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あなたの背中

祓い神統括とは、数多いる祓い神をまとめるリーダーの事である。祓い神たちは統括を師範と慕い、統括は弟子として可愛がる。

誰にでもなれるわけではなく、確かな実力と、当時の祓い神統括に認められることが条件だ。



「そこまで!!」



訓練所に響く風鈴の声、その一声で皆動きを止め整列する。

風鈴はざっと見渡すと、スーッと胸いっぱいに空気を吸い込む。



「本日はここまで、各自帰り休め、夜はいつも通り仕事だ。気を抜くなよ」



それだけ言うと、踵を返し、さっさと訓練場を後にした。

残された弟子たちは、緊張感から一気に解放され正していた姿勢が悪くなる。

一呼吸を置いておもむろに口を開いた


「なあなあ、風鈴様っていつ稽古してるんだろうな」



気が緩んだ誰かが、そんなことを口走る。その話題に一気に火が付いた。



「昔は不真面目だったらしいぜ」

「師範は稽古なんかしなくても強いんだよ!」

「私達の稽古は見て指導するだけだもんね~」

「風鈴様って、昔に高天原で起こった戦争で大将の首を獲ったんだろ?そんなに強いなら絶対なにかしてるって!」



弟子たちは風鈴が稽古をしている姿を見たことがない。しかしその強さは確かなもので、不思議だった、その強さはどこから来るものなのか。



「俺たちで暴いてやろうぜ、師範の強さの秘密」



誰かの提案によって祓い神たちは再び盛り上がる。まるで探偵ごっこをしているみたいだ。

その日からコソコソと風鈴の情報収集をする祓い神たちが目撃されるようになる。



「あ、あの!道真様!」


「はい、何でしょう・・・おや、風鈴の弟子ですか。如何されましたか」



ある祓い神は、図書館から出てきたタイミングを見計らって声をかける。八柱の一柱に声をかけるのは、この祓い神には荷が重い。心臓がうるさく鳴っている。



「え、えっととと、風鈴様っていつ稽古してますか!」



緊張のあまりどもってしまう

道真は一瞬キョトンとしたがすぐにふふっと上品な笑いを浮かべた。



「そうですねぇ、私はそのような話には縁がないのでまた聞いてみますね。志那都比古(しなつひこ)火雷(ほのいかづち)は何か知ってるかも知れません」



この情報は瞬く間に使いを通じて祓い神達に伝達される。情報を受け取った別の祓い神が火雷神に挑む。



「おい!ほ、火雷神!様!!」



火雷神の執務室から出てきた火雷神に、呼びかけた。

その声にぬらりと振り返る



「なんだぁ?・・・あぁ、風鈴の弟子か。何か用か」


「風鈴様はいつ稽古している!」


「・・・ふぅむ」



火雷神は顎に手を当て、マジマジと弟子を見る。

ニヤリと笑うとグイッと顔を近づけた。



「まず、聞き方がなってないなぁ。風鈴は礼儀とかは教えてくれないのか?俺が言っといてやろうか?」



意地悪く聞く、しかし火雷神の言ってることは真っ当だ。弟子はプルプル震えたと思った次の瞬間「風鈴様を悪く言うなぁぁ」と走り去っていった。



また別の弟子は



「やはりここに居られましたか、志那都比古殿!」



ガサガサと竹林を分け入り、鍛錬をしていた志那都比古神に声をかける



「あら、貴女は風鈴の弟子の・・・」


「かや と申します」


「かや、どうしましたか?わざわざこんな所まで尋ねてくるなんて」


「志那都比古殿は師範と仲が良いとお見受けいたします。そ、その・・・師範の強さの秘密を知りたくて!」


「おやおや、ふふふ。最近祓い神たちがコソコソと何をしているかと思えば」



持っていた剣を鞘に納めクスクスと口に手を当てて笑う。かや は焦った様子で行動がバレているのか聞いた



「えぇ、貴女たち風鈴に隠すことばかりに気を取られて他を疎かにしすぎですよ」


「うっ・・・確かに・・・詰めが甘かったです・・・」


「そのような所を直せば風鈴に近づけるかもしれませんね」



こちらもまた、からかう様に助言する志那都比古神。

かや は反省した顔色でその助言を聞き入れた。


訓練場に再び集まる祓い神たち、皆特に収穫はなかったようだ


その頃風鈴は、また別の稽古場に居た


