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全属性を持つ少年、守るべき運命

部屋に戻るなり、ベッドにダイブした。


「はぁ……ほんとに疲れた……。」


布団に沈み込みながら、じわじわと今日の疲れが押し寄せる。


カトリーヌの存在感、デカすぎる。


あの勢いに巻き込まれると、こっちのペースが完全に崩れる。


「魔法はすごいんだけどな……」


あの人、実力は本物だ。姉さんとの模擬戦の時も圧倒的だったし、今日の訓練だって普通に勉強になった。


でも——


「……性格がなぁ。」


思い出すのは、あの豪快な笑い声と、突拍子もない言動の数々。まるで台風みたいな人だ。


なのに、なんか嫌いになれないのがムカつく。


体を横にずらして、腕をだらんと垂らす。


(それにしても、さっきの身体強化……あれ、なんだったんだ?)


体の奥から力が溢れ出す感覚。魔力が流れて、全身と何かが繋がるような——あんなの、初めてだった。


(もっと試してみたい気もするけど、別に魔法にハマりたいわけじゃないし……)


そう思った瞬間、脳裏によぎるのは**「明日の訓練」**のこと。


心が、少しだけざわつく。


「……いやいや、ちょっと待てよ。」


急に起き上がり、頭を抱えた。


「僕、7歳だぞ!? 人生設計とか早すぎるだろ!!」


のんびり暮らす予定だったのに、いつの間にか魔法だの訓練だの、どんどん忙しくなってる。


「……まあ、魔法バラしちゃったのが原因なんだけど。」


肩をすくめて、またベッドに沈む。


考えごとは止まらない。


(日本での味とか遊び、思い出すとなんか手を動かしたくなるんだよな。)


ふと、窓の外に目を向けた。


(そういえば、教会の像……あの時、光ったよな。)


もしかして、女神様が何か教えてくれるのかな?


