17 制服
「ダメなものはダメだ。」
「まるで大きな子供ですねえ。清月様。」
清月様の後ろからスッと姿を現したのは白兎さんだった。
いつの間にここまできたのだろう。全然気づかなかった。
「白兎。」
「おお、怖い。できればその表情を執務中や議会で見せて欲しいものですね。あなたの普段の表情はやや威厳が足りませんので。」
白兎さんを睨みつける清月様。背筋がスッと凍るような冷たい視線をしているが、白兎さんは少しも驚いたり狼狽えることなく、淡々と話を進める。
そして、白兎さんは、私と黄星さんの前にたった。
「黄星。この子は医官補佐としてあなたのもとで職務についてもらいます。人手も少なかったでしょうし丁度良いのでは?これであなたが前からやりたいと言っていたことも実現できそうですよ。」
「私は大歓迎よ。医学の知識が多少なりともある子が来てくれてとっても助かるわ。それに、確かに前々から私が話していた事もこの子がいれば実現可能ね。」
「でしょう?」
ふふ、と何かを企むような二人。
私はなんだろう?と思いつつも清月様をみた。彼は私と目が合うと、なんともいえない表情をしていた。怒っているというか、悲しんでいるというか、心配しているというか、そんな表情だ。
「じゃあ、早速だけど、色々説明もしたいし、今からこの子を借りてもいいかしら?」
「どうぞ。」
「ダメだ。」
やはり横からストップする清月様。
黄星さんはヤレヤレと笑いながらため息をついた。そして、ゆっくり歩みを進めて、清月様に耳打ちをした。
「清月様、さっきは試すような行動をしちゃってごめんなさい。市葉ちゃんはあなたのお嫁さんになる予定の子なんでしょう?私が手を出すわけないじゃないの。何をそんなに焦っているの?」
「別に焦ってはいない。」
「うちで薬のこと、医学のこと、宮中のこと、そして毒に対する防衛、そのあたりのことをこの子に教えるわ。いつかきっと、この子とあなたの助けになるはずよ。」
黄星さんは形のいい唇で綺麗な子を描いた。彼が清月様から数歩離れると、清月様は、はあ…とため息をついた。
「しょうがない。認める。」
「良かったわ!じゃあ、早速だけど、市葉ちゃん。うちでは薬や消毒液、そして怪我人や病人に触れるケースが多いわ。なのでそんなに上等な衣装を着ていては汚れてしまうし、動きにくいわね。ということで、この中から好きなのを選ぶといいわ。」
いつの間にか黄星さんは大きな葛籠を持ってきて、その蓋を開けた。
中には、白や水色を基調とした服が何着か入っていた。
「特におすすめはこのあたりね。清月様、せっかくだからこの子に似合うのはどれだと思う?」
清月様に問いかける黄星さん。
清月様は、それをじっと見つめると、「これだ。」と手にとって、それを私に渡した。
「あら、いいセンスしてるじゃないの!素敵よ清月様。じゃあ、市葉ちゃん、着替えてらっしゃい。そこの奥の部屋を使って。今は誰も患者がいないから。」
そう言って渡された服は、白と青を基調にした、まるで大正時代の女学生、ハイカラさんのようなスタイルだった。確かに下が袴のようになっており、丈もそんなに長すぎず、下にブーツを履けば、今すぐにでも走り回れそうだ。
今まで来ていた豪勢なものより着やすい。
上は作務衣のようになっており、断然に今までの服より着脱が楽だ。
「あの、着れました。」
「あら、よく似合っているわね。」
パチパチと小さく拍手をする黄星さん。
「どうかしら?清月様?」
肘で清月様を小突く黄星さん。
清月様は黄星さんに一瞬眉間に皺を寄せたが、すぐにいつも通りの笑みを浮かべて私に笑いかけた。
「よく似合っていますよ。市葉さん。」
「ありがとうございます。」
なんだか照れ臭い。まるで、七五三の撮影をする幼な子のようだ。
「あら、あらあら、まあまあ。」
清月様と向き合っている私に向かって黄星さんが口を開く。
「二人とも似たような色合いのお洋服だからお似合いね。そういえば清月様って昔から青色が好きよねー。俺色に染まれってことかしら?あらあ、清月様。意外と強引なところがあるのね。そこはお姉様に似ているわね。」
茶化すような黄星さんに、みるみると清月様の顔が赤くなっていく。
「僕は今から仕事に戻らないといけないから、市葉さんのことは頼んだ。じゃあ。ほら、白兎もいくぞ。」
バッと踵を返して部屋から出て行こうとする清月様。
ふと戸の前でぴたりと足を止める。そしてこちらへ振り向いた。
「市葉さん、黄星に何かされたら、遠慮なく僕に言ってくださいね。いつでも国外追放しますので。」
ふふっと笑みを浮かべて部屋を出ていってしまった。
「ちょっともう、失礼しちゃうわ。何もしないわよ。私には決めた人がいるんだから。」
黄星さんは頬をぷくっと膨らませた。
先ほどからの話のそぶりからして、黄星さんって清月様のこと昔から知ってそうだな。
それにしても黄星さんって変わった人だ。こんなにモテそうな外見なのに、口調は変わっているし。もしかして『決めた人』っていうのが関係あったりして。
「さ、市葉ちゃん。早速だけど、私とまずはお話ししましょう。」
医学の話かな。私ついていけるかな。
じっと黄星さんを見つめる。両手の拳をきゅっと握る。使えない人間だと思われないようにしないと。
「そうね、まずは…。」
黄星さんは立ち上がって、部屋にある本棚から一つ冊子を取り出した。
ゴクリ、と唾を飲み込む私。
「うちの女中や女官たちの制服集なんだけど、どれが一番可愛いと思う?」
コント並みにズッコケそうになった。
神妙な雰囲気を出しつつ、聞いてきたことが雑誌見ながら「どの制服が可愛いかな〜」なんて言ってるようなもんじゃないか!休み時間の中高生か!
「ちなみに私は衣装部門の子たちの制服なんだけど、この色合いすっごく可愛いと思わない?」
鼻歌まじりに気分良さそうに聞いてくる黄星さんはまるで女子高生のようだ。
「どれも可愛いと思いますが…。」
「ダメよ!適当な回答は認めないわ!せっかくだからゆっくり鑑賞して話し合いましょう?」
黄星さんは上機嫌だ。
「お茶とお茶菓子も用意しちゃうわ!今日はたくさんお話ししましょうね!」
「えーと…。」
「みてー!ここの制服はねー。」
それから黄星さんと冊子…もとい、制服鑑賞会が開催された。




