花火大会
ある夏の日。
うるさいチャイムで目が覚めた。
寝ていたのだろう。
頭痛がしたと同時に教室のグチャグチャした話し声が頭に入って来た。
「かなたぁー,かなたぁー 聞いてんの?」
お調子者の田中翔太が俺の顔を覗きながら続けた。
「田中と藤本だったら田中の圧勝だよなぁー?苗字バトル王は田中翔太が貰っちゃうね‼︎」
急に自称苗字バトル王を名乗り出た。
「何やってんの?」
呆れてこの言葉しか出てこなかった。
「いまねぇ 苗字バトルってのやってんの。」
藤本暁斗が手で口を抑えながら笑いを堪えて教えてくれた。
「なにそれ,しょーもな ウケる。」
苦笑い程度に笑いながら言った。
「うわ‼︎ 何‼︎ スカしてんなぁ〜 顔がちょっといいからってイケメン気取りですかぁ?」
田中がゲラゲラ笑いながら言ってきた。俺の肩に手を回す。田中翔太はボディータッチが多い。
「顔がいい? 褒めてくれてありがと。」
こう言えばこいつらは喜ぶ。逆に黙ってると空気が悪くなる。
「杉本哉太、杉本哉太はぁー 強くもないし弱くもないし、中位かなぁ。」
藤本暁斗が俺の名前で遊び始めた。
「なぁ 急なんだけどさ 安藤真綾ってどう思う?」
顔も知らないクラスメイトの男が話しかけて来た。
きっと田中のデカい笑い声と藤本の楽しそうな雰囲気につられて来たのだろう。後、2、3人はつられて来た。
「可愛い」
田中と藤本が声を揃えて言った。
クラスの奴らが頷いた。
容姿に関しては田中が目がデカい丸坊主でザ、野球部って感じの見た目だ。藤本が色白で吊り目の韓国になんか居そうな感じ。俺は色黒で目の下と口の下にあるホクロがコンプレックス。
「哉太はどう思う?」
田中と藤本が声を揃えて聞いて来た。
クラスの奴らが俺を見た。
「かわいい」
周りの奴らに合わせといた。昔から空気を読むのは得意だ。両親の仲が悪くよく喧嘩ばかりする為、空気を読むのが得意になった。人の立ち振る舞いや一瞬出る表情で相手が何を考えているのか、どんな言葉を選べばいいのか分かるようになった。
安藤真綾は黒髪ロングで少し寝癖が酷いイメージがあり、顔は全体的に整っている感じだと思う。
あまり見ないので分からない。
教室の端っこで安藤真綾を見た。
盛大に笑っている
こんな子よりサクラちゃんの方が100倍かわいいと思う。今日はそんなサクラちゃんとデートだ。仮眠もバッチリ。
俺の恋愛対象は幽霊だ。
だから皆んなの言う可愛いやエロいなどは分からないし、生きてる女の子は何か欠けていると思う。
幽霊が見えるようなのは何か体質だと思う。俺の霊感は強い方じゃないし、守護霊などは見えず、そこら辺に彷徨っている幽霊しか見えない。
霊感が弱いのか何なのかほとんどの幽霊は夜に見る。
だからこっそり家を夜に出て行く。両親でいろいろある為家庭環境はそこそこ悪いと思う。今までで一回しか怒られなかった。
そのためよく授業中に寝てしまう。
「哉太起きろって 」
席が隣のやつが起こしてくれた。悪くも次の授業は数学で、居眠りしてしまったらしい。まったく記憶がない。
田中と藤本たちと話したり、授業を受けたりして学校の時間は過ぎてった。
起立 気をつけ 礼 と同時に田中と藤本の会話を華麗にスルーし、下駄箱に向かった。靴を出していると、女の子が近づいて来た。ぱっつんボブで茶髪。
確か黒澤心。有名だ。
「今日さ 花火大会あったよね…? 一緒に行かない?」
適当に断っといた。サクラちゃんとのデートも花火大会だ。サクラちゃんと話すのにどれだけの時間がかかったと思ってる! そんな事をしている暇はない。
空が暗くなり、月の輝きで少し明るい。
花火大会の為気合いを入れて浴衣を着たかったが家に浴衣なんて物はなかった為、私服で花火大会に参加した。
街灯に照らされ、足が進むたび、太鼓の音が近くなっていく。
花火大会の隣の神社まで来た。
神社は古く、雑草が生い茂っていた。灯りでチカチカと照らされた鳥居に蛾が集まって来る。
サクラちゃんが待っていた。サクラちゃんに会ったのは、中2の春頃で神社にふらっと寄った時だった。
幽霊にしたら綺麗な方で右目が抉れており、血がダラダラ垂れているぐらいだ。幽霊でこんなに可愛いならさぞ女子高生の時はモテただろうなと思う。少し嫉妬が湧いた。サクラちゃんは黒髪ボブで右側の髪を耳にかける癖がある。かわいい。いつまでも見てられる。鼻,口は整っていて,輪郭はまん丸だが、面長とも見える。目が二重で何だか幸薄い顔をしている。
