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過去を思い返す

「ふっ」



扇子をひと凪、穢れを祓う。



「今日も順調だな。お前に心配することは何も無いが」



声をかけてきたのは月読命、月を通して高天原から風鈴たち祓い神を見て、時には指揮を取ったりする。



「どうも、ここら辺にはもうおらん?」


「あぁ、特に害はなさそうな小さいのばかりだ。しかし、今日は天気が悪いな」


「確か今日はやご様が雨を降らすって言ってたような気がします」


「通りでか、ではそろそろ私の目は届かなくなるな」



そんな話をしている間に雲は月を隠してしまった



「あーあ、隠れちゃった。まあ、別に困らんし隠れたところでうちらの事は見えてるやろうし」



雲に隠されているが、わずかに雲の端から光を放つ月を見上げる




「こんな日は昔を思い出すなぁ」




ー時は平安初期。ある貴族の当主様に買われた。

当時珍しいもので風鈴の物価は高く貴族のような上流階級の者しか手に入らなかった


風鈴は、その涼やかな音で人々を虜にした



風鈴の音が聞こえる範囲は聖域となり災い、穢れが近寄れない。だから魔除の道具として重宝された




「ははうえ〜!あれなにー?」


「あれはね、風鈴って言うのよ」


「ふういん?」


「風鈴よ。私達を怖〜いお化けから守ってくれてるの。おじい様が気に入って持って帰ってきたのよ」


「きれーなおと!」


「ふふふ、そうね。貴方が大きくなってここの当主になればあれは貴方のものよ」


「ほんと!?」


「ええ」


「わたし、当主さまになるー!じじさまー!!」





そんな会話を聞いた。




「風鈴、見てください。私にも子どもが出来たんですよ」




小さな命をみた




「母上!あれはなんですか!」


「初代当主様が買ったものよ。私達を守ってくれているの」




代々受け継がれた




「父上!風鈴、僕も欲しいです!」


「風鈴はこれだけでよい」


「むう、父上だけずるい!」


「お前がここの当主になればこれはお前の物だ。初代様から代々受け継がれている大切な物だから。お前も大切になさい」




子ども達は風鈴を貰うことを楽しみにしていた。その目が忘れられない。


ー時は流れ100年1日目の夜




「きゃぁぁぁ!!!!」


「坊や!こっちです!!」


「痛いよぉぉ!!」


「何処の刺客だ!!」


「坊や!坊やぁ!!」


「1人残らず根絶やしにせぇい!女子供など関係ない!」


「母上!父上!!」


「刀を取れ!!戦え!!」


「子ども達だけはどうか・・・!!どうか!!」


「ここに隠れて!」


「姉上!」


「きゃぁぁぁ!」


「居たぞ!殺せ!」


「痛い!髪引っ張らないで!!姉上!姉上ぇ!!」




憎いほど月が明るかった。我が家は根絶やしにされた。

誰も居なくなった屋敷に佇む影が1つ。

月明かりを背に受け、紫の眼だけが妖しく光っていた。




先程の喧騒が嘘のように静まり返っている。どこの部屋も赤く染まり、皆床に伏せっているのに寝息も聞こえない




「ゆるさん。許さん。許さんんんん!!!!!!!殺すっ!殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。呪ってやる、引き裂いてやる。喰ってやる。殺してやる!死ね!死ねぇ人間!!!!お前達は卑怯だ!!!!!」




