11 かぐや姫
「今のこの国を統治しているのは女王です。名前はかぐや様と言います。あなたの国だとかぐや姫、と言った方がわかりやすいですかね。」
かぐや姫…ってあのお伽話の?
白兎はアルバムの一枚の絵を指差す。そこには、綺麗な女性が描かれていた。服装は平安貴族のようにも見える。十二単を纏い、少しもの寂しそうな顔で佇んでいた。この人が、かぐや姫…。
「その顔だと、かぐや姫のお話についてはご存知のようですね。話が早くて助かります。」
「かぐや姫って、あの月に帰ってしまうお話しですよね?」
「ええ、その通りです。実は、あの夜、かぐや様をお迎えに参ったあの日。かぐや様の父上が亡くなられたのです。王位継承権第一位であったかぐや様は、日本から月の国へ帰らなければならなくなったのです。」
確かにかぐや姫って最後に月から使者が来て、月へ帰った話だったはずだ。うる覚えだけど。そんな事情があったとは。
「かぐや様は月の国へ戻られて、王位を継承しました。そして月の国は安泰になったわけですが…。」
なるほど。かぐや姫の物語にそんな続きがあったとは。
私が頷きながら聞いていると、白兎は言葉を続けた。その言葉に私は驚くことになる。
「実はかぐや様には弟君がおりまして。」
「弟!?」
「はい。そのかぐや様の弟君こそ、清月様なのです。月の国は、男女関係なく生まれた順に王位継承権がありますから、今の王位継承権第一位は清月様ですね。もしかぐや様に何かあれば、次の王位につくのは清月様になります。」
王位継承権第一位!?あの人が!?っていうか、やんわりと話をかわされていたけど、そんなにすごい偉い人だったの!?…ちょっと待って。私そんな偉い人の前でハンバーガーを頬張っていたような…。無礼では…この話は白兎さんには黙っておこう。
自問自答しながら、コロコロと変わる表情の私を、白兎さんは不思議そうな顔で見た。
「話を続けても大丈夫ですか?」
「はっはい。お願いします。」
私はぺこりと頭を下げた。
「ちなみに、かぐや様にはお子様はおりませんし、ご本人様も生涯独身宣言を高らかに掲げている方ですから…王位継承権の順位はかぐや様の次が清月様というのは揺るぎのない事実な訳です。まあ、清月様本人は嫌がっていますがね。かぐや様は自由を好まれる方なので、常日頃から早々に王位を譲ろうとしていますが…困ったものです。」
やれやれ、とメガネをクイっと上げた。
白兎さんって、そのかぐや姫…かぐや様と、清月様と結構親しい関係の人なのかな。言葉の端々からそのような雰囲気が感じ取られる。
「まあ、そんなことは置いておいて、王族二人は権力などには興味がない方なのですが、周りの貴族はそうはいきません。いつの世も国を問わず、そういう権力争いは存在しているので、清月様の妃になりたい方ってとても多いのです。清月様はまだ独身ですので。」
なるほど、どこの時代でもそういうものはあるんだな。
白兎はアルバムをパタンと閉じた。
「そんなところに、清月様がある日突然、自分の嫁にすると貴女を連れてきた訳です。これがどういうことだかわかりますか?」
「えっと…どういうこと…とは?」
「あなたは、あなたが望まずとも、関係各所いろんなところから命を狙われる身になってしまったという訳です。」
「えっ…冗談ですよね。」
「それが冗談ではないのですよ。」
さーっと血の気が引く。
「幸いにも今はあの双子やこちらが安全だと判断した人物しかあなたに接してはいないようにしていますが、こちらも全て把握というのは正直難しい部分はあります。今後あなたに近づいてくるような人物は気をつけてください。」
いきなりサファリパークに放り込まれたような気分なんですけど。
予想外の話に、思わず乾いた笑いが出る。
「えっと、命が狙われるくらいならいっそ私が元の世界に戻るべきでは…。」
「清月様がやたらあなたのことを気に入ったみたいなんですよね。帰してくれますかねえ。」
白兎はぼんやりと天井を眺めた。
「あ、でもほら、私は月の人間じゃないので、そもそも嫁になんてなれないのでは。」
「それに関してはいくつか前例があるので問題はありません。昔はあなたの国と月の国は交流が盛んでしたから。」
「うっ…。」
いきなり連れてこられて、花嫁と言われ、さらに命まで狙われる立場になるとは。
この見知らぬ国でどうやって自衛すればいいんだろう。
「顔色が優れませんが大丈夫ですか?医務室へ行きますか?」
「いえ、大丈夫です。ちょっと考えることが多かっただけですし、具合が悪いわけではないので。」
「そうですか。あなたもまた、難儀ですね。」
そういう白兎さんの表情はなんとも言えないものだった。
素っ気ないような、慰めるような、憐れむような、なんとも言えない顔。
流れる沈黙。
そこへ訪問者がきた。
「すみませーん、白兎さんいますかー!」




