第16話 人形③
私の話だ。
とある常連客が亡くなった。
もちろん正式な訃報を受け取ったわけではない。
しかし、こういうことは風の噂で耳に入る。
そのお客さんからもらったプレゼントがあった。
高価な日本人形だ。
人形趣味はないのでそんなものをもらっても困るのだが、物が物である。ゴミとして捨てるのも気が進まず、なんとなく押入れにしまいっぱなしになっていた。
贈り主が亡くなったとなれば、手元に置いておくのも気持ちのよいものではない。ネットで調べ、最寄りで人形供養をしているお寺を予約した。
寺務所で受付をして、人形を差し出す。
受付の中年女性はおもむろに人形の服を脱がし始めた。手紙や貴重品、ことによっては通帳や遺言書などが隠されていることがあり、トラブルを防ぐために依頼者の目の前で必ずチェックするのだそうだ。
チェックが終わった人形は一旦寺で預かり、年に一度、桃の節句にまとめてお焚き上げするのだという。
「これ、剥がしていいですか? 破けちゃうと思いますけど」
裸になった人形の背を見せてきた。
梵字だろうか、朱色の文字が書かれた御札が貼られている。
「どうぞ」と頷くと、女性は遠慮なくべりべりと剥がし始めた。
御札の裏にはピンポン玉くらいの真っ暗な穴が空いていた。
何かが詰まっているので指で引っ張り出す。
「ひっ」
女性が息を飲んだ。
人形から出てきたものは黒い人毛だった。
脂ぎって、固まっている。
人形が床に落ち、頭が外れた。
首の付け根からぱらぱらと細かい物がこぼれた。
人の爪だった。
しばしの沈黙が寺務所に満ちる。
女性がぼそりとつぶやいた。
「お焚き上げ、急ぎます?」
一も二もなく頷くと、女性は早足で住職を呼びに行った。
たった一体だけのお焚き上げなのに、黒い煙がもうもうと出てひどい臭いがした。
服にも臭いが染み付き、何度クリーニングに出しても落ちないので結局捨てることになった。念のため喪服で行ったのだが、高い処分代になってしまった。




