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酔っ払いの運命とトランプ

食堂の扉を開けた瞬間、むわっとした熱気とざわめきが襲ってきた。


笑い声、話し声、酒と料理の匂い。村の連中はみんな浮かれてる。


「受付まだの人はこっちねー!」


カウンターの近くでティナが手を振ってる。


その前には、村人たちがワイワイと列を作っていた。


「おい、早くしろよ!」


「優勝は俺だからな!」


トランプ大会が始まる前から、若者たちは騒いでいる。


で、一方――。


「酒はまだかー!? なくなっちまうよーヒック!」


またかよ……。声の主は、案の定カトリーヌ。


グラスを片手に、大声で酒を催促してる。


「カトリーヌさん、飲みすぎ! うちの酒がなくなる!」


「うまいんだから仕方ねぇだろ! ヒクッ!」


カトリーヌは豪快に笑い、グラスを一気に煽る。


「はぁ……これから大会なのに、そんなに飲んで大丈夫?」


ヴィヴィアンが呆れ顔でため息をつく。


「へっ、こんなの酔ったうちに入んねぇよ!」


「吐いたら飲み込んでもらうからね。」


「おう、飲み込んでやるよ! また吐くかもだけどな! ハハッ!」


カトリーヌのバカ笑いにつられて、周りの村人もドッと笑う。


うわぁ、なにやってんだよ。


頼むから、店に迷惑かけないでくれよ……。


食堂の賑やかさに、ミアは目を丸くした。


「すごい盛り上がりですわね。わたくし、こういう雰囲気は初めてですわ。」


(まあ、お嬢様がこういう場所に来ることなんてないよな)


僕はそう思いつつ、口には出さずに微笑んだ。


「お嬢様、どうなさいますか?お食事にしますか?」


メイドが静かに尋ねる。


「いいえ、わたくしはトランプ大会に出るためにここに来たんですの。食事はあとにしますわ」


はやっ!やる気満々らしい。


「じゃあ、受付しないとね」


僕が指さすと、ティナがまだ元気に呼び込みをしていた。


「あそこだよ。でっかい声で叫んでるから、すぐわかるでしょ?」


「ええ、受付となるものをしてさしあげましょう! さあ、二人とも行きますわよ!」


ミアは堂々と歩き出す。


(あの辺、人がごちゃごちゃしてて近寄りたくないんだけどなぁ……)


僕の心のぼやきなんてお構いなし。彼女はまっすぐ突き進んでいった。


受付に着くと、ティナがすぐに気づいた。


「あら、アーサー様! いらっしゃいませ!」


いつもの笑顔で手を振ってくる。


「そちらのお嬢様と、お付きの方もいらっしゃいませ!」


「やあ、ティナ」


僕は軽く手を挙げる。


「まだ大会は始まってないのに、すごく盛り上がってるね。あ、こちらはあの有名な伯爵令嬢のミア様と、そのメイドさんだよ」


ちょっと大げさに紹介してみる。


「そうですわ! あの有名な伯爵令嬢、可憐で麗しいミア・ナイトフィールドとはわたくしのことですわ!」


ミアは誇らしげに胸を張る。


(そこまでは言ってないんだけど……まあ、気持ちよさそうだからいいか)


「なっ、なんですって!?」


突然、ティナが大げさに驚いてみせた。


「あの才色兼備、気品高くして数多の噂を賑わせるミア様ではございませんか!? まさに伝説が歩いているようなもの! 皆様、この高貴なお姿を目に焼き付けてください!」


(いや、やりすぎでしょ……)


「そっ、そこまで言われると、少し照れてしまいますわね……」


ミアが口元に手を当て、ほんのり頬を赤らめる。


(おお、ミアが素直に照れるなんて珍しいな)


苦笑しながら、その場の雰囲気を楽しんでいると、ティナが名簿を取り出した。


「それで、アーサー様もミア様も参加されるという事でよろしいでしょうか?」


「おーい! アーサーじゃねえか! 何やってんだ、こっち来いよ!」


突然、背後からデカい声が飛んできた。


……聞こえない。聞こえない。


僕は無視して目を逸らす。


「おーい! 聞こえてんだろ! 無視しても無駄だぞー!」


(くそ、しつこい……)


