表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デリヘル怪談 ▓▓恵美さんを探しています  作者: 瘴気領域


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/108

第22話 一緒に行こうよ

 女の子から聞いた話。

 彼女はひと仕事を終え、送りさんの車に乗り込んだ。今夜で三人目の客だ。さすがに疲れ切り、送りさんがくれた缶コーヒーを飲むなり、すぐに寝入ってしまった。


 どれくらい眠っていたのだろうか。

 肌寒さを感じて目が覚める。

 ずいぶん長く寝ていた気がするが、まだ車中だということはそれほどではなかったのだろう。待機所までは渋滞してもせいぜい15分ほどだ。


 なんとなく外に目をやると、いやに景色が暗い。

 ぽつぽつと並ぶ街灯は弱々しく、両側に並ぶビルには明かりのひとつもない。道路を走る他の車も、歩道の通行人もまったく見かけなかった。


 どこを走っているんだろう。

 寝起きでぼんやりした頭で考える。

 あ、聞けばいいんじゃん。

 だいぶ遅れて思いつく。


「どこ走ってるの?」

「帰りたい?」


 噛み合わない返事。

 疲れてるんだ。帰りたいに決まっている。

 どういうつもりで言ってるんだろう。バックミラー越しに送りさんの顔を見ようとするが、角度が悪くて上手く見えない。


「一緒に行こうよ」


 どきりとする。

 どこへ行こうというのだろう。

 しかし、なぜかその言葉に魅力を感じてしまう。


「あんなところ、帰っても地獄だよ」


 地獄。言われてみればそうかもしれない。

 ソープに比べればまだマシだと思うが、体を売る商売に違いはない。

 あてもなく上京してまともな職が見つからず、仕方がなく流れてきた仕事だ。

 生活が変わりすぎてしまって、昔の友だちともすっかり疎遠になってしまった。


「一緒に行こうよ」


 甘い言葉が繰り返される。

 駆け落ちを誘われているんだろうか。

 すべてを捨てて逃げ出せたら楽になる。

 そんな気がする。


「一緒に行こうよ」


 この生活を続けたところで明るい未来の展望もない。

 服や化粧品に無駄遣いして、昼から部屋でお酒を飲んで、ソーシャルゲームに課金して、パチスロでお金をすって、そんな毎日。続けて何の意味があるんだろう。


 どんどん気持ちが沈んでいく。

 寒い。暖房入ってるのかな。

 お腹が空いた。夕飯何食べたっけ。そもそも食べた?

 ソシャゲの周回しなきゃ。して何の意味がある?

 掃除。何ヶ月もしてないや。

 最後に洗濯物を畳んだのはいつだっけ?

 いつも吊るしっぱなしだ。


 オレンジ色の街灯が何本も通り過ぎていく。

 だんだん間隔が広くなって、だんだん光が弱くなっていく。

 だんだんだんだん、寒さが、眠気が




 ばん




 サイドガラスが突然大きな音を立てた。

 驚いてそちらを見ると、初老の男女が何かを叫びながらガラスを叩いている。




 ■■■! ばんばんばんばんばんばん!

 ■■■! ばんばんばんばんばんばん!

 ■■■! ばんばんばんばんばんばん!




 二人とも泣き顔で、鼻水を垂らしながら、大声で叫んでいる。

 鬼気迫る表情。何を必死になっているのだろう。何を叫んでいるのだろう。

 いや、なぜ走っている車のガラスを叩けるのだろう。


 送りさんは舌打ちをして、アクセルを踏み込んだ。

 車が加速して、老人たちが置き去りになる。

 振り払われて膝をつき、這いながら叫んでいる。




 ■■■! ■■■! ■■■! ■■■!




 はっ、と気がついた。

 自分の名前だ。

 あれはお父さんとお母さんだ。


「とめて!」思わず叫ぶが、

「一緒に行くって言ったじゃないですか」車はさらに加速する。


 意を決してドアを開け、真っ暗闇に飛び出した。




 目を開けると、眩しい光が目を刺した。

 ベッドに寝かされている。

 すがりついて泣いているのは田舎にいるはずの両親だった。


 あとから聞いた話だが、あの日、帰り道に交通事故に遭ったのだそうだ。

 送りさんと彼女は揃って昏睡状態に陥った。

 ダッシュボードには遺書が残っており、どうやら無理心中を図ったようだ。

 缶コーヒーからは睡眠薬が検出された。

 ほとんど話したこともないのに、と驚くことしかできなかった。

 そして、彼女が目覚めるのと時を同じくして、送りさんは息を引き取ったそうだ。


 彼女は仕事をやめ、いまは実家で家業を手伝っているという。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