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ふたりっきりのカードゲーム

作者: 小波

「こうしていていいのか?」

「おれはこれでいいのか?」

「生きていたって意味がない、生きていていいのか?」

怒りと焦りと見えない涙が混ざっている質問を30年ほど言われ続けた母親はちゃんと返事をしない。

逆に母親の方はつまらない愚痴やニュースへの考察、自己流なあれやこれ、について息子から批判を受けることは殆どない。彼は人の話を聞ける男だ。近所の人がお金持ちすぎて鼻につくという愚痴の事実ではなくて、それを口に出さずにいられない母の心を聞ける。本当の聞き手だ。

片方は聞けているのに片方はちゃんと聞いていない、と2人を目の前に言った所、『おたくに言われる筋合いねえ』と娘で中年の私は斬られた。


確かにそうかも。この2人がこの不毛な会話を広げるのは何千何百何回目か、それを知るのは2人だけだ。老婆と老年が近づいてきた男、血のつながった親子、生家の家族でありながら通りすがりの私には筋合い無いくらいの暗い歴史があるっぽい。


あーもう、ハグでもしちゃったら解決するのにね、出来ないんだからしょうがないんでしょうなぁと兄に教えてあげる。


兄が執拗に母に食ってかかる。そのカードを見せてみろ!と。

母はカードを開かない。母の中にある

「ここにいていいのか?」自分の存在意義とは?というカード、彼女は持っているだろうか?


とにかく他人のカードを力づくで見せてもらうことは無理である。むきになるほど遠ざかるだろう。時にはやんわりと陽だまりの老夫婦のように「お茶でも飲むか」その声質で、不毛な会話は聞こえてくる。


ところで私は毒親という言葉に出会い、機能不全家族にも出会い、それにまつわる精神科医の本などを読み、この生家と縁を切った。


カードゲームで根比べしてる間に陽が沈む。芝生の公園でも歩いた方がいい。


彼が一歩目を他人に委ねられないのは家庭という地盤の緩い土地に足を取られているからだ。

家庭の庭が明るく乾いていて歩き方や走り方、「あなたはもうどこにでもその足で行けるよ」と、ばっちりぐー!ですと、自信をプレゼント出来たら良かったのらしい。


「俺はこのまま自分の姿のまま生きていっていいのか?」

なにいってるんだ、さっきもご飯お代わりしていただろ

「それは食わないと死ぬから」

何言ってんだか、お前みたいなのはいちばん長生きするぞ


とっても変な会話はいつものオチに落ちて2人は笑うこともある。いつものオチの後、方々の方向を向き、やれやれ解散…となるみたい。


しかし、抱えた不安の解決には至っていなさそうだと風の噂で聞いた。


最初の最初に親の愛というカードを受け取っていなくても生きていける。

と、なんらかの形で受け取ったであろう私が言っても説得力はない。


人の心の中に色んなカードが入っている。ジョーカーが回ってきて、ペアが出来たから捨てて身軽になった人から勝者になる。強そうなジョーカーが笑っている。手のひらで。


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