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13 掃除

「ここです。」


少女に案内された部屋は薄暗く、広いが所狭しとと布団が並んでいた。おそらく下級の女官たちの部屋だ。そしてここで雑魚寝のように寝起きして過ごしているのだろう。集合の大部屋と行った具合だ。


その一番奥に衝立が立っており、その奥にその子はいた。

少女よりは少し歳が上。見た目的に中学生くらいの女の子が布団に横たわっていた。部屋はなんとなく湿気の香りがし、そしてそれ以上にむせかえるようなお香の匂いがする。風通しもあまり良くない。


「この衝立は?」

「病気だったり、病気の可能性がある場合はこれを立てる決まりなんです。」

「そうなんですか。」


なるほど。感染予防と行ったところだろうか。それにしてはほとんど遮られていないが、それはさておき…


「失礼します。」


私は横になっている少女に声をかけた。


「あなたは?」


少女は青い顔をしていた。眉間に皺を寄せて、辛そうな表情で私に問う。


「私は長月市葉と申します。」

「市葉様。」

「様なんてつけないでください。ちょっと気になることがあるので聞かせてもらってもいいですか?体調がすぐれないところ申し訳ありません。」


私をじっと見つめる少女。

服装がやたら東洋風で豪華だからだろうか。身分が上の貴族だと思われたのだろうか。少女は私に深々と頭を下げた。


「なんでも聞いてください。」


少女は下腹部をさすりながら体を起こした。

その瞬間、う、っと小さい声が少女から漏れた。


「お姉様、大丈夫?」

「大丈夫よ。あなたはあなたのお仕事があるでしょう?行ってきなさい。」


少女は心配そうに、そしてまた目に涙をいっぱい溜めていたが、コクンと頷いて部屋を後にした。


「もしかしてですけど、月の物が来ていますか?」

「え?…あ、はい。もしかして臭いますか?申し訳ありません。」

「いえ匂いは気になりませんので大丈夫ですよ。」


少女は布団を自分の下腹部から足元へかき集めた。

少女の額に汗が浮かんでいる。


「ちょっと触りますね。」


私は少女の首元に手を触れる。熱い。発熱している。

よく見れば布団にも乾いた血のあとがあった。


「水分は取れていますか?」

「あまり…。」

「では水分はしっかりとってください。出血している時は普段はどうやって対応していますか?」

「えっと、そのあたりで山になっている端切れを下着に敷いています。いつもはそれでなんとか仕事もこなせているんですけど、今回は量も多くて、端切れからも溢れてしまって。汚いところをお見せしてしまい申し訳ありません。」

「男性経験は?」

「ここは女子しかおりませんし、そういったことはありません。」

「了解しました。月の物の時期は先月と変わらないですか?」

「はい、毎月このくらいの日です。」


月の物、つまり月経だ。

話を聞く限り生理不順ではない。異性関係による不正出血でもない。

重めの生理痛、いつもより生理痛が強く発熱。子宮系に疾患の可能性も否めないが、今真っ先に対応できるとすれば、この環境だ。お世辞にも清潔とは言い難い。指で指し示された山になっている端切れも埃をかぶっていたり、汚れていたりしている。


だとすれば、菌が入って感染を起こしているという線も考えられる。

この国に抗生物質があるのかはわからないし、とりあえず清潔にしなければ悪化する一方だ。


「ここは清掃したりしないんですか?」

「みんな日々忙しいですし、寝るだけの部屋ですから、そこまでは…。」

「そうですか。」


私は立ち上がり、窓を一つ一つ全開にしていった。


「なっ!なんですか?」

「まずは換気です!空気の入れ替えは大事です。こんな湿気と埃を帯びた状態では良くなるものもなりません。あなたは調子が悪いでしょうから、そのまま横になっていてください。あとで、布団は変えさせてもらいます!」


立て付けが少し悪い窓を無理やり開けていくから、バンバンと大きな音がなる。

音を聞きつけた下級の女官の少女たちが寄ってきた。


「いいところに!あなたたち、少しだけ時間はありますか?」


少女たちは顔を見合わせて、それから頷いた。


「ではここにある布団を全部外へ。そしてこの廊下に並べて干して行ってください。ある程度時間が経ったら、布団を裏返して。両面しっかり日が当たるように。」


幸いにも窓が多い部屋で助かった。部屋に光が入る。


「掃除道具はありますか?水とバケツ。そして雑巾を。私もやりますから!」


そう言って、私はズルズルと引きずるような長い袖をめくり、スカートの裾を括る。側から見れば大きなちょうちんパンツを履いているようだ。


「さあ、綺麗にしましょう!」


少女たちの力を借りて、せっせと部屋の片付けをする。

少女たちはここでの仕事は掃除がメインの女官たちなのだろう。とても手際がいい。あっという間に、部屋は綺麗になり、風通しも申し分なくなった。風通しが良すぎて少し肌寒いくらいだ。


「さて、汚れた布団はこちらへ。新しいものへ新調できるように相談してみます。」


少女たちは呆気に取られている。


そして私は横になっている例の倒れた少女の元へ行った。


「あとで良いものを持ってきます。月経自体は病気ではありませんが、人によってその辛さと重さは変わります。全く痛みがない人から、ひどい人は倒れたり、歩けない状態になります。体だけではなく心も不安定になります。今はしっかり体を休めてください。そして汚れた衣類をずっとつけておくことはお勧めしません。菌の温床になってしまいますからそれに関しても対策を考えるので、とりあえず今はこれを使ってください。」


私は掃除中に出てきた比較的綺麗な布を少女に渡した。


「はい。」


少女がコクンと頷く。


この環境はまだまだ改善しなければいけないな。誰に相談したらいいんだろう。とりあえず報告しろって言っていた白兎さんが妥当だろうか。


「あの。」

「はい?」


私が振り向くと、そこには掃除を手伝ってくれた少女たちが並んでいた。


「あなたは新しい医官の方ですか?」

「え、いや、そんなものでは…なんと言ったらいいか…。」


私がしどろもどろになっていると、私をここまで案内してくれたあの小さな少女が顔を出した。


「わ!綺麗になってます!」


見違えるように掃除した部屋に驚いたのだろう。目をキラキラさせている。


「あ、丁度よかった。私をさっきの書簡まで案内してもらっていいですか?」

「ん?はい!わかりました!」


私は少女に案内を頼んで、少し逃げるように部屋を後にした。

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