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デリヘル怪談 ▓▓恵美さんを探しています  作者: 瘴気領域


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第13話 火事です。火事です。

 デリヘルの経営は、店長が雇われであることが多い。

 店長の上には、出資者であるオーナーが別にいる場合がほとんどだ。

 これはそのオーナーから聞いた話。


 デリヘルの開業には警察への届け出がいる。

 正式には『無店舗型性風俗特殊営業営業開始届出書』といい、これがなかなか厄介なのだそうだ。法律的には全国共通なのだが、実際にはローカルルールも多く、ある地域では通る書面が別の所轄では通らない……なんてこともざらにある。


 手続きそのものに輪をかけて厄介なのが事務所用物件の確保だ。 

 風俗店の事務所に使うと聞いて、貸してくれる大家は少ない。風俗事務所専門の物件もあるのだが、足元を見てとんでもない家賃設定をしているところが多い。同じビルに風俗店があると一般の店子が寄り付かないし、家賃を滞納したまま飛ぶ業者も多いため、大家側にもやむにやまれぬ事情があるのだが。


 そんな事情に注目したビジネスがある。

 トランクルームとして用意されていた部屋(と呼んでいいものかわからないが)を、事務所として格安で貸し出しているのだ。面積は一畳にも満たない。当然、事務所として使えるはずもないのだが、郵便物も受け取れるし、届け出用には十分な要件を満たすわけだ。


 そのオーナーも、新店の出店にあたってそういう物件を利用した。

 築30年を過ぎた小さなマンションで、商用にも使えるマンションオフィスだ。店子は風俗店と関係者ばかりで、一般人は住んでいない。そういう物件だった。


 トランクルームは地下にあり、内見もせず契約した。

 書類上だけのことなのだから、わざわざ足を運ぶ必要もない。

 無事届け出が受理され、営業を開始して数ヶ月が経った頃だった。


 深夜の電話で叩き起こされた。

 大家からだ。

 火災報知器が鳴り、警備会社を呼んだという。

 慌てて車を走らせて駆けつけると、誤報だったらしく平謝りされた。火災報知器は新品に交換された。


 古い物件だし、そういうこともあるだろう。

 最初はそう思ったが、誤報は続いた。

 週に一度は誤報があり、そのたびに駆けつけるためだんだん神経も参ってくる。

 おまけに大家からは「家賃を値切るために何かしているのではないか」と遠回しに疑われる始末だ。


 冗談ではない。

 むしろ、オーナーの方が大家を疑い始めた。

 礼金や保証金で稼ぐために、店子に嫌がらせをして早々に追い出して物件を回転させているのではと考えた。


 いい加減頭にきた。証拠を掴んでやろう。

 事務所は空っぽで、火の気のものなど何もないのだ。

 誰かが悪戯しなければ、火災報知器が鳴るはずもない。

 そう意気込んで、寝袋ひとつで泊まり込みを始めた。

 泊まっていることがバレれば尻尾を出さないだろう。

 出入りの際は誰にも見られないよう注意し、携帯トイレまで持ち込む念の入れようだった。


 泊まり込みを始めて三日目の夜だった。

 警報が鳴るのは決まって深夜二時頃だ。

 明かりも点けず、物音ひとつ立てず、真っ暗闇の中で目を見開いていた。


 ふわり、と空気が動いた。

 ついに来たか! と思ったが、ドアはぴくりともしていない。

 なんだ気のせいかと溜息をつくと、今度は妙な臭いがしてくる。

 焦げ臭い……煙の臭いだ。

 それがだんだん濃くなってくる。

 外で何か燃やしているのか。

 ドアを開け放ち、外に飛び出す。


 何もない。

 左右を見渡しても、誰もいない。

 どれだけ息を吸っても、煙の臭いもしない。

 また気のせいか……部屋に戻ると、途端に煙の臭いがする。

 明かりをつけて中を探すが、もちろん火の気などどこにもない。

 臭いが濃くなる。

 目に染みて涙が出てくる。

 喉が痛み、咳が止まらなくなる。




 火事です。火事です。びーいびーいびーいびーい。

 火事です。火事です。びーいびーいびーいびーい。

 火事です。火事です。びーいびーいびーいびーい。




 無機質なアナウンス、火災報知器がけたたましく鳴り響いた。

 オーナーはたまらず悲鳴を上げ、逃げ出したという。




 結局、物件は解約し、別の事務所を借りた。

 思い返すとあの煙は線香の臭いだった気がするが、確かめるつもりなどさらさらないという。

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