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インディアン・ポーカーとクッキーの行方

僕はトランプを手に取り、みんなの顔を見回した。


「次は3回戦。チップ代わりにクッキーを使うよ。」


そう言いながら、机の上に並んだクッキーに目をやる。


「最初に5枚ずつ配る。毎ラウンド、まず全員が1枚賭ける。」


トランプを軽くシャッフルしながら、クッキーをそれぞれに配った。


「勝負する人は追加で1枚出す。降りるのは自由。最後に勝った人が場のクッキーを総取り!」


「全部総取り!?それ、幸せすぎます!」


レナが満面の笑みで身を乗り出す。その勢いに、僕は少しだけ微笑んだ。


「で、3回戦終わった時点で、一番クッキーが多い人が勝ちね。」


「そんだけか?」


カトリーヌがニヤリと笑って言う。


「じゃあ負けたやつは罰ゲームってのはどうだ?」


「嫌です。」


カレンの冷静な声が場を一気に引き締めた。


短い一言に、僕もカトリーヌも口を閉じる。


「じゃあ……負けた人は玄関の掃除をするっていうのは?」


レナが手を挙げて提案する。


「それ、今日のあなたの仕事ですよね。」


「そうですか……。」


レナが肩を落とし、しょんぼりする。


カトリーヌが手を叩いた。


「じゃあ、最後に勝ったやつの言うことを、負けたやつが1回だけ聞くってのはどうだ?」


その言葉に、僕は少し考え込む。


(勝てば魔法の練習サボれるし、お願いにも使える……どうする?)


