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デリヘル怪談 ▓▓恵美さんを探しています  作者: 瘴気領域


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第93話 罪滅ぼし

 女の子から聞いた話だ。

 この業界では珍しくもないことだが、彼女は苦労の多い人生を送っていた。幼い頃に両親が離婚し、彼女は母親に引き取られた。仲の良かった弟――コウタは父親に引き取られた。母親は粗暴な父親と距離を取ったため、そのまま生き別れになってしまった。


 それから十年、紆余曲折を経てこの仕事を始めた。

 目的は進学資金を貯めること。高校卒業から一年と期限を決め、その間に大学に進むための学費を稼ごうというわけだ。同じ目標で始める女の子はそれほど珍しくないのだが、大抵は自堕落に流されてしまう。しかし、彼女は並のサラリーマンの数倍を稼ぐようになっても身を持ち崩さず、節約しながら真面目に仕事を続けていた。


 そんな彼女に、ある日ロングタイムの指名が入った。

 相手は初見の客である。最初からロングで頼む客は珍しい。よほど稼いでいるのか、ホームページの写真が気に入ったのか……わからないが、入念に化粧を直し、気合を入れて指定のホテルに向かう。


 部屋を訪ねて、驚いた。

 ドアの向こうから現れたのは幼い頃に生き別れになった弟だったのだ。


「コウタ!?」と思わず口にすると、

「あ、やっぱり姉ちゃんだ。ひさしぶり」


 どうやら弟の方はあらかじめ見当をつけていたようで、驚いた様子もなく彼女を部屋に招き入れた。


「ひさしぶりって、何なのよもう。こんな呼び出し方しなくても……」

「だって、連絡先も何もわかんないじゃん。お店に『弟なんですけど』って電話しても、絶対つないでくれないでしょ?」


 それはそうだ。

 デリヘル嬢にはストーカーじみた客がつきまとってしまうこともある。嬢を守るため、店はそうした怪しい連絡をすべてシャットアウトするのだ。


「で、どうすんの? プレイすんの?」

「するわけないでしょ」


 苦笑いで答えられ、ほっとする。

 これでしたいと言われたらどうしようかと思っていたからだ。


「今までどうしてたの? あのお父さんと一緒じゃ大変だったでしょ」

「そりゃ大変だったけど、それは姉ちゃんも一緒でしょ」

「まあね」


 今度は彼女が苦笑いをする番だった。

 父親に比べればマシだとは思うが、母親の方もろくなものではなかったからだ。高校の学費もバイトをして自分で稼いでいたのだが、それすらも使い込もうとしてくる……と言えば想像がつくだろう。


 それから二人は昔の思い出や、離れ離れになってからのことなどを話し込む。弟はときどき言葉を濁したが、そういう話は詳しく聞かない。順風満帆の人生を送っているはずもないのだ。話したくないことなどいくらでもあるだろう。


 あっという間に残り時間がわずかになった。名残惜しいが仕方がない。とりあえず連絡先を交換して後日ゆっくり会おうと言うと、


「ごめん、連絡先は教えられないんだ」

「え、なんで?」

「まあ、色々あってさ」


 何か事情があるようで、突っ込んで聞くこともできない。

 そういえばまだ高校生の年齢のはずなのにやけに羽振りがよさそうに見える。何か危ないことに関わってはいないだろうか。心配だが、自分もまっとうな仕事をしているとは言い難く、偉そうに説教できる立場ではない。喉元まで出かかった言葉を飲み込むと、タイマーが鳴った。もう帰らないといけない。


「あ、これお土産」


 帰り際に菓子折りを渡された。

 ずっしり重い。重さと包装紙から察するに羊羹だろうか。まだ若いのに、ずいぶんじじむさいものを選んだな。そんなところからも弟の苦労を察してしまった。




 しかし、家に帰ってから驚いた。

 菓子折りの封を開けてみると、中には札束がぎっしり詰まっていたのだ。


『学費の足しにして』


 ぶっきらぼうな筆跡のメモが添えられていた。

 学費どころではない。数年は遊んで暮らせる大金だ。


(やっぱり何か危ないことに首を突っ込んでるんじゃ……)


 警察に相談しようかと思ったが、ひょっとしたらそのために弟が逮捕されてしまうかもしれない。悩んだ末に、彼女は探偵を雇った。そして弟の行方を探してもらったのである。


 依頼から一週間後、弟の行方が意外にもあっさりと判明した。

 調査報告書によると、弟は約一年前、あの日ホテルで出会うちょうど一年前に亡くなっていた。特殊詐欺グループの仲間割れで、ニュースにもなっていたという。


「悪いことしてたから、罪滅ぼしがしたかったのかな」


 そう、彼女は寂しげに語った。

 被害者に返金したいと警察へ相談したが、死んだはずの人間に会ったなど信じてもらえるはずもない。弟から受け取った金は学生支援団体に全額寄付し、自分の学費は引き続き自分で貯めているそうだ。

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