「ねえ、あなた呼ばれてますわよ。カトリーヌさんでしたかしら?」


ミアが袖を引っ張ってくる。


「知らない人だよ。見た目はいいけど、頭は悪そうだよね。」


「……あなたねえ、家庭教師なんでしょう? お父様たちが言ってましたわよ。」


「そうかもしれないけど、あんな人に教わったら僕までバカになりそうだよね。」


「アーサー! 聞こえてんぞー! ヒック……明日、訓練追加なー! 頭の悪いアタシと山まで走ろうな~!」


カトリーヌが笑いながらグラスを掲げる。


(うわ、めんどくさ……)


「いやだよ、ごめんって。カトリーヌが酔ってるのが悪いんだよ。もうちょい控えてよ、恥ずかしいなあ。」


「確かに、あれは酔っ払いですわね。はしたないですわ。」


ミアが冷たく言い放つ。


(まあ、いつものことだけど……これ以上ほっとくと、他の人に迷惑かかるな)


「それよりアーサー、お前も参加すんのか? やめてくれよー。強いんだからよー」


カトリーヌがニヤニヤ笑う。


「僕は見てるだけ。応援してあげるから頑張ってよ。」


(前世でトランプめっちゃやってたし、参加したらさすがにまずいよな)


「あなたは参加しないのですね? では、わたくしを応援していなさい。絶対優勝してみせますわ! そして崇めなさい!」


ミアが胸を張る。


「わかったわかった。優勝したら崇めないけど、称えてあげるよ。」


「そうしなさい。あなたが跪いて許しを請う姿が目に浮かびますことよ。」


(何言ってんだよ……僕が悪者みたいじゃないか)


「はいはい、早く受付しなよ。めんどくさいんだから。」


僕は手を振って促した。


「はぁ、本当に呆れます。もういいですわ。わかりました、受付を済ませますわ」


ミアはぷんすこしながらティナに名前を伝え始めた。


その間、僕は隣のメイドさんが気になって声をかける。


「ねえ、メイドさん?」


「はい、なんでございましょう」


穏やかに振り向く銀髪のメイドさん。めちゃくちゃ上品。


「名前、何ていうの?メイドさんって呼ぶのもアレかなって」


そう言うと、彼女はふふっと微笑んだ。


「ライラと申します。どうぞお気軽にお呼びくださいませ」


「ライラね。ありがと」


そんなやり取りをしてると、ミアが戻ってきて、胸を張る。


「絶対勝ちますわよ! さあ、お食事にしましょうか!」


「うん、お腹すいた」


席に着いて、食事を始めると──


「アーサーよぉ!」


酔っ払いのダル絡み、きた。


振り返ると、酒臭い息を撒き散らしながらカトリーヌが肩に腕を回してくる。


「なんだあ? 嬢ちゃんと満更でもねえじゃねえか。ほれほれ、何があったんだよぉ~?」


(うわっ、酒くさっ……)


「おーい、カトリーヌさん、そろそろやめとけよ!」


近くの村人が声をかけるも──


「うるせえよ、ぶっ飛ばすぞ!」


「す、すいません……」


(村人、弱っ!)


僕は肩をすくめながら、なんとかカトリーヌを引き剥がそうとする。


「カトリーヌさん、大丈夫ですか? お水をお持ちいたしましょうか?」


ライラが優しく声をかけると、カトリーヌが目を丸くし──すぐに酔っ払いモード全開。


「お水ぅ? そんなもん飲むくらいなら酒だ酒ぇ!」


僕はため息をつきながらライラを見る。


「いいよライラ、どうせ水飲んでもまた酒飲むんだから。その辺に放り投げてきてよ」


「アーサー、そんな言い方しないでくれよ~!」


カトリーヌが泣き真似を始め、村人たちがくすくす笑う。


(はぁ……マジでめんどくさい)


すると──


「酔ってても勝てるから大丈夫だ! アタシの相手になるやつなんかいねえよ!」


その言葉に、ミアがピシッと立ち上がった。


「それは聞き捨てなりませんわね! わたくしがいる限り、あなたの優勝はありえませんわ!」


空気がピリッと張り詰める。


「おっ、嬢ちゃん言うねぇ!」


カトリーヌがニヤリと笑う。


「それでこそアーサーが認めた女だよ! アタシに勝ったらアーサーくれてやるよ」


「いりませんわよ! こんなやる気のない子供!性根を叩き直してからつれてきてくださいまし!」


なんで僕が勝手に差し出された上に貶されてるんだよ……。


「アーサー様、大丈夫ですか?」


ライラが心配そうに声をかけてくる。


僕はふぅっと息をつきながらポツリとこぼす。


「ライラみたいな人ならお嫁さんにほしいかもなぁ……」


「まぁ!」


ライラが微笑む。


「あらあら、私でよろしいのですか?」


くすっと笑って返してくる。


「はぁ!? 何言ってますの!」


ミアが勢いよく立ち上がる。


すると、カトリーヌがまた肩を震わせて絡んできた。


「なんだあ? 将来はアタシのこともらってくれるって言ったじゃないのさ……ぐすん」


(言ってないわ!!)