一瞬迷ったけど、肩の力を抜いた。


まあ、ゲームなんだし、楽しめばいいか。


「そうだね、最後に一番クッキーが少ない人が負けって感じにしようか。それじゃ、これで決まりだね。」


僕が言うと、レナが勢いよく手を挙げた。


「私もいいです!クッキーが増えるかもしれないし、仕事も楽になるかも!」


その単純すぎる理由に、僕は笑いをこらえた。


「カレンはどうする?」


カトリーヌがニヤリとしながら問いかける。


「二人はいいみたいだけど、負けるのが怖いのか?」


その一言に、カレンの眉がピクリと動いた。冷静な声で答える。


「負けるわけがありません。やりましょう。」


僕は内心で苦笑しながらも、次の言葉を出す。


「じゃあ、始めようか。」


僕はカードを配り終えると、全員がテーブルの真ん中にクッキーを1枚ずつ置いた。


「よし、それじゃあ1ラウンド目スタートしよっか。」


掛け声とともに、全員がカードをおでこの前に掲げた。


自分のカードは見えない。でも、相手のカードは全て見える。


そして――部屋には笑い声が響き渡ることになる。


「ぶはっ!なんだよそれ!」


カトリーヌが机を叩きながら大笑いする。


僕も腹を抱えながら、笑いすぎて涙が出てきた。


「ふざけんなよ!何やってんだよ、レナ!」


思わず口から悪態が漏れるほどだ。


カレンは必死に笑いを堪えようと手で口元を押さえてるけど、肩が小刻みに揺れている。


みんながこんなに笑っている理由はただ一つ――レナの変顔だ。


レナの顔はひょっとこそのものだった。


頬を突き出し、鼻の穴を全開にし、真剣な目だけが妙に浮いている。


その時、レナがきょとんと首をかしげる。


「なんですか?」


普通すぎるその一言に、笑いはさらに加速する。


「おい、レナ!」カトリーヌが涙を拭きながら、息も絶え絶えに声を上げた。


「その顔、マジでやべえって!どう見ても水面から顔を出した瞬間の魚だろ!」


レナはぷいっと顔を背けた。


「そんなの知りません!」


真顔でそんなことを言い切る彼女に、僕は笑いながらも困惑するしかなかった。


レナ、ほんとに自分の顔がどうなってるか、全然気づいてないんだろうな…


「なんて顔してるんですか。」


カレンが辛うじて真面目な声を出して注意する。


それでも、口元は笑いを完全には抑えきれていなかった。


「これが――私の戦略なんです!!」


レナが胸を張って、力強く宣言した。


「わかったから、そろそろ勝負するかどうか決めてよ。」


僕が促すと、レナは力強く頷いた。


「当然、します!」


「えっ、本当に!?」


驚きすぎて思わず声を上げてしまった僕に、カトリーヌも目を丸くする。


「おいおい、マジでやるのかよ?」


カレンも静かに問いかけた。


「本気ですか?」


「え、え、え?えっ、ちょ、ちょっと待ってください!」


レナは周囲を見渡しながら、段々と自信を失くしていく様子だった。


だが、目の前のクッキーに視線を落とすと、再び表情がキリッと変わる。


「勝負……します!」


その言葉に、一瞬の間が空いた。カレンがカードを静かにテーブルに置く。


「私は降ります。」


カトリーヌも肩をすくめながらカードを下ろした。


「アタシもだ。」


レナが寂しそうに俯いたのを見て、僕は思わず手元のクッキーを1枚テーブルに置いた。


「ふぅ…仕方ないなあ。ほら、いくよ。せーの。」


「13です!!私、最強ですよねぇーー!!」


レナは目をキラキラさせながら、カードを掲げ、周りをぐるりと見回す


「ほら、どうですか!私が一番です!みんな、これ見てください!完璧なカード!これで私は完全無敵ですよ!アーサー様に勝ったんですよ、分かりますかーー!?!!」


レナが満面の笑みで叫んだ。


ここまで言われると腹が立ってきたな……


「もう、そんなこと言わなくても分かってるよ!」


僕のカードは7だった。やっぱり、という気持ちが胸をよぎる。


そして次の瞬間――レナはテーブルに突っ伏し、大粒の涙を流し始めた。


「みんなひどいです!」


(いやいや、何がひどいの?君、勝ったじゃん……。)


心の中でツッコミを入れる僕をよそに、カトリーヌが豪快に笑った。


「おいおい、そんな泣き顔してたらクッキーも逃げるぞ!」


カレンは苦笑いしながら静かに指摘する。


「レナ、勝負のときも、終わった後ももう少し落ち着きましょう。」


すると、レナは涙を拭きながら顔を上げ、目の前のクッキーをじっと見つめた。


そして――。


「みんな、あんなこと言って騙そうとするんですからぁ!!!」


ぷりぷりと頬を膨らませ、両手を腰に当てて、ふんっと鼻を鳴らしながら怒る。


僕は焦った顔をして、思わず言葉を詰まらせる。


「えっ、ええ、次は怒るの!?だって、そういう遊びだし!」


その勢いに全員が吹き出し、部屋は再び笑い声で満たされた。


レナは、急に手元のクッキーを見つめた。


その瞳が突然きらきらと輝き出す。


「でも、次も勝ちますよ!クッキーは絶対に誰にも渡しませんからぁ!!」


その勢いに、僕は思わず笑ってしまう。


「その意気だ!」


カトリーヌが大笑いしながら肩を叩く。


「次もアタシは手加減しないぜ!」


レナは真剣な表情を作って、カトリーヌを睨むように見上げた。


「望むところです!」


隣でカレンが静かに微笑んで、小さく頷いた。


「その調子です。ただ、感情を抑えて戦略を練らないと、次も勝てませんよ。」


「はいっ!次も顔に出しません!」


レナの元気いっぱいの返事に、僕たちは全員つられて笑顔になる。


「よし、もっと面白くしよう!」


僕がそう言うと、カトリーヌが拳を突き上げた。


「いいな、その調子!じゃあ、行くぜ!」


そうして、僕たちはゲームを再開する準備を始めた。


みんなの笑顔と元気な声が、部屋中に広がっていく。


僕の目の前に置かれたクッキーは、たったの3枚。


隣を見ると、カレンが4枚、カトリーヌも同じく4枚。


そして、レナだけが大量の9枚を抱えていた。


(やばいな……この差、かなりキツイかも。)