「サクラちゃん‼︎ 花火見に行こ! 楽しみだね?」
「俺は楽しみだよ。」
軽くフラットに話しかけてみた。
サクラちゃんがコクリと頷いて、薄く笑った。
(楽しみ)
優しい声がきこえた。
サクラちゃんと歩くと蛾がザラザラと飛ぶ音と雑草がゴワゴワと揺れる音が大きく感じられる。
がヲ亜ォ ザヮォヲ こんな音。
サクラちゃんと話すと俺の体温が持っていかれる感覚がする。でもサクラちゃんに根気よく話しかけて俺に心を開き、笑ってくれた時の気持ちや雰囲気を忘れる事が出来ない。
花火大会がやっている場所に着き、サクラちゃんと小声で話しながら屋台で焼きそばを買った。
「屋台のもの値上ってるね」
横でサクラちゃんの顔に見惚れながら言った。
(私の時は安かったんだけどね)
サクラちゃんは懐かしんでいるのか、悲しんでいるのか分からない表情だった。
「誰と話してんの?」
屋台のおっちゃんが眉間に皺を寄せて聞いて来た。
「あ、独り言です。 すみません。」
ぺこりと程よく頭を下げといた。
「まぁねぇ 仕方ないよ 値上げはねぇ どこもかしこも高いんだから。 でも今日は忘れて楽しみなさいな」
聞いてもない事を言って来た。サクラちゃんが居ると言うのに。だが人に見えないからこそいい。俺だけが知ってる。サクラちゃんはかわいい。
花火がよく見える上の方まで来た。階段がきつい。
花火がよく見える場所というのは皆んなに広まっているらしく、沢山の人が見えた。中には友達と来ている安藤真綾もいた。友達の方を向いて盛大に笑っていた。
何かが落下する様な音がして
花火が上がった。花火という名前に相応しく花の様に咲いて上がってった。
綺麗だった。
花火もサクラちゃんも。
サクラちゃんが上がっている花火を背景に俺の方を向いて来た。また、幸薄いそうに笑った。サクラちゃんの制服のスカートが風で揺れる。俺の心も揺れた。
何回かみた事があった光景だった。何となく知っている空気感。目を見開いてサクラちゃんの喋って動いている口を見た。
(花火大会連れて来てくれてありがと。 私ね 花火大会2日前に死んだの。 交通事故だったなぁ)
体の後ろに手を組んでゆっくりと言った。
(今 幸せ‼︎ 大好き‼︎)
サクラちゃんは幸せそうに笑った。
風の強い音が出た。瞬きをした瞬間にサクラちゃんは消えていた。
何回かみた事があった光景だった。幽霊が成仏する光景。最初は成仏する時に白い光や体が透けたりしない事に驚いた。何回か繰り返せば、元カノが成仏するたびに、成仏しそうな雰囲気を感じとる事が出る様になってった。成仏せずに悪霊化してくれればずっと俺と一緒にいてくれるかもしれないという期待でサクラちゃんと付き合っていた。
「花火大会行かずに成仏させなさればよかったな」
「あーぁ後悔した。」
下を向きながら花火大会を後にして階段を下ってった。何故成仏してしまうのかよく分からなかった。成仏せずに幸せならば俺とずっと一緒にいればいいのに。幽霊は人間と違って何を考えているのか分からない。だからこそ好きだ。だからこそ難しい。
暗い田舎道を歩きながら俺の何がダメだったのか考えながら家に帰った。
「ただいまぁー」
小声で言いながらドアを開けた。薄暗く灯りが付いている。リビングにだれもいないのを確認してから自分の部屋に上がった。あいつらはもう寝たらしい。
軽くベッドにダイブしてため息を吐きながら寝落ちした。
朝起きて目がボヤボヤしながら朝シャワーを浴びた。
シャワーのお湯が排水口にコポポと流れる音が響く。
気持ち悪い。
学校が始まる合図のチャイムがなる。机に肘を置きながら窓の外を見た。
「かなたぁー 花火大会行った? 俺行った‼︎」
田中が俺の気持ちも考えず叫んできた。
「はぁー」
ため息をついて教室の机に顔を縮こませる。
「いつもと一緒で眠いの?」
藤本が聞いて来た。
「失恋した。」
小さく心の声を漏らした。俺は泣きそうだ。
「マジでぇー‼︎」
田中と藤本が声を揃えて叫んだ。
笑い、俺の頭を指で突きながら遊ぶ。やめてほしい。
椅子や机を引きずり、皆んなが自分の席に着く。
教室の窓を開ける特徴的な音がした。
先生が入って来た。何やら表情が深刻そうだった。
「皆さん、ホールルームを始める前にお伝えする事があります。安藤真綾さんが昨日の夜から行方不明です。 安藤真綾さんを見た人は直ちに教えて下さい。」
チャイムガ鳴り、静かだった教室が一瞬にしてうるさくなる。
「安藤真綾さんの親御さんや警察まで動いています。