「……明日も魔法訓練か。」


深いため息をつきながら、目を閉じる。


カトリーヌに振り回される日々、慣れるのはまだまだ先になりそうだ。


――――


カレンが足を止めた。


「ちょっと頼みがあるんだが、フラウを呼んでくれねえか?」


カトリーヌの声に、カレンは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに頷いて足早に去る。


数分後、フローレンスが現れた。


「カトリーヌ、何かあったの?」


「ちょっと話があるんだ。ラルフさんも呼んでくれ。書斎でいいだろ?」


フローレンスの表情が引き締まる。


「わかったわ。急ぎましょう。」


◆◆◆


書斎に入ると、ラルフがすでに座っていた。


その穏やかながらも鋭い目が、すでに何かを察している。


「さて……覚悟して聞いてくれ。」


カトリーヌが腕を組み、深く息を吐く。


ラルフが身を乗り出した。


「なんだ、改まって。」


カトリーヌは二人をじっと見据え、静かに告げた。


「アーサーは全属性持ちだ。」


「……!」


フローレンスの顔が固まり、ラルフが思わず息を呑む。


「全属性……火、水、風、地、無……それが全部?」


「ああ、それだけじゃねえ。魔力操作も異常なほど上手い。7歳でこのレベルは、普通じゃねえよ。」


フローレンスが顔に手を当てる。ラルフは険しい表情で目を細めた。


「……やっぱり、そういうことか。」


カトリーヌはさらに言葉を続ける。


「でも、それだけじゃ終わらない。あいつ、多分“希少属性”を持ってる。」


空気が一変した。


「……希少属性、だと?」


ラルフの声が低くなる。


「ああ、確証はねえが、身体強化の訓練中に異常な現象が起きた。アタシの魔力を通した途端、体から力が溢れ、空気が震え、地面が揺れた。それに、アタシまで吹っ飛んだ。」


「……弾かれるほどの力。」


フローレンスの表情が険しくなる。


「希少属性の中でも、特別な部類かもしれないわね。」


ラルフが低く呟く。


「希少属性を持つ魔法使いは、強大な力を得ることもあれば、それが原因で争いの種になる。戦場でも何度も見てきたが、あれは“力”であると同時に“呪い”だ。」


カトリーヌが頷く。


「ああ、その通りだ。だから問題なんだよ。国に知られたら、あいつの人生は普通じゃ済まねえ。」


「……それで、どうするつもりだ?」


ラルフが静かに問いかける。


カトリーヌは迷いなく答えた。


「鍛えるしかねえだろう。あいつが自分を守れるようにする。それしか手がねえ。」


フローレンスが小さく頷く。


「そうね。私たちの子供だもの。絶対に守らなきゃ。」


ラルフも息を吐き、力強く頷いた。


「わかった。俺たちで見守る。そして、今はこのことを誰にも知られないようにする。」


「ええ、それがいいわね。」


フローレンスは感謝の笑みをカトリーヌに向けた。


「本当にありがとう。頼りにしてるわ。」


カトリーヌは肩をすくめる。


「礼はいい。あいつの成長が何よりの見返りだ。」


少し空気が和らいだ瞬間、ラルフが真剣な顔で言った。


「そうだ。全属性のことはどうする? いずれ村の人間や使用人にも知られるだろうが……。」


フローレンスが眉をひそめる。


「確かに。それに、隠していた方が後でややこしいことになるかもしれないわね。」


カトリーヌが腕を組む。


「ああ。家族や使用人には、先に話しておくべきだろうな。全部を隠し通すなんて無理だ。」


ラルフがため息をつきつつも同意する。


「そうだな……。家族や信頼できる者たちには、ちゃんと説明しておこう。」


フローレンスが提案した。


「だったら、今夜の夕食時にみんなに話しましょう。」


「決まりだな。」


カトリーヌが短く言った後、口角を上げる。


「ま、あいつの全属性がどれほどのもんか見せつけてやるってのも悪くねえ。」


ラルフが苦笑しながら頷いた。


「ただし、外には漏らさないように厳重に釘を刺しておかないといけない。村人たちにはまだ話さない。」


少し間が空いた。


やがて、ラルフがもう一つ思い出したように口を開く。


「そういえば、魔術学院の話もそろそろ考えておかないといけないな。」


カトリーヌが壁にもたれかかる。


「本人次第だろうな。無理やり押し込んだところで意味ねえし。」


「7歳から特別入学もあるけど、あの子なら嫌がりそうね。」


フローレンスが苦笑する。


「下手に押し付けるのは逆効果よ。」


ラルフも頷いた。


「確かに。それでも、本人が選べる道を用意してやるのが親の務めだ。」


カトリーヌが少し笑いながら肩をすくめる。


「まあ、そこまで成長するかどうかはアタシ次第だけどな。」


全員が小さく笑い合い、会話は穏やかに締めくくられた。


しかし、その裏には——


アーサーの力に対する、不安と期待が交差していた。。


―――――


ダイニングに入ると、壁際にカレンとレナが立っていた。


「今日は疲れたね。」


レナが勢いよく頷く。


「はい! すっごく疲れました!」


ニヤリとしながら、わざとらしく肩をすくめる。


「へぇ? レナってそんなに疲れやすいんだ?」


「……あっ!」


レナが固まり、その瞬間——


「レナ、アーサー様のからかいに乗るんじゃありません。」


カレンが冷ややかな視線を向けた。


「アーサー様! はめましたね!?」


頬を膨らませるレナ。でも、すぐにカレンの視線に気づき、ビクッと肩をすくめる。


「……すみません。」


僕は笑いを噛み殺しながら、席に座った。


夕食が始まり、ソフィー姉さんが早速突っ込んでくる。


「あんた、ちゃんと魔法の授業受けてるの?」


「受けてるよ?」


姉さんが呆れ顔で笑う。


「楽しいよ! 姉さんも一緒に受けようよ!」


「はいはい。」


軽く受け流された。


(くっ……この人、あしらい方を完璧に理解してやがる……!)