周囲の村人たちが笑い、僕はぐったりしながら空を見上げた。


(誰か助けてくれ……)


でも、そんな絶望なんてお構いなしに、食堂のテンションは最高潮だった。


まるで僕の疲労なんて存在しないかのように、人々はトランプ大会の開幕に沸いている。


そんな中、リリーの元気な声が響いた。


「それでは抽選会を始めまーす!参加選手の方々はこちらに並んでくださーい!」


リリーが高らかに宣言すると、会場がざわめく。


(あれ?リリー、こんなところで進行役やってるのか。まあ、彼女らしいけど。)


僕はその様子を眺めながら考えていた。


「では、わたくし行ってまいりますわね!」


ミアは、自信満々な顔で言う。


「さて、ぶちかましてやるか!見てろよ!」


カトリーヌは酒瓶を握りしめ、ニヤリと笑った。


「お二方、ご武運をお祈りしております。」


ライラが小さく頭を下げる。


(まだ抽選会なのに、みんな気合い入りすぎだよ……。でも、まあ楽しそうだからいいか。)


人々が列を作り、抽選が進んでいく。


リリーは次々とくじを引かせ、サッとトーナメント表を埋めていった。


「さあ、第一回ババ抜きトーナメント表の発表です!」


高らかに宣言すると、会場中の視線が彼女に注がれる。


「なぜかドキドキしますわね。わたくしの中に眠る熱い魂が目を覚まそうとしていますわ!」


ミアは胸に手を当て、厳かにうなずいた。完全に騎士のノリだった。


(さすがだよ、期待を裏切らないね。)


「たまんねぇなあ!見えるぞ、見える!……おえっ……吐きそう……。あの頂点に立つアタシの姿が!」


青ざめた顔で気合い入れてるのがヤバすぎて、僕はそっと目をそらした。


(もう、この人のことは放っておこう。)


「興奮してきました!なんだか胸が高鳴る感覚です!」


ライラまで目を輝かせてる。


(え?ライラもそんな感じなの?)


リリーが場を盛り上げるように声を張り上げた。


「さあ、皆様!ただ優勝するだけでは面白くありません!そこで、優勝者には豪華賞品をご用意しました!」


一瞬、場の空気が張り詰める。


リリーがわざとらしく溜めを作り、ゆっくりと続きを告げた。


「なんと……なんとなんと!賞品は……このヴィヴィアン食堂の看板娘、ティナちゃんからの熱いキスが!」


瞬間、会場は絶叫じみた歓声に包まれた。


「きゃー!」

「最高だー!」

「本気かよ!?」


ティナは慌ててリリーに詰め寄る。


「ちょっと!ふざけないでください!そんなのあるわけないじゃないですか!」


怒りの表情を浮かべたティナに、リリーは楽しげに笑う。


「すみません、皆さん!ティナちゃんからのキスは、さすがに断られちゃいました!」


村人たちから笑い声とヤジが飛ぶ。


「なんだよー!」

「期待して損した!」


(ほんとに興奮して鼻血出してる人もいる……。みんな、冗談だって分かってるよね?)


リリーが手に持った小さな物を高く掲げた。


「というわけで、本当の賞品はこちらです!」


ついに来た。リリーがここまで引っ張ったんだ。さぞかし豪華な賞品が――。


「……何かの鍵です!」


……は???


一瞬、食堂が静まり返る。脳が理解を拒否した。


「なんだそりゃ!」


「適当すぎるだろ!」


(いやいや、待て待て。何かの鍵って何??説明なしかよ!!)


僕が心の中でツッコむ横で、リリーは涼しい顔だった。


「おい、アーサー……ありゃ、やべえぞ。気持ち悪い。」


隣でカトリーヌが急に冷静になった声で言う。


「酔っ払ってるだけでしょ。」


僕は冷静に返したが、内心少しだけ不安を感じていた。


そして、いよいよトランプ大会が始まろうとしていた――。


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