その者の心には怨と復讐しか宿っていなかった。

その者、夜な夜な家族を殺した者共を探し練り歩いていた。

その者、100年大切にされた風鈴であった。

その者、付喪神であった。

その者、神格を有していた。

その者、己の使命から背いた。

その者、変わり果て妖怪となっていた。




「何処だ、何処だ・・・・・・・・・・・・憎い・・・憎い・・・・・・何処にいる・・・」




カランコロンと、夜の街に響く。夜闇に紫の眼だけが妖しく浮かび上がっている。




ある日の夜の事だった、妖怪に声をかけられた




「そこのお前!止まれ!」




白坊主という妖怪だ。のっぺらぼうみたいな奴だった




「・・・・・・・・・」


「お前かい!最近ここらで噂されている妖怪は」




風鈴にはなんの事かさっぱりだ。無視しようと、前を向くと目の前に火があった




「逃げれると思うたか。そいつは姥ヶ火だ」


「なんだ」


「お前を俺達の仲間にしようと思ってな!!」


「仲間・・・」




風鈴は驚いた。仲間なんてただの弱いやつの集いだ。わざわざ集団に属す必要などない。だって風鈴は強いのだから




「必要ない」


「必要、不必要じゃなくて!楽しいぞ!」


「・・・・・・・・・」




断っても断ってもしつこかったので、仕方なく仲間になる事にした




「やったぜ!!仲間が増えた!お前達出てこい!」




白坊主の後ろからわらわらと何体か出てくる。かまいたちと、提灯お化けだ




「お前も付喪神だろ!俺は提灯おばけ、俺と一緒だな!」


「私はかまいたち!よろしくね!」


「・・・・・・・・・」




まあいい、利用してやろう。そのつもりだった。そのつもりだったのだが・・・・・・・・・




「見た!?今の顔!!」


「傑作だったなぁ!!」


「流石風鈴ね!!」




妖怪達と仲良く人間を脅かして遊んでいた




「ぷぎゃぁぁ!!!だってよ!」


「風鈴顔真似上手い」


「次行こーぜぇい!」




と、楽しくやっていたのだが。当初の目的を一日たりとも忘れた事はない。憎き怨敵を殺す。但し見つけ次第という事になった


全国各地を回った。全国各地で人を驚かした。

時にはチビに勝負を仕掛けられた事があった




「やい!そこの悪鬼!」


「あ?」




これは熊本での出来事だ




「儂は、蘆屋道満!将来凄い陰陽師になるものだ!!」




齢8と言ったところか




「全国で悪名高き悪鬼風鈴!!貴様を祓ってしんぜよお!」




と意気揚々と挑んできた。ので、軽く捻ってあげた




「うぅ・・・覚えてろぉ!」


「はいはーい、もっと強くなったらおいでー」




手を振って見送ってあげた

色んな人を騙したり驚かしたりする中で妖怪達にどんどん認められていき、河内国の妖怪長になった


各国に、一体ずついる妖怪長。

その国の妖怪をまとめる偉い存在なのだ。

なる資格は様々、風鈴のように沢山脅かして認められた。単純に強くて認められた。三大妖怪からの使命など、様々だ


周りからも風鈴様と呼ばれるようになった




ある日、周りの国の妖怪長達と協力して、大規模な百鬼夜行を開いた。

妖怪達は酒を飲んだり話をしたりしながら列をなし祭り騒ぎのように練り歩く


大阪から、京都まで。色んなところから妖怪たちが集まってくる。




「酒呑達も誘ったけど流石にこんかー」


「まあ、気まぐれだし途中から来るかもよ」


「そやなー」




烏天狗と雑談混じりに百鬼夜行を歩く鬼も誘う程大規模な百鬼夜行だった




「風鈴さまー!」


「お、1つ目の」


「一緒に行こー!」




1つ目妖怪の子どもが風鈴を見つけると、風鈴の手を引っ張っられ駆けていく



「おぉ、引っ張るな引っ張るな」


「いやー、相変わらずの子どもからの人気ぶりだな」




列の先頭へと出てきた。

しかし、ここは京の都。妖怪長達が1番警戒しているところだ




「風鈴楽しんでるか~」


「一反木綿!もっちろぉん」


「酒はもっとねぇのかや」


「化け草履は控えろ~?」




一見楽しくだべってるようにしか見えないだろうがしっかりと警戒はしている。

どうやらその警戒は功をなした




「百鬼夜行だ!!仕留めろ!!」




そう、陰陽師達だ

列は止まる。最前列に居た風鈴は声を張った




「陰陽師だ!逃げろー!!!」




