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神々の心争奪戦~鈍感美少女は賭けられる~

「あぁ~、私の事だけを想ってくれる殿方がほしいよ~」


「稲荷神はいつもそう言ってますね。貴女ほどの神だったら候補もたくさんいるのでは?」


「そ~なんだけど~、なぁ~んかピンとこないんだよねぇ。しなちゃんはいらないの?」


「私は欲しいと思ったことないですねぇ」



九柱が集まって歓談をしている時、稲荷神、志那津比古、そして風鈴がなにやら女の子らしい会話をしている。

稲荷神は彼氏という存在に憧れがあるよで、ふとした瞬間にぼやいていた。



「ふうちゃんはいらないの~?」


「恋とはなにか、うちには分らんね!」


「でもぉ、ふうちゃんいつも誰かに誘われてない?」


「いつもではないけど・・・でもみんな相談とか言ってくるよ。違うの?」


「ちがうよ!!!!」



風鈴は自分に向けられる好意に関しては、鈍感だ。お茶のお誘いは、風鈴からしたらデートなどではなく、真剣な相談事だと思っているらしい。

この鈍感さには、稲荷神のみならず、志那津比古までもが苦笑いをした。志那津比古は、顎に手を当て辺りを見回す。



「月読様などどうでしょう」



天照の隣で、茶を啜っていた月読に矛先が向く。風鈴はギョッとした顔をして全力で首を横に振った



「つ、月読様は上司みたいなもであって・・・!あ、いや!決して嫌いとかではなく!!」



月読は悲しそうな顔をして袖を濡らす泣き真似をした。



「風鈴は私のことが嫌いなんですね・・・私はこんなにも気にかけているのに・・・」



風鈴が焦っていると、天照も面白がって口を挟んでくる



「こんな奴でよければやるぞ風鈴。これでも我の弟だ。退屈はさせない、可愛がってやってくれ」



まさかの天照からの後押しが来るとは思わなかった。下を向きなるべく目を合わせないようにして、検討します。とだけ答え、これで難を逃れたと思ったのも束の間

今度は稲荷神が面白がって言う



「八意とか、火雷はどうかなぁ!イケメンだし人気者だし、何より強いよ!」



八意と、火雷の眉がピクリと動いた



「うううちには恋とかよくわからんし?祓い神なんてずっと戦ってるし?いつ死ぬかわからんし?おまけに噂の風鈴様やで?」



勘弁してくれ、と言わんばかりの勢いに稲荷神も、志那津比古も笑ってしまった。お前は死なんだろう。と天照からの横槍をもらい狼狽えていた。



「お前のことが好きな神には、噂など関係ないだろ」



ボソッと八意が異を唱える。

志那津比古は目を見開き、稲荷神は嬉しそうに口を手で抑えた。

風鈴は、そういうものかぁと少し嬉しそうだ



「そうだぜ、それにお前の隣で戦えないようなやつはお前を守れないぞ」



稲荷神はさらに嬉しそうな顔をする、耳と尻尾がピーンと立つほどに、志那津比古は苦笑いをしている。

この様子をみていた恵比寿と道真が何かコソコソと話し始めた



「風鈴がどちらに傾くか賭けをせんか」


「いいですね、では私は八意を推します」


「じゃ、わしは火雷じゃな」



天照は面白いものが見れそうだと機嫌が良い、歓談もお開きになり各自持ち場に戻った


夜までまだ時間はある、明るいうちに高天原での仕事を終わらせようと思い自分の神社には帰らず、高天原の執務室へと向かう道中の事だ


廊下を歩いていると、すれ違った神に声を掛けられた



「あの風鈴様!今度一緒にお茶でもいかがですか?」



緊張した顔で風鈴を誘う、風鈴はうーんと考えた。日によっては行けないことはない。いつの予定か聞いてみる



「明後日などいかがでしょうか」



声をかけてきた神は嬉しそうに予定を提案した。明後日なら行ける、それならと返事をしようとした瞬間後ろから誰かに口を塞がれた



「んぐ!?」


「その日は俺と予定があるんだ。またの機会にしな」



なんと口を塞いだのは火雷神だった。

火雷はいつも通りの笑顔で相手に微笑む。声をかけてきた神は気まずそうに去っていってしまった


手を離してもらった瞬間、勢いよく振り向いた



「急になんや!?しかも予定なんてなかったやろ!?」


「今、入れた。お前はさっきの話をした途端にこれだからなぁ。稲荷神の言葉を忘れたか?」



火雷神の顔を見る。

声色は優しいが、顔は笑ってはいなかった


流石の風鈴も普段誰にでもニコニコしている火雷神の真顔を見て、たじろぐ



「呆れてる?」


「呆れてる」



即レスで返ってきて、風鈴の元気な特徴的なくせ毛も下を向いた。



「お前をお茶に誘うやつなんて大体が下心ありきだ、気をつけろ」


「わ、わからんよぉ〜」



そんなの見分けれないと嘆く風鈴、火雷神はやれやれと頭を手で抑えた。風鈴がところで、と続けた



「明後日何するん?遮ってまで入れたい用事」


「お茶」



風鈴はポカンとする。この神の考えることなんて1ミリ足りとも分からない。先程のお茶の予定を遮ってまで入れたかった予定とはお茶なのか。

小一時間ほど問い詰めたいがそんな時間は無い



「わかった、楽しみにしてる。ちゃんと楽しませてよね」



風鈴は挑発じみた笑顔を向け、それだけを言うとさっさと執務室の方へと去っていってしまった。




ーー数日経った頃、風鈴はまた総社へと来ていた。先日高天原に現れた、出処不明の穢れを祓った報告に来たのだ。


総社は数多の神々が居る。仕事をする者、憩いに来る者、様子を見に来る者、用事がある者。目的は様々だ


