6 庭園とジュース
庭園に着くと、そこには小さなテラス席のような席があった。と言っても西洋風と言うより、やはり東洋風に統一されている。所々にうさぎを模した飾りが飾られている。なんだか丸っこくて可愛らしい。そして色とりどりの花に囲まれていて、なんだか童話の中に迷い込んだみたいだ。
「綺麗。」
「気に入って良かった。今飲み物持ってくるね。」
踵を返す春兎。そしてとても自然な様子で椅子を引いてくれる秋兎。
先ほどまでの態度と違いすぎて、私がギョッと目を開くと、秋兎はしまった、と一瞬慌てた顔をしたが、すぐに苦虫を潰したような顔をし、チッと舌打ちをした。
「なんなのよ。」
「うるさい。早く座れ。」
秋兎はそう答えると、私をテラス席の椅子に座るよう促した。言葉はぶっきらぼうだが、所作はとても丁寧だった。普段からこういうことしているんだろうか。なんてふと考えていると、タイミング良く春兎が3つのグラスを持って戻ってきた。
「お待たせ!ジュース持ってきたよ。」
春兎は私の前にジュースを置いて、目の前の席に座った。同じテーブルを囲んで秋兎も座る。一つの丸テーブルを3人で囲む姿は、まるでオフィスの女子会だな。
「それで、市葉。気になることとか、聞きたいこと、なんでも聞いて!答えるよ!」
ニコッと微笑む春兎。秋兎は喉が渇いていたのか、それともこのジュースが好みだったのか、グイグイと飲んでいる。
いきなり気になること聞きたいことって言われても、全部が気になることだし、聞きたいことでもあるんだけどな…。でも『全部!』なんて言ってもこの双子が困るだろうし、社会で働いていた身としても、相手に「全部わかりません」なんて言われると、頭を抱える。実際にそういった経験もある。ここは答えやすく聞かねば。
「えっと、まずここはどういった場所なんですか?」
「庭園のこと?」
「いや、庭園というか、そもそもの国というか。」
「なるほど。そこからね。清月様本当に何も説明せずに市葉を連れてきちゃったのかな。」
やれやれ、と眉をハの字にして、春兎は苦笑した。
「じゃあ説明するね。ここは『月の国』だよ。」
「月ってあの空の月?」
「そう。その月だよ。市葉の国からも毎日見えてるよね?」
「あー…うん。見えてるけど…。」
いきなり月の国と言われて驚く私。春兎は続ける。
「ふふっ、月だけじゃなくて、いろんな国があるんだよ。例えば海の国とか。うちの国とも交流があるんだよー。」
ニコニコと笑う春兎。月の国も海の国もどちらも聞いたことがない。ああ、でも宇宙とか深海はまだ解明されてないことがいっぱいあるって聞いたことがあるような…。そういう世界も存在するんだろうか。私が知らないだけで。なんて無理矢理にでも納得させようとする自分がいる。
「海の国…?」
「そうだよ!海の国はねー。」
「おい、春兎。海の国よりも先に月の国の紹介をした方がいいだろ。こいつ月の国のこと何も知らなさそうだし。」
横から言葉を挟む秋兎。
「あ、それもそっか。」
うんうん、とうなづいて春兎は話を続ける。
「じゃあ、月の国について紹介するね。ここはさっきも言ったけど月の国。今は姫様が当主としてこの国を治めているんだ。あとは普通に庶民もいるし、貴族もいるっていう国だよ。今市葉がいるここは、姫様たちも住んでる場所…簡単に言えば後宮みたいなところかな。あ、でも男子禁制ではないけどね。」
ニコニコと言葉を続ける春兎。
「どうして私がその後宮にいるのかしら。」
「ああ!それは清月様が。」
「その清月様ってさっきからちょこちょこ名前を聞くけど、清月様って誰?」
「清月様は…もごっ。」
春兎の口を塞いだのは秋兎だった。そして秋兎は黄金色の瞳で春兎をキッと睨んだ。春兎は怯む様子は全くなく、むしろ「あ、そうだったね。ごめーん。」なんてヘラヘラ笑いながら、自分の口を塞いでいる秋兎の腕を退けた。
「ま、その話は置いといて、市葉他に聞きたいことは?」
え、何今の。その話が気になるんだけど。
もう一度清月様という人物について聞こうとしたが、秋兎が私を睨んだ。あ、これ聞いちゃいけないやつなのかな。じゃあ、別の質問…。
「うーん、じゃあ、二人って幾つなの?」
意外な質問だったのか二人はきょとんとした顔を私に見せた。
「いくつだっけ。百超えたあたりから数えるのが面倒になってきちゃって。二百は超えてたよね?秋兎。」
「まあな。」
いやいやいや、どう見ても10代だよね!?
「ご冗談では?」
「冗談じゃねーよ。こんなところで冗談や嘘をつく意味がない。」
「でもどう見ても10代…高校生でも十分通じる見た目ですが…。」
「お前まだ言うか?」
私と秋兎のやりとりが面白いのか、春兎は楽しそうに眺めている。そして秋兎のイライラゲージが見るからに上がっている。
「俺たち月の国の者は、市葉の国の人と寿命が違うんだよ。不老不死ではないから、ずっと生きるわけではないけど、長生きな人は数千年生きるよ。」
「本当に?」
「本当だよ。」
そう答える春兎の横に座っている秋兎の顔も見てみると、当然だ、と言わんばかりに頷いている。自分の常識が常識ではない、頭が混乱してきた。
「市葉、顔色あんまり良くないけど大丈夫?ほら、ジュース飲んで。」
「うん、ありがとう。」
私は自分を落ち着かせるためにジュースを口に含む。
あ、美味しい。甘さはあるが、思ったよりもすっきりとした味わいだ。
「美味しい?」
春兎の問いかけに私は頷く。
「良かった。」
春兎は屈託のない笑顔を私に向けた。
「ああ、でも俺たちといるときはいいけど、俺たち以外とお茶会や食事を食べるときは気をつけてね。たまにイタズラされることがあるから。」
「イタズラなんて言葉じゃなくて、もっとはっきり言っておけよ春兎。こいつ、多分はっきり言わないとわかんねーと思う。」
「それもそっか。」
二人の表情がスッと真面目になる。さっきまでのホワホワした雰囲気はどこへいったのか、二人、特に春兎を纏う空気がひんやりと冷たくなる。
「たまに、毒を入れられることがるから、気をつけてね。清月様の側に立ちたい女は山ほどいるから。」
背筋がぞくっとする。そしてすぐに春兎はパッと笑みを浮かべる。
「ま、そうならないように出来るだけ俺たちも市葉の力になるように努めるから、今後ともよろしくね!俺と秋兎は市葉の味方だから、これだけはしっかり覚えておいてね。」
なんだか私はとんでもないところにきてしまったんじゃないだろうか。
私の顔色がサッと青ざめる。そんな様子に気づいたのか、秋兎が口を開いた。
「そろそろ時間だ。清月様の公務が終わるから、さっきの部屋に戻るぞ。お前は少し休憩しておけ。」
「そうだねー。わからないことだらけだろうし、少しずつ覚えていこうね!」
二人に連れられて、私は先ほどまでいた元の部屋に戻ることになった。




