店によって差異はあるが、その店ではお盆の時期がそうだった。
いくらか高級な店で、利用客は稼ぎのよい独身者や単身赴任、それから出張で来る勤め人が多い。これらの客はお盆になると帰省をしたり、あるいは出張そのものがないためぱったり客足が途絶えるのだ。
営業をしても開店休業では意味がない。
そんなわけで、その店では毎年お盆にバーベキュー大会を開催していた。
今どき職場でこんな催しは嫌がられるのかもしれないが、この店では大人気だった。というのも、オーナーのおごりで高級な肉や酒が振る舞われ、テントの設営や火起こしなどの面倒事はここぞとばかりに張り切る男たちがやってくれる。至れり尽くせりのお姫様状態で一日を満喫できるということで、出席率は高かった。
場所は決まっていて、店から車を1時間ばかり走らせた山の中だった。県道を外れて雑草の伸びる砂利道を下ると、鬱蒼とした森が途切れて広い川原に出る。他の人間は見当たらず、いつも貸切状態だ。なんでも昔勤めていたスタッフが教えてくれた穴場らしい。
残暑の厳しい季節だというのに、風は涼しい。
キャンプやかまどの設営に忙しい男どもを尻目に、女の子たちはそのまま飲めそうなほどに澄んだ清流に素足を浸し、華やいだ声を上げる。
自然、スマホを取り出して撮影会が始まる。
自撮りから始まり、仲良し同士のツーショット。これカワイクない? きゃー、マジカワイイ! やだー、超ブサイクなんだけど。絶対狙ったでしょ。盛り上がるうちに、互いの写真を撮りっこするようになる。
その頃になって、妙なことに気がついた。
「なんか絶対変なとこで顔認識するんだけど」
「えっ、マジ? 私もなんだけど」
「私も私も」
試しに手近な子にレンズを向けると、対岸の岩肌や森の暗がり、流れる川面などに顔認識のピントが合ってしまう。陰影の形が人間の顔にたまたま似てしまい、こうなることは別に珍しくない。カメラアプリを使っていれば、誰でも経験があることだと思う。しかし、この場所ではどこにレンズを向けても、誰もいないところに何箇所も顔認識がされてしまうのだ。
「ひょっとして、■■君が遊びに来てるのかな?」
「■■君?」
古株の子が、聞き覚えのない人の名前を口にした。
「うん、■■君。この場所を教えてくれたスタッフさん。去年、登山中の事故で亡くなっちゃったんだって」
「ええー!」
黄色い悲鳴が上がる。
騒ぎを聞きつけたオーナーがやってきて話を聞くと、
「■■なら祟ろうってつもりじゃないだろ。毎年この会を楽しみにしてたからなあ。みんな、あいつの分まで楽しんでくれ。ほら、シャンパン開けるから行くぞ」
「やったー!」
もとより、そんな心霊話など真剣に信じたわけではない。
一本数万はするシャンパンを何本も開け、脂のたっぷりのった霜降りの肉に舌鼓を打ち、その日のバーベキューは盛況のうちにお開きとなった。
「でも、やっぱり納得できないことがあって」
この話をしてくれた女の子が言う。
「■■君だとして、どうして一度に何箇所も顔認識されるのかなって。■■君が来てたとしても、絶対一人じゃないよなって」
バーベキュー大会は今年もあるが、参加するかはまだ決めかねているという。