過密な術式攻撃で火雷神を詰める。どぉん!という爆発音の後あたりは静まり返った。煙が晴れると膝をついた火雷神が現れる



「負けたぁ!」


「手加減した?」


「いいや?全力だったぞ」



風鈴は火雷神に手を差し出す。それに掴まり、ヨイショと立ち上がった



「そういや、最近弟子たちに目をかけてるか?」


「?もちろん」


「もう少しアイツらの前で技とか見せてあげてもいいんじゃないか」



変な事を言う神だ、と訝しげな顔で火雷神を見た。

その時、奥から誰かが来る足音が聞こえた。



「おや、風鈴と火雷じゃったか・・・・・・もしかして邪魔したかの?」


「ううん、決着は着いてるよ」



現れたのは恵比寿だ、片手には大きな鯛を持っている。どうやら、大きな鯛が釣れたからみんなで食べようと言うお誘いに来たらしい。

風鈴は目を輝かせて、行く!と元気よく答え稽古場を後にした。



「んふ〜!このおはかな、とろけゆ〜」


「こら、宇迦之御魂(うかのみたま)。口の中をなくしてから話しなさい」


「恵比寿の釣ってくる魚はどれも極上品だな」


「そうですね、姉様。この鯛の身のつまり・・・」



宇迦之御魂(うかのみたま)に注意するのは八意(やごころ)、いつも褒めてくれるのは天照。それに相槌を打つのは月読。


九柱が集まって歓談しながらご飯を食べていた。

皆、ご飯を食べ終わり少しゆっくりしていた頃、風鈴の御使いである人魂が慌てて入ってきた



「どしたん」



人魂は一生懸命何かを風鈴に伝えている、それを受け取った風鈴は、静かに立ち上がると「仕事」とだけ伝えて部屋を出ていった。


風鈴の弟子の1人は大妖怪 烏天狗と対峙している

まさに絶対絶命、五分五分の戦いを繰り広げるまもなく瀕死の状態へと追い込まれていた。



「ふん、祓い神風情が」



弟子の息は途切れ途切れで、次の一手を喰らえばもう灯しは消える。烏天狗は大麻(おおあさ)の扇を構えた、弟子は目を固く瞑り覚悟を決めたその時だ。

カァン!という乾いた木の音と共に烏天狗の扇は地に落ちた。



「烏天狗か」


「お前は」


「師範・・・」



風鈴は弟子を庇うように前に立つ、烏天狗は驚いた顔が隠せないようでいた。

それもそのはず、風鈴と烏天狗は妖怪時代につるんでいた妖怪のうちの1人だったからだ。



「まだ夕暮れ時やのに大胆やな」


「生きているとは聞いていたが、まさか神の側に回っていたとはな。風鈴、こちらへ戻って来い。また我らと共に人間共を(かどわ)かそうではないか!」



両腕を広げ、さあこい と言わんばかりの構えをとる。

しかし風鈴はピクリともしない



「はは、お生憎様うちの身には呪いがかけられてるし、今も月読命がうちを監視してる」


「案ずるな、また我らが隠してやる。あの百鬼夜行の日、お前が消えてしまい皆悲しんでいたんだぞ」


「師範・・・・・・だめ、いかないで・・・」



傷を押さえながら朦朧とする意識の中、弟子はポロポロと涙をこぼし風鈴を止める



「烏天狗め・・・!師範を連れ去ろうなんて考えるな・・・!私がお前をぉ・・・!!」


「何を言っている?師範?はっ、笑わせる。風鈴は妖怪長(ようかいおさ)。河内国の妖怪長なんだよ!!」


「・・・師範」



弟子は、いまだにピクリともしない風鈴の背中を見上げた



「師範の噂は・・・・・・本当なんですか・・・」



風鈴は何も言わない、顔は一切見えない。弟子は傷の痛み、烏天狗の戯言、風鈴の噂、風鈴との思い出。色んな思いが込み上げてボロボロと涙が溢れる。



「師範・・・行ってしまうのでますか・・・」


「さあ風鈴!!共に行こう!!!」


「・・・」



風鈴はゆらりと烏天狗の方に足を進める、弟子の目から溢れる涙が止まらない。声にもならない涙。溢れすぎてもう前が滲んで見えない。


烏天狗は風鈴の名を嬉しそうに呼ぶ、風鈴は烏天狗の前でピタリと止まった



「烏天狗、お前がずっとうちを気にかけてくれてたのは知ってる。なんでそんなに目をかけてくれてたのかは知らんけど、うちはそれが嬉しかったし甘えてた」


「あぁ!」


「だからこそ、うちはお前を祓いたくない。もうこの身は神々のもの。元から神として生まれ落ちたが、人間を憎み神から堕ちたのが妖怪長風鈴。もうあの頃の風鈴は居ないんだ・・・」