そして、僕は次のラウンドの準備に取り掛かる。


「配るよ。」


トランプを切りながら、全員を見渡した。


先ほどまでの笑い声は影を潜め、テーブルの上に静かな緊張感が漂っている。


カードを配り終えた僕が、「じゃあ」と声をかけると、全員がそれぞれカードをおでこの前に掲げた。


場にクッキーを1枚ずつ賭けると、小さな皿の上でそれが重なる音が響く。


レナは目を輝かせ、手をぎゅっと握りしめて気合十分だ。


それを見て、カレンとカトリーヌがちらりと目配せを交わす。


その仕草が気になるも、深く考えずに僕は言った。


「じゃあ、やろっか。」


その声とともに2試合目が始まった。


どうやって巻き返すかな……。


僕は周囲の様子を伺う。


自分のカードが何か全く分からないまま、じっとテーブルを見つめた。


けれど、手がかりを探すには周囲を観察するしかない。カレンに視線を移す。


カレンは観察眼が鋭い……


けど、読みが外れることもある。


そこをどうつくかだな…


カトリーヌが口元に笑みを浮かべ、挑発的に言ってきた。


「おいおい、まだ始まったばっかりだぞ?すでにヤバい顔してんじゃねえか?」


ここは一旦無視するか。


視線をレナに向けると、彼女は真剣?な顔をしている。


だけど、その目が微妙に泳いでいる気がした。


いや、レナのことだ。これがブラフかどうかも分からないな……。


次にカトリーヌを見る。彼女はカードを掲げ、にやりと笑っている。


けど、その笑みがいつもの余裕ある感じとは少し違って見えた。


楽しんでるようで、実は少し焦ってるのか?


僕は一瞬、心の中で迷いがよぎる。


どっちもまだ確信できないけど、なんか隠してる気がする。


僕は彼女たちの様子から微かなヒントを拾おうと、観察を続けた。


ここはまだ序盤だし、リスクは避けておいた方がいいよな……


「様子を見ようかな。」


僕はわざと気の抜けた声で言いながら、椅子にぐったりと寄りかかった。


けど、目は相手の反応を逃さないように、鋭く動いていた。


カレンがすぐに反応する。


「なるほど、慎重ですね。」


「ビビってんのか?」


カトリーヌが挑発する。


僕は表情を崩さず、口元に微笑みを浮かべた。


その意味は誰にもわからない。


視線だけは冷静に、テーブルの上と相手の動きを交互に捉えていた。


(ビビってるわけじゃない、ここは確実に進むべきタイミングだ。)


心の中でそう自分を奮い立たせながら、次の展開を見守る。


カレンが微かに笑う。


「……アーサー様、それ、低いですよ。」


その瞬間、カトリーヌが口元を隠して「ぷっ」と小さく吹き出す。


「は?」


カトリーヌがニヤリと笑う。


「あー、そうかそうか。なるほどな。」


「ん?何が?」


「アタシは"ブラフ"はよく使うけど、"本当にヤバい時"は何も言わねえんだよなぁ。」


カレンの表情がピクリと動く。


……二人共、"罠"か???


「アーサー様、私のカード……低いですか?」


カレンが、わざと不安げな声で話しかけてきた。


(え……これなんだ?)


僕は心の中で警戒しつつ、カレンの表情を探った。


相変わらず何の感情も読み取れない。


「おいおい、アーサーよりカレンのほうが高けえぞ!」


カトリーヌが茶化すように笑いながら、手を軽くテーブルに叩きつける。


(……なんか違和感があるぞ。)


僕は二人の様子を観察する。


ちらりと目配せを交わすカレンとカトリーヌ。


(待てよ……何か仕掛けてきてるのか?それともただの挑発?)


カレンが視線を逸らした。


「アタシなら降りるけどなぁ。ま、負けたくなけりゃの話だ。」


カトリーヌがカードを軽くトントンと叩きながら挑発してくる。


アーサーは軽く肩をすくめ、わざとらしく首を傾げてから口を開いた。


「その程度の挑発?」


一呼吸置いて、視線をカトリーヌに固定する。


微笑みを浮かべたまま、言葉を続ける。


「本当に弱いカードなら、もっと喋ることがあるはずだよね?」


僕はカトリーヌをじっと見つめていた。


挑発に対する反応を待つ静寂の中――


その一瞬、一瞬がまるで数秒にも感じるほど、空気が重く沈んだ。


――静寂が続く。


誰もが口を閉じ、息を潜めて、次の展開を待っている。


そんな時――


隣から、突然「ポリポリ」という音が響いた。


「え?」


その音に振り向くと、レナが真顔でクッキーをかじっていた。


「なにしてんの?」


思わず声を出すと、レナはハッとして目を見開いた。


口の中のクッキーを必死で飲み込む。


「はっ!?すみません。真剣すぎて、つい食べちゃいました。」


場の緊張が一気に崩れ、僕は呆然としながら彼女を見つめた。


「……食べた分、1枚減ったからね。」


僕が指摘すると、レナは「あ……わかりました……。」と力なく答えた。


レナが食べたクッキーの分を減らしたところで、場の空気が少し戻ってきた。


だが、その次の一言で、僕の心は揺さぶられる。


「アーサー様、それ、弱いですよ。」


レナが真剣な顔で言い放つと、カレンとカトリーヌが小さく頷いた。


(あのレナが……。え、これ本当に弱いのか?)


