16 黄星
「いや、調子は悪くないよ。」
「あらそう?なら良かったわ。…ん?あらあら、まあまあ!その子ってもしかして噂の子?」
「そうだよ。」
「あらー!」
チャラいお兄さんは私を上から下までジーッとみた。そしてパッと花が咲いたように笑った。
「可愛らしい子ね。そして若い!眩しい!肌が輝いているわ!」
「いえ、私そんなに若くは…。」
「いいえ、若いわよ。みたところ30そこらでしょう?私から見れば赤ちゃんよ!赤ちゃん!」
うふふ、と笑うお兄さん。動くたびに金髪のゆるいウエーブがかった髪がふわふわと揺れる。なんというか、海外モデルみたいだなあ。綺麗な髪。
「私は、黄星っていうの。気軽にキボッシーって呼んでくれていいわよ?」
「誰もそう呼んでないよね。」
「あら、清月様。そうとも限らないわよ!私のことキボッシーって呼んでくれる子いるんだから。」
「へえ、それは誰だい?」
「知りたい?うふふ、じゃあ特別に紹介しましょう。こちらへどうぞ。さあ、あなたも。」
ね、と付け加えて黄星さんはウインクをした。ピンと上向のまつげが印象的だ。
「さあ、ここよ。」
案内されたのは医務室…の奥にある扉を開けたさらに向こう。
「医務室の奥は私の私室なの。そして紹介したいのはこの子よ!」
ジャジャーン、と手を広げて見せてくれたのは、カゴに入った小鳥だった。文鳥のような白い姿はまるでお餅のようにふっくらとしており、とても愛らしい。
「私の相棒よ。この子とっても賢いから、私のことキボッシーって呼んでくれるんだから。さあ、私の名前を呼んでちょうだい!」
小鳥に向かって話す黄星さん。小鳥はトントンと止まり木の上でジャンプすると、可愛らしい声で鳴く。
「キボッシー。」
「ほら!みてごらんなさい!」
おおー。思わず拍手をする。小鳥も拍手されたのが嬉しかったのか、勝ち誇ったような顔をしている。
「黄星。いつの間に小鳥を飼ったんだい?」
「最近よ。怪我をしていたところを助けたんだけど、そしたら懐かれちゃって。せっかくなので飼うことにしたのよ。もしかして申請が必要だったかしら?」
「いや、そんなことはないよ。可愛い子だね。名前は?」
清月様はふふっと微笑んでカゴを見つめた。
「実はまだ決まってないのよね。可愛い子、とだけ呼んでるわ。いい名前が浮かばなくて。せっかくだから清月様つけてくださるかしら?」
「いいけど…何がいいかな?あ、あなたは何がいいと思いますか?」
突然話を振ってきた清月様。私は、えっと驚いて彼の顔を見つめた。
彼はにっこりと笑って私に問いかけた。
「せっかくなので、素敵な名前をつけてあげたいですし。」
「私じゃなくても良いのでは?」
「参考までにお伺いしたいのですよ。」
ふふっと笑う清月様。そして黄星さんも私をじっと見つめた。
うっ、小鳥の名前…そんなのすぐに思い付かない…。えーっと何か良い名前…白くて、丸くて、可愛くて…ふとよぎるのはさっき食べた大福。
「大福…?とか。」
清月様と黄星さんが顔を見合わせている。
そして二人はフッと吹き出した。私の顔がカアっと赤くなる。恥ずかしい。
「忘れてください!」
「笑ってごめんなさい。いい名前ね。大福。」
「僕も賛成です。それに白兎の好物ですからね。例え飼育を反対されても、この名前なら白兎も断ることができないでしょう。」
「確かにそうね!」
あははっと笑い合う二人。
「大福ちゃん、大福ちゃん。」
黄星さんが呼びかけると、小鳥はピッピと機嫌良さそうに鳴いた。
「気に入ってくれたみたいね。あ、そういえばあなたの名前を聞いてなかったわね。」
「長月市葉です。」
「市葉ちゃんね。よろしくね。」
握手を求めてきた黄星さん。私もその手を取って握手をする。
「清月様、この子とっても面白い子ね。」
「ええ。素敵な女性です。」
「ふふっ。清月様がそんなに穏やかな表情ができたなんて驚きだわ。お茶でも出しましょうか?」
「いいや、大丈夫。さっきまで白兎のところでお茶を飲んできたところだから。」
「あらそう。残念。」
そう言いつつも少しも残念そうじゃない。黄星さんはあっけらかんとしていた。
「ところで、清月様?」
「なんでしょう?」
「その子、市葉ちゃんね。私の同業者かしら?」
「どうしてそう思うのか聞いてもいいかい?」
清月様が答えると、黄星さんは私に近づいてきて、私の首筋に顔を近づけた。
なっ!!?
私はカチコチに固まる。清月様も突然のことに驚いたのか手が止まっている。
黄星さんはスンスンと軽く私の匂いを嗅ぐと、やっぱりね、と呟いた。
「黄星。」
清月様はさっきまでの朗らかな様子はどこへ行ったのか、鋭い視線を黄星さんに向ける。
「あらやだ。この子を取って食おうってのじゃないわよ。そんなに怖い顔しないの。」
黄星さんはあっけらかんとしている。
「この子から、かすかに消毒液の香りがしたから、確かめただけよ。怪我をしているわけでもなさそうなのに消毒液の香りがするってことは、同業者なのかしらって思っただけ。」
そう答えるが、清月様は警戒を緩めない。
「んもー。そういうところはあなたのお姉さんそっくりだわ。困ったわねえ。で、市葉ちゃん。あなたも医官なの?」
にっこり笑顔を浮かべて私の背に合わせて少し屈んで話す黄星さん。
「いえ、医官ではなく。私の国では看護師をしていました。」
「なるほど。」
うんうん、と腕を組んで頷く黄星さん。
「丁度人手が足りなくて困っていたの。」
そういえば、白兎さんが医官補佐がどうのこうのって言っていたっけ。
「清月様。この子、医官補佐ってことで私に付いてもらっちゃだめかしら?」
「ダメだ。」
そういう清月様。
珍しい、さっきまでの雰囲気とは打って変わってきっぱりと言ったのだった。
「えー。いいじゃないの。市葉ちゃん、他にここでやることって決まってるの?」
「いいえ…特には。」
「じゃあ、いいじゃない。市葉ちゃんの世界の医官のことも教えて。」
「えっと…。」
私はちらっと清月様を見る。
清月様は眉間に皺を寄せていた。