涼やかな声はよく通る。後ろの方までしっかり聞こえたようだ。妖怪長達は殿を務める

しかし、陰陽師達に追いかけられるのもまた一興。これも楽しむのが妖怪だ




「逃げろ、1つ目」


「やだよう!風鈴様も行くの!!」


「うちはここに残ってみんなを守るの!」


「うううう!!」


「こら!坊や!風鈴様が困ってるじゃないの!行くわよ!」




母が迎えに来たようだ。1つ目は手を引っ張られて逃げて行った。




「しかし、予想通りか?」


「まあ、こーゆのも皆楽しんでるしまた一興ってとこ?」




烏天狗は余裕の表情で陰陽師達の行く手を阻む

四つの国の妖怪長が、妖怪達が逃げ切るまで陰陽師の相手をする。皆殺さないよう慎重に戦っていた



しかし




「あう!」




1つ目の小僧が転けたようで、それを逃すまいと陰陽師は近寄り、刀を振り上げ殺そうとする




「1つ目っ!!!」


「坊や!!!」




風鈴は咄嗟に陰陽師の顔を横蹴りした。その瞳孔は見開き、普段黄緑の目が紫に戻っていた


陰陽師の首は宙を舞い、事切れた

陰陽師達に動揺が走る

殺した。コロシタ。妖怪が人間を殺した

風鈴は、小さい声で行けという

母は子を抱え一礼して逃げて行った



陰陽師達の目は風鈴に向けられる。全員迷っているようだ。束でかかるか逃げるか




「あーあ、やっちまったな」


「風鈴激おこやん」


「あー、どうする?猫又、烏天狗」


「とりあえず、陰陽師達の目は風鈴に向いてるし逃げるの手伝うか。河童も来い」


「そうやにゃ」




1つ目の小僧が、かつての家族に重ねて見えた。母がかつて子どもを守ろうとした家族に見えた。その瞬間自分の中の何かが切れた


目は瞬きもせず、カッと見開いている。陰陽師達はたじろぐ、下手に動けもしない。動いた瞬間次に首が飛ぶのは自分だ



すると、暗闇の奥から足音が1つ、後ろから1つ聞こえてきた




「・・・風鈴。貴女でしたか。」




風鈴は眉をひそめる、その声は優しく、そして癪に障る声だった。




「ははは、殺めたんですか?風鈴、貴方ともあろう者が」




後ろからはやかましい声が聞こえてきた。そしてその声は懐かしい声だった




「・・・安倍晴明。蘆屋道満。2人が揃うとか、大盤振る舞いやね?」


「私の部下達が心配でね。ねぇ道満」


「いや、特段気には留めておりませぬ。私は部下を信じておりますので」




風鈴を挟んで言い合いをする2人。

仲が良くないと有名な蘆屋道満と安倍晴明だった。

平安京でのツートップ、いつも何かで競い合っている




「去れ」




晴明はチラリと死体を一瞥した




「風鈴、私の式神になりません?」


「ならんって言ってるやろしつこい。しつこい男はモテへんぞ」


「これは厳しい」




風鈴は晴明の誘いを一蹴する、それを聞いて道満は鼻でふん。と笑った




「はっ、風鈴は私が祓うと決めているのです。貴方は引っ込んでなさい」


「その力が付いたのか見極めてやろうか、道満」




風鈴は落ち着いたのか、目は再び黄緑に戻っていた。




「何故、殺したのです」


「貴方は今まで殺さなかったのに」


「うるさい。お前達に教える義理などない」




風鈴は、戦闘態勢に入ると、その言葉と同時に1対1対1の戦いが始まった




「人間の分際で小癪な力をもちよって!!お前達は星だけを読んでいればいいものを!」


「ふむ、流石妖怪長と言った所ですか。少し厳しいですね」


「あの頃とは違いますので、油断なさらぬよう。そして晴明、邪魔です」




3人は激しい攻防を繰り広げていた。しかし、次第に雲行きは怪しくなっていくと、シトシトと雨が降り出し次第に強くなっていく。




「雨・・・貴方達は早く帰りなさい」


「しかし・・・!晴明様!」


「邪魔ですよ」


「っ・・・!」



周りに居た弱い陰陽師達は宮廷へと急いで戻って行った




「しかし、随分と荒荒しい雨ですね。前が見えにくいです」




しめた、この視界の悪さを利用して逃げようそう考えたのだ。

だが時すでに遅し。雷がなり始めた




「ふむ、一時撤退しましょう。くわばらくわばら」


「それもそうですね。風鈴もこれ以上殺す気はないようですし」


「ふん、どうかな」




風鈴にはその雷に違和感があった。

ただの雷では無いような

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