心の中で焦りが走る。


まさかレナがこんなことを言ってくるとは思わなかった。


いや、でも冷静に考えろ。


これが本当に弱いなら、こんなに自信を持って言う理由がない。


「ねえ、レナ、さっきはクッキーに夢中だったのに、急にどうしたの?」


僕は表面上冷静を装いながらも、内心では動揺していた。


「アーサー様は弱いんです!信じてくださいよ!!」


「ふーん、じゃあ、強いってわけだ。」


「そんな訳ありません!!」


レナは顔を真っ赤にして否定する。


「ねえ、僕を攻めすぎるとバレちゃうよ?」


「レナのほうが強いですからね。自信があるのでしょう。」


カレンが冷静に言った。


「さっきレナのカード強いって言ったもんなぁ?」


カトリーヌが煽るように言う。


「そうです!!」レナは声を高くして答える。


(ん?)


僕はその瞬間、何か引っかかるものを感じた。


深呼吸をして、冷静を取り戻す。


それでも、どうしてもこれが本当かどうか、確信が持てない。


でも、ここで降りても同じ。


次の試合で絶対に勝たなきゃいけない――そんなことを考え、下を見た。


目の前には、わずか2枚のクッキーが残っている。


……どうせ、次でも負けられないならここは降りるべきじゃない。


僕は意を決し、口を開いた。


「カレン、カトリーヌ。僕を降ろしたいんだよね?」


その言葉に、二人の顔が一瞬でこわばった。


カレンは目を逸らし、カトリーヌは「ちっ」と舌打ちをする。


「でもさ、二人とも。僕が強いって見えてるなら、ここで降りないと負けちゃうよね?僕は勝負するつもりだから。」


あえてゆっくりとした口調で言った。


「それに、どちらか片方が勝負した場合。負けたら差がついちゃうけどいいの?勝負して負けて困るのは二人だよ。」


そう言いながら、視線をレナに向ける。


「レナ、クッキーが減ってもいいの?」


レナは即座に「嫌です!」と大きな声で言い放つ。


僕が内心で「よし」と思ったその瞬間、レナが口を開いた。


「降りましょう!」


だが、次の瞬間には「あ、でもどうしよう……。」と困った顔をしながら呟く。


(なんだよ、どっちなんだよ!)


僕は心の中で突っ込みながら、表情には出さないようにする。


レナはしばらく自分のクッキーと僕の顔を交互に見比べていたが、やがて大きく息を吸い込むと、慌てた様子でカードを下ろした。


「やっぱり降ります!」


「おい、レナ!」


カトリーヌが抗議の声を上げるが、レナはぷいっと顔を背けた。


カレンは一瞬だけ表情を崩した。「……そうなりますよね。」


その声には、微かな呆れが混じっているのを僕は聞き逃さなかった。


僕はニヤッと笑い、カードを指で軽く叩きながら言った。


「じゃあ、勝負しよっか。」


カレンとカトリーヌは一瞬だけ目を見合わせた。


その瞬間、カレンの唇がわずかに震え、カトリーヌは眉間に小さなシワを寄せた。


「……私も降ります。」


カレンが静かにカードを置く。


「アタシもだ。」


カトリーヌも肩をすくめながら続ける。


(よし、完全に読んだ。)


目の前には6枚のクッキー。少しは巻き返せた。


カトリーヌがカードを片付けながら、舌打ち混じりに言った。


「ったく、運がいいんだか悪いんだか……。」


その言葉に、カレンも小さく微笑む。


「そうですね。アーサー様、油断すると次で逆転されますよ。」


彼女たちの悔しそうな顔を横目に見ながら、僕はクッキーを手に取り、心の中で一つ頷いた。


「さあ、次の勝負はもっと本気でいくよ。」


僕はそう言って、軽くカードを指で弾いた。


みんなが思わずこちらを見る。


「今のうちに、遊びのつもりでいるのはやめたほうがいいかもね。」


冗談めかして言ったつもりだった。


その言葉が、本物の勝負の幕開けになるとは――まだ知らなかった。

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