第18話 ダルマ顔
女の子から聞いた話。
客先はビジネスホテルの906号室だった。
お客さんはスキンヘッドの初老の男性。
強面というわけでなく、ぷよぷよと太って愛嬌のある顔だ。禿げ上がった頭は額にまで脂肪がつき、深いシワを作っている。その下には筆で書いたような太い眉。口許にも同じくらいの髭が平べったい八の字に伸び、出目金みたいなどんぐりまなこが眉と髭の間に収まっている。鼻は扁平で、あるんだかないんだかわからないくらい低かった。
ダルマさんみたいな顔、というと一言で伝わるだろう。ひっくり返しても顔に見える、だまし絵のあの顔だ。顎の三角髭だけが上下非対称だった。
料金を受け取り、プレイを開始する。
とくに変わったことはない。強いて言うならシックスナインをやたらと好んだことぐらいか。
規定時間の終わり際に、延長を希望された。
次の予約が入っていると受けられないため、店に連絡するためにスマートフォンを取り出すと、どういうわけか圏外だった。いまどきホテル内で圏外なんてあるのか……不思議に思いつつ、部屋の外に出た途端、
『いまどこ?』
『迷ったの?』
『お客さん待ってるよ』
『どうしたの?』
『大丈夫?』
『電話出て』
『圏外だよ』
『どうしたの?』
『電話出て』『電話出て』『電話出て』『電話出て』『電話出て』『電話出て』『電話出て』『電話出て』『電話出て』『電話出て』『電話出て』
不在着信通知とメッセージがすごい勢いで押し寄せた。
慌てて折り返すと、焦った店長につながる。
「あーもう……心配しちゃったよ。お客さん待ってるよ。早く行って」
「えっ? いや、お客さんのとこいるんですけど。延長したいって」
「はあ? なかなか来ないってクレーム来てるよ」
「ええっ?」
「話なら後で聞くから。とにかく急いで。609号室ね」
要領の得ない電話の後に、またメッセージが来た。
『609号室ね!!』
しまった、と冷や汗が垂れた。
自分がいたのはたしか906号室だ……。
まさかぜんぜん違う人のところに来てしまったのだろうか。
振り返ってドアプレートを改めて確認する。
609号室。
そう書いてあった。
目を擦って確認する。
まさかまた部屋を間違えた? いや、たったいま出てきた部屋だ。間違えるはずがない。だいたい906号室と609号室では階が違う。
恐る恐るチャイムを押す。
がちゃり、とロックが外れる。
中から出てきたのは、先ほどと同じダルマ顔だった。
「いやー、待っちゃったよ。道路混んでた?」
唯一違うのが、顎先にあった三角髭が消えてなくなり、スキンヘッドのてっぺんに三角の髪が載っていたことだった。
ぞっとはしたが、仕事は仕事ということで済ませたそうだ。
どちらからも料金はもらえたし、三角髭の方は店を通していないので丸々収入になったと喜んでいた。




