5 双子と年齢
「わー、お姉さん綺麗になったね。」
「馬子にも衣装だな。」
程なくしてひょっこりと襖から顔を出してきたのは、先ほどの双子。春兎と秋兎だった。
っていうか、秋兎。あなたはどうしてそう悪態をつくかな。
私がジトーっと見ていると、視線に気づいたのか秋兎はフイっと顔を背けた。
「そうそう大事なことを忘れてたんだ。」
春兎が両手をポンと叩いた。
「俺、お姉さんの名前聞きそびれてて。お姉さんって呼ぶのも悪くないんだけど、俺たちの方が年上だろうから、お姉さんって呼ぶのもなんか変だなーと思ってさ。」
え、いやいや、どう見ても私の方が年上でしょうよ。
君たち見た目高校生くらいじゃない。
「というわけで、名前教えてくれないかな?」
人懐っこい笑みを浮かべる春兎。社交的なスマイル、職場だったらもれなく百点満点を上げたくなる。
「そもそも俺たちは名乗ってるけど、そっちの名前知らないっておかしいし。」
それはそっちが聞いてこなかったからでしょうよ。
秋兎を睨むが、怯むどころか彼はハンッと鼻を鳴らした。
「長月市葉です。」
「ながつき、いちは…。すごい!本当に苗字と名前ってのがあるんだ!面白い!」
「え、普通じゃないの?」
「市葉の国では普通なんだろうね。俺たちの国では苗字って概念がないから。だから、俺たちの国風に、ここでは市葉って呼んでもいい?」
「好きに呼んでもらえたら。」
「わーい!」
春兎はぴょんぴょんと跳ねた。まるでウサギのようだ。
それにしても苗字っていう概念がないって、どういうことだろう。そもそもわからないことだらけだし。この服装だって、この部屋の装飾だって、ここにいる人たちだって、わからないことだらけだ。うーん頭が痛くなってきた。
「…調子が悪いのか?」
声をかけてきたのは黄金色の瞳、秋兎だった。
「いや、色々わからないことだらけで考えようとしたら頭痛くなってきちゃって。」
「なんだ。病気じゃないならいい。」
心配して損した、と言わんばかりに秋兎はそっけなく答えた。
「秋兎は心配性なんだ。俺はそれに比べたら適当な方で。俺たち見た目はこの通りソックリだけど、中身は結構違うんだよ。ねー秋兎。」
「お前はもう少し慎重になれ。春兎。」
「はいはーい。お兄ちゃんはしっかり者の弟がいて嬉しいな。」
「近づくな。暑い!」
わしゃわしゃと戯れる双子。春兎の言葉から、おそらく春兎が兄で、秋兎が弟なのだろう。なんていうか、微笑ましいというか、可愛らしいというか。
「おい、お前。なんだよそのニヤニヤ笑って。」
「え、可愛いな…と思って。」
「お前な。年長者に向かって可愛いはないだろ!」
「いやいや、どう見てもあなたたちの方が私より年下でしょう?見たところ10代に見えるんですけど。」
「じゅっ10代!?」
顔を赤くする秋兎。私何か変なことを言っただろうか。その横で春兎は頬をパンパンにして笑いを堪えている。そして、それは長く持たず吹き出した。
「あははっ、10代だって。秋兎。随分と若く見られたねー俺たち。」
お腹を抱えて笑う春兎。目尻には涙が浮かんでいる。そんなに面白かっただろうか。
「市葉、俺たち軽く数百年は生きてるから、市葉より大分年上だよ。」
「え。」
いやいや、冗談でしょ。どう見ても10代だし。
私が目を丸くしているのが面白いのか、それとも単なる笑い上戸なのか、春兎はケラケラと笑いながら言葉を続ける。
「とは言っても、この国じゃ俺たちはまだまだ若手の方だけどね。上の方の偉い人は千年は生きてるし。」
桁がおかしい。千年って人間そこまで生きられるわけ…って、そもそもこの人たちって人間?だめだ、わけわかんない。
「あれ?おーい、固まっちゃった。秋兎、どうしよっか?」
「またさっきみたいに考えすぎて頭痛くなってんじゃねーの。」
「ああ、なるほど。確かに色々突然だったもんね。」
それもそうか、うんうん、と頷きながら、春兎は私の肩をポンポンと叩いた。
「市葉、良かったら庭園の方へ移動しない?気分転換と頭の整理も兼ねてさ。庭園に着いたら、この国のことや、市葉の聞きたいこと、答えてあげる。」
「さっき様子見てきたら、まだまだ清月様の公務は時間がかかりそうだったからな。しょうがないから公務が終わるまでの間だけ付き合ってやるよ。また10代だのわけわからないこと言われたくねーし。」
「よーし、決まりだね!じゃあ、行こう!」
春兎は私の両手を取ると、ぐいっと引き上げて私を立たせる。そして、そのまま流れるような動作で、私の手を引いた。
「庭園までごあんなーい!」
元気一杯の春兎の声が廊下に響いた。