まるで苦虫を噛み潰したような顔をする風鈴。それでも無理に笑おうとする姿が痛々しい。



「風鈴・・・?」


「このまま、何も言わず、うちと会った事は誰にも言わず消えてくれるならどれほど嬉しい事か」



風鈴の顔は変わらない、悲しい顔をしている

烏天狗は、何を察したのか笑い始めた



「そうか・・・・・・そうか・・・・・・そうだったのか!!!」


「風鈴!お前は神々に騙されているんだ!お前が神に着くわけがない!!そうだ!そうに違いない!他のものにも伝えよう!共に神をうち落とそう!」


「待っていろ!今仲間にしら・・・」


「・・・・・・・・・あ?」



烏天狗が踵を返し、仲間の元へと向かおうとした瞬間

その体は真っ二つに裂けた



「ふん」



それだけ言うと、風鈴は弟子の方へと向き直った



「帰ろう、のに」



風鈴は、のに を抱き抱え高天原に戻った。のにが目覚めたのは翌朝のこと。

目が覚めると、よく見知った天井が目に飛び込んできた


はっと飛び起きる



「師範・・・!師範は!!」



目が覚めたのに気づき、狐の使いが盆を運んできた



「あら、目が覚めたのね」



ひょっこりと入口の方から顔を出すのは、宇迦之御魂神である。



「宇迦之御魂様!」



どきぃ!と心臓が跳ねる。ニコニコと暖かい笑顔で近づいてくる稲荷神



「安心して、ここは宇迦之亭(うかのてい)よ。昨日ふうちゃんが慌てて貴女を連れてきたからびっくりしたわ、少彦名が持ってきてくれた薬が効いたのね」



少彦名命(すくなひこなのみこと)は、薬の神様である。風鈴の依頼により、宇迦之御魂神の元まで届けに来てくれたのだ。


宇迦之御魂はクスクスと笑っている、その笑顔に絆され一気に肩の力が抜けた



「師範はどちらに」


「ふうちゃん?ふうちゃんは今頃、稽古場じゃないかしら?もう行くの?」


「はい」


「ふふ、そんな顔で?昨日たくさん泣いたのかしら、怖い目にあった?まだ腫れてるわよ」



冷たく濡らした布を渡してくれた。少しの間顔を埋めてから返す。弟子は見送られて稽古場まで走った


竹が生い茂る稽古場、たしかに誰かが戦っている音が聞こえる。音の鳴るほうへと恐る恐る近づいていく。剣と扇の鍔迫り合い、ギギギと言う音がしばらく続いたあと、キィン!と高い音が響く。

後方へ飛ばされた風鈴は受け身を取ることなく、地面に打ち付けられた。


地面に倒れ込む風鈴、剣の先を風鈴の喉元で寸止めする八意思兼命



「あ〜〜〜!やっぱり近接戦は苦手やわぁ!!」


「ふっ、言い訳か?俺の勝ちだな」


「あー負け負け、次は勝つ」


「勝った方には負けた方が何かしてくれるんだよな?楽しみにしてるぞ」



八意(やごころ)は剣を腰に直すと、弟子の方へと視線を移した。それに合わせ風鈴も視線の先を見る、昨日助けた弟子の姿があった



「もう大丈夫なんか」



優しい声色で問う



「はい、おかげさまで」


「良かった。まだまだ修行が足りないな。烏天狗なぞに遅れをとる・・・」



のには風鈴の言葉を聞かずして、飛びつく。

風鈴は最初戸惑ったようだがすぐに受け入れた。

どうしたん?と問う。優しく頭に手を回し、穏やかな鼓動は弟子を落ち着かせたが同時に涙がこぼれた。



「師範が・・・師範が居なくなっちゃうかと思った・・・!!怖かった!師範が行っちゃうって・・・!!あの噂は本当だった・・・!」



風鈴の服が涙で濡れていく、それを傍からみていた八意



「噂って・・・」


「師範は、妖怪から神になったって・・・!だから烏天狗について行くって思った・・・!!」


「これまた不完全な噂だな」


「・・・たしかにうちは妖怪の時もあった。けどその本質は今も昔も変わってないよ。今まで君らが見てきた師範は簡単に寝返るような神やった?」



静かに問う、のには風鈴の腕の中で首を横に振った。風鈴はのにの息を整えさせながら、静かにつぶやいた。



「大丈夫、うちはどこにも行かんよ」



のには、泣きじゃくりながらもうなずく、風鈴はそれを見て安心したのか、フッと笑った。



「師範、私もっと、もっと強くなります!・・・師範の背中のように、私の背中もいつか大きくなって見せます!」



風鈴はまっすぐなその視線をしっかりと受け入れた



「頼りにしてんで」



それから、弟子たちの風鈴への信頼は一層深まった、風鈴の強さの秘密は 稽古場での他の神との手合わせ しか分からなかったが、それでも風鈴の強さに変わりは無い


その大きな背中が見せたものは、護る者たちの道標となる。

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