転生の扉を開いて
目を開けると、どこまでも白い世界が広がっていた。
「……ここは?」
ぼんやりと立ち尽くし、記憶をたどる。
オフィス。机。仕事の山。気づけば突っ伏していて――。
(まさか……死んだ?)
「斉藤健司さん、ようこそ。」
突然、背後から柔らかな声がした。振り返ると、光の中に銀髪の女性が立っている。
「……誰?」
「私はこの世界の調停者。“女神”とでも呼んでください。」
女神? 天使とかじゃなく? 混乱しながらも、彼女の神秘的な雰囲気に圧倒される。
「ここは天国か?」
「いいえ。あなたは過労で命を落としました。」
「……やっぱりな。」
苦笑が漏れる。ブラック企業で働き詰めだった。こんな終わり方も不思議じゃない。
「ですが、あなたの人生はまだ終わりではありません。」
「……どういうこと?」
女神が手をかざすと、無数の光の粒が舞い上がる。
「あなたには新しい世界での人生が待っています。」
「転生……?」
「その通り。」
思わず眉をひそめた。
「なんで俺なんかが?」
「あなたは特別だからです。」
「俺が?」
「あなたは過酷な環境でも誠実に働き続けました。他人を助け、責任を果たし……そして、不条理な死を迎えた。」
女神の視線が強まる。
「過労死という理不尽な終わりを迎えたあなたに、もう一度生きる機会を。」
「……それって、俺がブラック企業で潰れたから?」
「そうです。」
女神は穏やかに微笑む。
「あなたの魔力量は、通常よりも多く設定されます。」
健司は眉をひそめた。
「……多く?」
「さらに、通常属性はすべて扱えます。」
(全属性!? ってことは、火とか水とか……全部?)
「そして――」
女神は軽く手をかざす。宙に光が集まり、指先で弾けた。
「あなたには、特別な力も授けます。」
「……特別な?」
健司はゴクリと喉を鳴らした。
(新しい世界に行くなら、それくらいなきゃやっていけないよな。)
「ただし――覚えておきなさい。」
女神の表情が引き締まる。
「7歳までは魔法を使わないようにしてください。力を制御できなくなる可能性があります。」
「……制御できなくなる?」
女神は静かに頷く。
が、その一瞬、わずかに表情が歪み――舌打ちが聞こえた気がした。
「え? 今――」
「気にしないでください。」
すぐに微笑む女神。
だが、どこか作り物めいた笑顔だった。
「あなたの新しい体には十分な時間が必要です。その間に環境に馴染み、力を受け止める器を育てなさい。」
(特別な力……でも、扱いを間違えたらヤバそうだな。)
健司は噛みしめるように考えた。
それでも――
(俺が、もう一度……?)
胸の奥のわだかまりが、じわりと溶けていく。
「……そういうことなら、やってみます。」
決意とも安堵ともつかない声だったが、それは"新しい人生"を受け入れた証だった。
「ありがとうございます。新しい人生では、あなたは**『アーサー・クリーヴランド』**として生まれ変わります。赤ん坊からのスタートですが、そこには素晴らしい家族と穏やかな環境が待っています。」
健司はふっと笑った。
「赤ん坊からやり直すって、面白そうですね。少なくとも、仕事の締め切りには追われなさそうだ。」
「ええ、新しい世界では、のびのびと生きてください。」
女神は再び微笑む。
が、その目の奥に、一瞬だけ鋭い光が宿った。
光の玉が健司の体に吸い込まれ、意識が遠のく。
「それでは、新しい人生を楽しんでください。」
甘美な声。
だが、最後の一言だけ、どこか冷たかった。
まるで――"楽しんでいる"ように。
(……なんだ、この違和感……)
考える間もなく、意識が沈んでいった。
──目を覚ますと、そこは温かな布に包まれた柔らかな空間だった。
薄暗い視界の中、優しく微笑む金髪の女性がいた。
(……ここからが、俺の新しい人生か。)
アーサーは小さな手を伸ばしながら、新たな世界に期待を膨らませた。