皆さんも帰り道は気をつけ、あまり夜は外に出ない様にして下さい。」
先生が小走りで教室から出ていく。大変なのだろう。
男子と女子が顔を見合わせ、考察をしている。クラスのまとめ役の女子がクラスの一人一人に事情を聞いて回っている。俺の所まで回って来た。
「なぁ哉太は何も知らない?」
スカートの裾を握りしめながら聞いて来た。
ぱっと花火大会で安藤真綾を見た事を思い出す。
「知らん トイレでも行ってるんちゃうん?」
面倒くさかったので知らないふりをしといた。ここで俺が安藤真綾を見た事を言っても、安藤真綾の周りにいた人は誰なのか、ほとんど知らない事を聞かれるだけだろうし、俺は失恋した後だ。花火大会のことは出来るだけ話したくない。
「汚ったねぇー」
田中がギャハハと豪快に笑い、俺の方を指差した。
その瞬間、まとめ役の女子が田中の頭をスパァンと叩いた。
綺麗な音がした。
「何てこと言うの‼︎ なんかやばい事件に巻き込まれてたらどうするのよ‼︎ 不謹慎な事を言わないで。」
まとめ役の女子が田中に言った。
「まぁ 家出か誰かの家に泊まってるとかでしょ。俺らの住んでる地域は治安悪いし。 安藤真綾ちゃんの悪い噂もちょくちょく聞くしね。」
田中の隣にいた藤本が冷静に言った。
藤本が言った事は多分クラスの誰もが思っていた事だと思う。俺たちの住んでる地域は治安が悪く、家庭的にも色々あるため、家出や無断で学校を休んだりする事はよくあった。その為、この件をあまり重くは考えてはいなかった。
そのまま今日は何も起きず、学校を過ごした。
安藤真綾が死んだと連絡が入った。
今日中の夜だった。田中からだった。風呂に入ろうとして携帯を取った時に電話が鳴った。安藤真綾が死んだ。安藤真綾の自宅付近の公園で亡くなっていたらしい。公園の階段に躓き頭から落ち、木の陰の見えずらい所に転がっていたのとその公園は古く、人が通りにくい場所だった為発見するのが一日遅れたらしい。
何故そんな事を田中が知っているのか聞いたら、田舎過ぎて安藤真綾の亡くなった情報や噂がもう色々な所に広まっているらしい。
「なぁ 俺が茶化したりしなければ安藤真綾ちゃんは死ななかったのかなぁ、、、 俺が不謹慎な事を言っちゃったからかな、、 俺っ そんなつもりなくて 」
田中が汚く泣きながら聞いて来た。
「んなわけねぇだろ 何で茶化したり、不謹慎な事言っただけで人が死ぬんだよ だだ公園の階段から落ちて死んだんだろ 」
そう言ってあげた。
田中はバカだ。 そんなんで人が死ぬ訳がない。死ぬのであればもうとっくにクラスの全員死んでいる。だだ安藤真綾が死んだとは知らずに不謹慎な事を言ってしまった自分が罪悪感を感じているだけだろう。
田中との電話を切り、風呂に入り、服を着て、後は寝るだけの所まで準備をしといた。
夜の外に出た。
もちろん目的は安藤真綾が死んだ公園だ。
公園まで意外と距離があった。疲れた。
公園には一つの灯りしかなく、暗かった為、灯りの近くのブランコの方に近づいた。
安藤真綾がブランコの近くに立っていた。
花火大会の帰りだったのか浴衣姿だった。
浴衣の裾と黒髪が風で揺れるたび、冷や汗が出て来た。足が安藤真綾の方に進むたび、顔と耳の先が紅くなり、動悸がした。
綺麗だった。
「安藤」
恐る恐る声をかけてみた。
(私が見えるの?)
安藤真綾がにんまり笑いながら聞いて来た。
俺はコクリと頷いた。コクリと唾を呑みながら。
安藤真綾の手が俺の手を包んだ。
ひやりと冷たい感触がし、一瞬にして魅力に引きずり込まれた。
そのまま手は離さずに、見つめ合いながらベンチに座った。安藤真綾を見つめるたびに心が脈打つ。血が頭に上り、クラクラする。安藤真綾は脈も止まり、血が通っておらず死んでいると言うのに。
俺は生きていて、安藤真綾は死んでいる。それを頭で理解すると興奮してきた。
(あのね 哉太くん 私を殺した人を探して欲しいの)
まだ俺の手を握りながら上目遣いでお願いしてきた。
ゴォァント グチャァン と鈍い音が身体から響く。
グルゥグル と目が回る。思考がグチャる。
こんな嬉しい事があっていいのか。学校の中で一番可愛くてエロいと言われていた子が死んで俺の恋心を揺さぶる。あの子が可愛いなどと言う男子生徒の話はいつもの俺には分からなかった。女の子が死んでくれれば分かるのに。だか、今になって分かる。
安藤真綾は魔性の女だ。
俺は安堂真綾に一目惚れをした。
優しく笑いながら安藤真綾に手を差し伸べた。
だって俺が殺したから。