これだけ神がいると、風鈴の事をよく思わない神も少なくはない数いるものだ。



「あれ、風鈴様じゃない。ほら、噂の」


「あぁ、妖怪から神になった?いやね、天照様からの恩寵をいただいたんですって?」


「天照様も何をお考えであの者に」


「この間、火雷様とお茶してるのを見たわ」


「はぁ!?あの泥棒猫・・・!」



風鈴は顔をピクリともさせず大広間を足早に突き抜けて、廊下へと進む。

噂した神々は今日は運が悪かったようだ、そこにたまたま居合わせた神がそれを黙って見ていなかった



「お前たち」



声を掛けたのは八意思兼命、声色も顔も決して穏やかではなかった。いつも怖い顔がより怖く感じる


神々も怒りを察して、さっさと逃げて言ってしまった。



「ふん、その程度で噂をしていたのか。弱い犬ほど吠えるってやつか?」



八意は風鈴を追いかけて行った・・・



「風鈴」



よく聞く声が後ろから聞こえてきたので振り向いた。

やはりそこには、思い描いた声の主がいた。



「やご様」



先程の事もあってか、警戒していた心がすっと解けた。風鈴は無意識に八意の方へと小走りで駆け寄る



「全く、見ていればただ言わせるだけ言わせて・・・」


「いつもの事やし、今に始まった事じゃないやろ」



少し困った笑いをする風鈴、その顔を見て八意はきゅっと胸が締め付けられ悲しくなる。

八意は、この現象に疑問を抱いたが一旦無視することにした



「とにかくだ、お前がやり返したところで誰も文句は言うまい。やり返せばいいのに」



拳を作り虚空に向かってパンチする。

武力で解決しようとする姿勢は、普段の八意にあるまじきだ。

八意は、八柱の中でも道真の次に戦略家であり頭が良い、そんな神が力でどうにかしようなんて



「やご様が、力で・・・!?」


「お前がやらないんだったら俺がやってもいいが?」



不敵な笑みを浮かべて問う。風鈴は全力でそれを拒否した。

そういえば、先程神々が、風鈴と火雷神が、お茶に言った話をしていた事を思い出した



「そういえば、火雷とお茶に行ったらしいな」


「あぁ、そんな事もあったなぁ」


「・・・楽しかったのか」


「もちろん!無理やり予定を入れてきたから楽しませないと許さんって言ってん」


「ふーん」




腕を組み、じっと風鈴の表情をみた。

確かに楽しそうな表情をしている、胸の奥がチクリと棘の刺さるような感覚があった、それが何なのかはわからないが不快だ



「やご様?」



風鈴に呼ばれ我に返る。

楽しかったなら良かったと、そのまま踵を返しこちらを振り返ることも無く去ってしまった。

少し心配したが、まあいいや。となるのが風鈴である。





一方その頃


「ほほほ、火雷は大胆じゃのぉ」


「八意はもっと押しなさい。このままでは負けてしまいますぞ」



恵比寿邸で、こっそりと火雷と八意の動向を見ている者たちが居た。

そう、恵比寿と道真だ。2柱は賭けをしている。風鈴がどちらに傾くかの。



「しかし、あれじゃのぉ」


「そうですね。」


「「風鈴が鈍感すぎる」」




場面は風鈴に戻る。高天原の総社の外、何やら騒がしい様子。

しかし風鈴には慣れっこだ、この騒がしさ。



ーーそれは



「うるさい、散れ」


「ははは!八意は冷たいなぁ。もっと笑ったらどうだ」



八意と火雷が揃っているのだ・・・

そうなればアイドルが空港に入って来た時並みの騒ぎになる。風鈴は、またか。と横目に通り過ぎようとした


運の悪いことに、その塊からはみ出した者が風鈴に勢いよくぶつかった。

風鈴の視界はグラりと傾く、突然の事で転ける寸前だ。なんとか受身を取ろうとするが間に合わない


それに気づいた八意と火雷が同時に動いた・・・がどうやら必要ないようだ



「おぉっと、大丈夫か。風鈴」



風鈴は誰かの胸板にぶつかる、大きい手が優しく風鈴を包み込む感覚があった。恐る恐る見上げると、支えたのはなんと月読命だった。


しばらく硬直した風鈴は状況を理解すると不覚にも、ボっと顔が紅くなる。

自分の耳が熱くなっていくのを感じた、鼓動が早い、なぜこうなっているのか分からずフリーズしている。



「ん?どうした、茹でダコみたいに赤いぞ・・・もしかして照れたか」



月読はからかうように笑う、風鈴は図星で言い返せず下を向いてしまった

それを見た月読は、風鈴を抱き抱え顔を近づけた。



「案外可愛いところもあるんだな」



キスをしそうな程の顔の距離、風鈴は顔全体を両手で覆い隠す。

それを見ていた女神たちは、キャー!っと悲鳴をあげた。



「つ、月読様があの女を!!?」


「月読様はあのよくわかんない奴を選ぶの!?」



八意と火雷は行き場のない手をどうしようか悩んでいる


そんなこんなのうちに、月読は笑いながら総社の中へと風鈴を抱えたまま入って行ってしまった。


先に、はっとしたのは八意



「月読さま!!!風鈴をどこへ連れていくのです!」



その声に火雷もはっとして自分の手のひらを見つめた。

今回は月読の勝ちのようだ。


恵比寿と道真はというと



「ほほほ、まさかの変数が出てくるとはな」


「天照様もご参加されてたら、我々負けてましたね」



今回の賭けは引き分けになった。次は一体だれが勝つのか、はたまた勝者はいないのか



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