そこに、カトリーヌが突っ込む。


「ソフィー、お前も受けてみるか?」


「い、いいわよ! 私は!!」


全力拒否。即、兄さんに流れ弾が飛ぶ。


「クリスに言ったほうがいいわよ!」


「僕は領主の仕事があるからね。」


「ずるいよ!」「ずるいわよ!」


僕と姉さんの抗議がシンクロした。


が、母さんが涼しい顔で言い放つ。


「あら、領主の仕事を手伝いたいのね? わかったわ。」


「いやです……」


僕と姉さん、揃って頭を下げる羽目になった。


母さんが優しい微笑みで場を落ち着かせる。


「はいはい、話があるから静かにしなさい。」


(……嫌な予感しかしない。)


絶対僕の話だ。確信しつつ、とぼけた顔で聞く。


「えー? 何の話?」


母さんがピクリと眉を動かし、鋭い視線を向けた。


「アーサー?」


名前だけ。


終 わ っ た 。


「……はい。」


しぶしぶ返事をする。


横でカトリーヌがニヤニヤしながら肘で小突く。


「ハハッ、ビビってんじゃねーか。」


父さんが静かに話を切り出した。


「みんなに話しておきたいことがある。」


カトリーヌが腕を組み、サラッと爆弾を投下する。


「実はな、アーサーには全属性の適性があるってわかった。」


……。


「えっ!?」


姉さん、フォークを落とす。


兄さん、「嘘でしょ……」と目を丸くする。


カレンとレナも息を飲み、その場が緊張に包まれた。


(やっぱり僕の話題か……)


カレンが眉をひそめる。


「……本当に全属性、全部持っているんですか?」


「そうだ。まさかの全部だ。」


カトリーヌの言葉に、カレンは静かに息を呑んだ。


兄さんも眉を寄せる。


「すごいけど……それって大丈夫なの?」


父さんが重々しく頷いた。


「ああ、だから家族と信頼できる者たちだけに話すことにした。外には決して漏らさないように。」


母さんが静かに僕の頭に手を伸ばす。


「大丈夫よ。」


細くしなやかな指先が、ゆっくりと髪を梳く。


その優しさに、自然と力が抜けた。


「私たちが守るわ。あなただけじゃない、家族みんなでね。」


母さんの瞳には、不安と決意が入り混じっていた。


——そして、場の空気をぶち壊したのは姉さんだった。


「ところで、あんた、そんな才能あるんだったら魔術学院に行くんでしょ?」


「行かないよ!」


即答。


父さんが意地悪そうに笑う。


「7歳だし、特別入学を考えてるんだがな?」


「えっ!? ちょっと待って!!」


焦る僕を見て、母さんが微笑む。


「ふふ、いい考えかも。」


カトリーヌ、大爆笑。


「ハハッ、そりゃ面白いな! ぜひやれよ!」


(くっ、そんなノリで決めるなよ!!)


焦る僕。何か理由を……何か……!!


その時、電撃のように閃く。


(これだ!!)


わざとらしく甘えた声で、ゆっくりと言った。


「ねぇカトリーヌ、まだ離れたくないよ……もっと一緒にいたいよぉ……ダメ…?」


カトリーヌ、固まる。


家族、沈黙。


次の瞬間——


「はぁ!? なんだその甘え方……っ! か、かわいすぎるだろバカがっ!!」


そう叫ぶなり、カトリーヌが俺をむぎゅっと抱き寄せた。


「ちょっ!? ぐえぇぇ!! 窒息するぅぅぅ!!!」


顔がカトリーヌの胸に押し付けられ、もがく僕。


家族、大爆笑。


母さん、クスクス笑い。


父さん、肩を揺らす。


(……まあ、この作戦が通じたなら、よしとするか……)


胸に埋もれながら、僕はそう思った。

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