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デリヘル怪談 ▓▓恵美さんを探しています  作者: 瘴気領域


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第25話 犬好き

 送りさんから聞いた話。

 客先に嬢を送り届け、辺りで車を流していたときのことだ。

 どむっという鈍い衝撃と共に、何か柔らかいものに乗り上げる感触がした。


 送りさんは慌てて道路脇に車を停車した。

 車を降りてボンネットを確認するが、何かがぶつかった形跡はない。

 それから辺りを確認すると、茶色の小さな犬が倒れていた。

 当たりどころがよかったのか悪かったのか、血は出ておらず、白目のない黒い瞳を見開いたまま動かない。


 犬好きだった送りさんは、慌てて犬を抱き上げた。

 冷たい。

 どうやら自分が轢く前から死んでいたようだ。

 トイプードル……あるいはその雑種なのか。元は触り心地の良かっただろう毛並みは泥に汚れ、脂ぎってすっかりごわごわに固まっている。


 たぶん、捨て犬だったのだろう。

 よりにもよって室内犬を外に捨てるなんてという怒りと、可哀想なことをしてしまったという後悔と、複雑な気持ちを抱えつつ、タオルに包んで後部座席にそっと置いた。自分が殺してしまったわけではないが、放っておくのはかわいそうだった。

 ナビを開いて最寄りの公園へ行き、穴を掘って埋めてやった。


「ごめんな。来世はもっといい飼い主に出会うんだぞ」


 そう言って、両手を合わせた。

 迎えに行った嬢が「なんか犬臭い」と怪訝そうにしていたが、「そうっすか?」ととぼけておいた。死んだ犬を乗せたなんて、嫌がる子も多いだろう。


 それから、送りさんの身の回りでは奇妙なことが続いた。

 車に乗ると、直前まで誰かが座っていたかのように座席が生温かい。

 後部座席がいつの間にか犬の毛で汚れていて、嬢から文句を言われる。

 退勤時には「くうん」と犬の鳴き声がどこかから聞こえてくる。

 日に日に獣臭さが強くなり、嬢からのクレームが増える。

 掃除を繰り返し、消臭剤をたっぷり撒き、芳香剤を呆れるくらいに並べてもダメだ。そのくせ、別の人間が運転するときには犬の匂いはせず、「芳香剤臭い」と別の文句を言われる始末だった。


 犬の霊が憑いたのだ、と思った。

 お祓いに行ったり、犬の気配を感じたときに手を合わせたり、成仏してくれるよう必死に祈った。それでも怪事は収まらない。それどころか、熱心に成仏を祈るほどに頻繁になる気がする。


 嬢からのますますクレームも増える。仕事への集中力も低下する。

 ある日、道を間違えて大幅遅刻をしてしまい、ついに店長からきつく叱責されてしまった。


「■■君さあ、最近たるんでない? 送りなんて簡単な仕事だと思って舐めてるのかもしれないけどさあ、それだけにちゃんとやってくれる人がほしいのよ。こんな言い方したくないけどさあ、はっきり言って代わりは探そうと思えばいくらでもいるわけ。あとさ、言いにくいんだけどちゃんとお風呂入ってる? なんかすごい犬みたいな臭いするんだけど」

 

 自分では気がついていなかったが、犬臭さは車だけではなく、いまや自分にまで範囲が広がっていたらしい。最近、街を歩いていても人に避けられると思ったら、そういうことだったのか。


 いい加減にしろよ、そう思った。

 その日の仕事の合間、犬を埋めた公園に寄った。


「ふざけんじゃねえぞ。あのまんまほっといたら、てめえは挽き肉だったんだぞ。わかってんのか。祟る相手を間違ってんじゃねえよ。犬でも恩は忘れねえっつうけど、てめえはどんだけ馬鹿犬だったんだ。飼い主から捨てられるのもあたりめえだよ!」


 怒鳴り散らし、犬の死骸が埋まった土の上を力いっぱい踏みつけた。




 ぎゃんっ




 どこかから犬の悲鳴が聞こえた。

 怒り心頭の送りさんはそれを無視して、のしのしと車に戻っていった。


 それ以来、犬の臭いは消え失せ、鳴き声なども聞こえなくなったという。

 その代わりというべきなのか、散歩中の犬などとすれ違うとやたらに吠えかかられるようになったそうだ。


「もう犬なんて大嫌いですから、気にしてないっすけどね」


 そう語る送りさんの横顔は少し寂しそうに見えた。

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