3 お目覚めと双子
「う…ん。」
ゆっくりと瞼を押し上げると、視界に入ったのは布団だった。
そうか、変な夢を見たけど、あれからきっと家に帰って寝たんだな。
もう一度目を閉じる。
今何時だろう、仕事にも行かないと…。それにしてもうちの布団こんなに肌触り良かったかなぁ。
掛け布団をきゅっと握り、頬を擦ってみる。
滑らかで、柔らかい。それに何かいい匂いがする。最近布団干せてなかったのに、お香を焚いたみたいな匂いがする。
微睡つつも、ゆっくり目を覚ますと、そこは見たことない天井が視界に入った。
和風と中華風を織り交ぜたような、キラキラと輝く東洋風の飾りがぶら下がる天井。
雪洞のような照明は、ぼんやりと淡い橙色に光っている。
へえ、綺麗だなあ。
「ここっどこ!?」
勢いよく起き上がる。
よく見れば刺繍入りの大層豪華な布団で私は寝ていたようだ。う、よだれとかで汚してないよね…?ってそんなこと考えてる場合じゃない。ここはどこ!?
慌ててあたりを見渡すと、丸い窓が視界に入った。その窓は丸い障子になっており、細かい装飾も施されている。何から何かまで豪華な…って、そんな場合じゃない。私は障子に手をかけ、スッと開いた。すると目の前に広がっていたのは、見たこともない庭だった。名前も知らない、だけど綺麗な色とりどりの花が咲いている。そして、ぴょんぴょんと庭を飛び回っているうさぎ。
夢?そうだ、夢だ夢。
私は頬をつねる。痛い…。夢なら覚めて。
その時だった。部屋の襖が開いた。そこからひょこっと顔を出したのは、瓜二つの顔が二つ。
「あ、起きた。」
「起きたな。」
「なんか挙動不審だけど大丈夫かな。」
「清月様がちゃんと説明してるはずだけど…いや、清月様結構適当だもんな。」
「だねー。」
同じ顔の青年。淡いミルティー色の髪に、一人は若草色の瞳、もう一人は黄金色の瞳。
見たところ高校生くらいだろうか。
二人と目が合った。
一人はにっこり笑ってひらひらと手を振ってきた。もう一人は警戒するようにジーッと見つめている。
「こんにちは。お姉さん。よく寝れた?」
若草色の瞳がにっこり笑った。
「えっと、あなたたちは?」
「俺?俺は春兎だよ。こっちは俺の双子の弟の秋兎!」
秋兎と言われた黄金色の瞳の主は、フンっとそっぽ向いた。
あれ、嫌われてるのかな。何かしたかな私…いや、何もしてないよね、初対面だもの。
「秋兎照れてる?」
「照れてない。清月様が連れてきた花嫁が思ったよりガキっぽくて意外だっただけ。」
「がっガキっぽいって!」
どう見ても私よりあなたたちの方が年下でしょうが!
喉まで言葉が出たところでぐっと飲み込んだ。
「お姉さんの目が覚めたら、清月様に知らせるように言われてたんだけど、丁度今清月様は公務中なんだよねー。というわけで、もう少しそこで待っててね。」
清月って誰?
「おい、春兎。これ、忘れてるだろ。」
「あ、いけない。そうだった。はい、お姉さん、良かったらこれに着替えてね。」
春兎と呼ばれた若草色の瞳の青年は、扉をもう少し開き、よいしょっと言いながら葛籠を抱えて、私の前まで持ってきてくれた。
「着替えるって…?」
私が二人に問いかけると、黄金色の瞳、秋兎が口を開いた。
「その格好じゃこの国じゃ浮くからな。そんな男か女かわからないような格好だと清月様の隣に並ぶには不相応だ。」
男か女かわからない格好って…。ただの仕事帰りのオフィスカジュアルですけど!普通のシャツにパンツスタイルの、どこでもいる通勤着スタイルですけど。しかも普通にレディースだし!
私がジーッと黄金色の瞳を見つめると、彼はまたプイッとそっぽむいた。
なんなのよこの子。
「これはオフィスカジュアルよ!」
「なんだよオフィスカジュアルって。」
「私からすればあなたたちこそ、不思議な格好してるわ。東洋風っていうか、なんなのその格好は。」
「これは俺たちの普段着だ!」
「それをいうなら私のこの格好だって私の普段着です。」
まるで猫の喧嘩のようにフーッと逆毛だっている私と彼をよそに、春兎はアハハッと声をあげて笑っている。
「良かった。お姉さん秋兎と仲良くなれそうだ。」
「「どこが。」」
しまった。声が揃ってしまった。私と秋兎は顔を見合わせてお互いにふんっと顔を横に振った。
「とりあえず、これに着替えてね。俺たち外で待ってるし、着替え終わったら声をかけて。」
人懐っこい笑みを浮かべる春兎。葛籠に視線を落とせば、淡い水色や紫色が入り混じった綺麗な布が視界に入る。そっと手を触れれば、サラサラとした肌触り。なんとなくだけど上質なものだろうと思った。って、このヒラヒラを着ろって?アラサーに!?罰ゲームかな!?こういうのは観光地で10代〜20代の若い子が着ればそりゃもう可愛いんだろうけど!お姫様みたいでね!
「遠慮しておきます。」
「どうして?」
春兎は小首を傾げた。
「どうしてって。アラサーにこのヒラヒラはちょっと年齢的にきついっていうか。」
「アラサー?ヒラヒラ?この国じゃ普通の服ですが…そりゃ、庶民に比べては上質なものになるけど。」
「普通って。あ、もしかしてドッキリとか。」
「ドッキリ?」
春兎は再度首を傾げた。
「なんでもいいから早く着ろよ。俺たちも暇じゃねーんだから。」
秋兎が横から口を出した。
「こーら秋兎。そんな言い方はないだろう。このお姉さんも昨日の今日で混乱してるんだろうし。お姉さんの様子を見る限り、清月様色々説明してなさそうだし。」
秋兎は何か言いた気な様子だったがグッと堪えた。
「というわけで、お着替えをお願いしても?」
「えーと。」
「はっ!もしかして、着方がわからないとか。」
いや、それもあるけど、現状がわからなすぎて。
「そっか。うん、そうだよね。いきなり知らない国にきて、その国の服の着方とかわからないよね。うんうん。じゃあ、着付けを手伝ってもらえるように女中に声かけてくるね。」
「え、あ、ちょっと。」
「すぐ声かけてくるね。ほーら、秋兎も行くよ。お姉さんとお話してたいなら別だけど。」
「そんなんじゃねーよ。」
二人は走って行ってしまった。
私はポカンとその後ろ姿を見つめていた。




