表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

風鈴子育て奮闘記〜気まぐれで人間育ててみた〜1

「・・・・・・」




ある日の朝、ふらふらと祓い神業から帰って来ると、階段の一番下に赤ん坊が捨てられていた。チュンチュンと雀の鳴き声が響く、穏やかな朝、その爽やかさを泣き声が切り裂く。



「おぎゃーおぎゃー」


「うおおお、泣くな泣くな」



いきなり泣き出すもんだから、慌てて赤ん坊を抱き上げる。

お前何処から来たんだと言い赤ん坊と共に帰って行った


ここの神社には、風鈴を除いて4柱の神が住まっている。

夫婦神とその属神(息子たち)だ。


風鈴が神社の戸を開ける。いつもの如くおかえりと言いかけた夫婦神の両方が目を見開いた。



「な、お前・・・」


「違う!捨てられてた!!」


「罰当たりねぇ」


「天罰天罰!」




先程の事をしっかりと説明する。4柱は納得したようで、次の問題について考え始めた。属神の片方、秀が問う



「どうするんですか」


「・・・・・・育てる・・・?」


「できるの?」


「やってみる!」




そうして風鈴の子育てが始まった



「おい何処に行く!!」




目を離すとすぐハイハイして何処かに消える。腹が減ると泣く。用を足しても泣く。夜も泣く。とにかく泣く。たまに笑う。そして寝る。赤ん坊の世話は大変だった。しかし気づけば立てるようになっていた



「子の成長は早いな」


「人間ですもの」


「立ったー!!」




神々からしたら、そんなに時間は経っていないが、感動で涙が出てきた。

か弱い足で、1歩、また1歩と地を踏みしめる。

赤ん坊は立つとよちよちと頑張って風鈴の元へと向かう




「ふ、。り、」


風鈴「へ?」


「う、りん!」




なんと喋ったのだ、こっちを笑顔で見ながら。

その瞬間、風鈴の胸に何か熱いものが込み上げた。喉の奥がつまり、声が出ない


ー言葉をくれた


震える手で、その小さな体を抱き上げる、頬にあたる体温がたまらなく愛おしい。

しばらくその感動を噛み締めたあと、ハッとした。




「そういや、名前・・・」


「確かになかったね」



今までこの1年ほど名前が無いことに気がついた。信と一緒に頭を捻る



「んー、男の子やし智久とかどうよ!」


「悪くないと思う」


「よし!お前は智久だ!!」



智久と名付けられた赤ん坊はすくすくと、健やかに成長して行く。


智久は秀と信を兄として見ているようで、2柱も可愛がっていた



「ひぃーで」


「いーで!」


「そうです!」


「俺も俺も!しーん!」


「しぃー?」


「あと少し!あと少しだ!しーん!」


「しーん!」


「そうだ!しんにぃだ!」



智久は、神々に見守られて数年が経ち

やがて無事に7歳を迎えた



「ほー、まだ7か。赤ん坊やねぇ」


「違うし!俺赤ちゃんじゃないし!」



風鈴、いや神からしたらまだまだ赤ん坊の智久、怒る姿も可愛い。

智久は赤ん坊の時から神と居たからか、神や妖怪、穢れが見えるらしい。

なので風鈴以外の神社に居る神様達も見えているようだった



「この子高天原に見せに行っても」


「ダメです。せめてその子が死んでからになさい」


「ぐぬぬぬ」



我が子を他の神々にも見せびらかしたい。しかしそれは流石にダメだったようだ。人間が高天原に登ること。それ即ち死を意味するのだ


ある日のこと、いつも通り夜は祓い神としての仕事をこなしに行こうとした時だった



「お母さんどこ行くの」



と後ろから声をかけられ、心臓が跳ね上がる。

いつもは寝ている時間のはずなのに。

今まで寝た後に出て、寝る前に帰ってきていたのに



「起きたん?」


「・・・ずっと知ってたよ夜どっか行ってるの」



風鈴は驚いた今まで隠せてきたと思っていたから。



「お仕事やで」


「俺も行く!」


「あかんよ、危ないから」


「やだ!」


「あかん!」


「やだぁ!!」


「何を騒いでるんですか。あら」



玄関先で騒いでいたら母神が来た。

察したようで母神が智久を無理やり抱えて連れて行ってくれた



「お母さんのばかぁぁ」



うわーん、と悲しい泣き声が背後から聞こえる。くっと堪え下唇を噛み締めながら風鈴は神社を走って出ていった。


子どもが出来てからというもの、戦闘終了速度が早くなったような気がする。

日が登り始めたら前は少しフラフラしてから帰っていたのに、今は真っ直ぐ帰るようになった。


その日家に帰ると智久は目を腫らしてぐっすり寝ていた。

きっと泣き疲れたのだろう。頬をぷにぷにしている時、ふと思った。


―大きくなったな


つい先程まで腕の中に収まるほどだったのに




「あらおかえり。何か考え事?」


「よく分かるね」


「まあね。ふふ」



今まではお供え物でご飯を食べさせて来たが、これから大きくなるにつれて、沢山食べるようになるだろう。

その時、お供え物だけでは足りなくなるに違いない。

祓い神として仕事はしているが、高天原にお金という概念はなく発生する訳もない。

お賽銭では足りないだろう




「・・・仕事するか」


「おぉ?現世で?」


「うん、あの子の成長のために」


「頑張ってね。貴方ならできるよ」



そして日が昇って数刻経った頃、智久が起きてきた。

朝ご飯は作り終わっている、顔を洗って席につかせた



「・・・いただきます」



その日は少しムスッとした顔でご飯を食べていた。

母神達に智久を見ておいてもらう、その間風鈴は人間社会へと仕事探しに出かけた。

そして見つけた仕事は宿街の茶屋であった。


風鈴は手先が器用で即戦力に投入、その日から仕事が始まった。

まず人を呼び込む、次に注文を取りそれを作って出す。

忙しい時は店主さんが作ってくれた、これを時間交代で行うのだ


もちろん昼間は人間が親しみやすい姿に変えて。

目は茶色、髪は黒の長髪、クセだけはどうしても直らないので仕方ない。




「甘いお団子、旨みが詰まったお茶。どうです?うちで一休みしてきませんか?」




とか、言葉巧みにお客さんを誘う、よく男が釣れた。


夜は祓い神として、昼間は茶屋の看板娘としてよく働いた。

寝る暇なんてない、しかし風鈴は神だ。寝なくても体力になんの問題もない。

寝るのは、それが気持ちいいから、どんなにひどい損傷も早く治るからだ。


子どもの成長のために、昼も夜も休まず働く。風鈴の目には、少しだけ強くなった覚悟の光が宿っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