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全属性使いの魔法使い

朝食後、リビングには穏やかな時間が流れていた。


「アーサー様、参りましょう。」


満面の笑みで声をかけてきたのはレナだ。


「今日はレナも来るの?」


「はい、今日は魔法を使う日ですよね?そのための補佐役です!」


レナが明るく答えた。


「カレンは?」


「あの方はお仕事を頑張っているんじゃないですか?」


さらっと他人事みたいに言うレナの様子に、思わずため息が漏れた。


「なんでそんな他人事みたいなの?」


「ええ!?そう見えますか?」


悪びれもせずにそう返され、何も言えなくなる。


庭に出ると、眩しい光の中にカトリーヌの姿があった。


彼女は堂々と立ち、腕を組んで僕を待ち構えている。太陽の光が赤い髪に反射して、どこか輝いて見えた。


「おっ、やっと来たな!」


大きな声で僕を迎えると、彼女は勢いよく手を振り上げる。


「さあ、やるぞ!」


庭に戻ると、カトリーヌが腰に手を当て、どこか得意げに立っていた。


眩しい日差しを受けて、その自信満々の態度がさらに目立つ。


「さて、今日は昨日言った通り、魔法適性を調べるぞ。」


胸の奥がズクンとした。正直、結果が怖い。


でも、どこかワクワクしている自分もいて複雑な気持ちになる。


カトリーヌがポケットから小さな宝石のようなものを取り出す。


「これが『エレメントストーン』だ。魔法適性を調べる道具でな、これを使えばお前の属性がわかる。」


隣にいたレナが目を輝かせ、前のめりになった。


「エレメントストーンですね!すごいです!」


その勢いにカトリーヌが少したじろぎながら、肩をすくめる。


「まあ、そうだな。ただ、横から話されると調子狂うが……とにかく説明するぞ。」


僕は「ほうほう、なるほど」と適当に相槌を打ちながら聞く。


どうやらこの道具は、触れると魔力を感知して、属性を示す模様が浮かび上がるらしい。


仕組みはよくわからないけど、確かに便利そうだ。


「じゃあ、さっそく使ってみるか。」


カトリーヌが僕に向かって言いかけたが、何か思いついたように顔を上げた。


「いや、最初にお前じゃなくて、レナに試してみようか?」


レナが勢いよく手を挙げた。


「わかりました!任せてください!」


そのやる気満々な様子に、僕は首を傾げる。


(……レナって、そもそも魔法使えたっけ?)


レナは手のひらでエレメントストーンを握りしめると、謎の気合いを入れ始めた。


「ぬおおおおおっ、こいっ!」


彼女の全力の気合いに、僕は口を開けたまま固まる。


気合いに比例してストーンが光るかと思いきや、何の反応もない。


レナが満面の笑みでカトリーヌを振り返った。


「どうですか!?反応ありましたか!?」


カトリーヌは眉を上げて、苦笑いしながら首を横に振る。


「ダメだな。」


「そ、そんなあああ……!」


レナは地面に手をついて崩れ落ちた。


その様子は、まるで世界が終わったかのようだ。


カトリーヌが口元を緩めながら言う。


「適性がないと、こうなる。まあ、落ち込むなよ。」


その光景を見て、僕は思わず呟いた。


「適性がないと、そんなに落ち込むものなの?」


レナの反応があまりに大げさすぎて、笑いをこらえるのが大変だった。


「よし、次はお前の番だな。」


カトリーヌがエレメントストーンをこちらに差し出す。


小さな宝石のようなアイテムが、太陽の光を受けて鈍く輝いていた。


差し出されたそれを受け取る僕の手は、ほんの少し震えていた。


「握ってみろ。」


カトリーヌの一言に、手のひらでエレメントストーンを包み込む。


冷たい感触が一瞬で手の中に広がったかと思うと、次の瞬間、じんわりと熱を帯びてきた。


「……茶色?」


カトリーヌがストーンを覗き込み、最初はただ首をかしげた。


……が、次の瞬間——


「はっ!? ちょっ、お前!!」


カトリーヌの顔が一瞬で変わった。驚愕、混乱、パニック。


まるで目の前でドラゴンが産卵する瞬間を目撃したみたいな表情で、後ずさった。


「え!? えっ!? いやいやいや、嘘だろ!? 何だこれ!? こんなの聞いたことねぇぞ!?」


「ちょ、なんでそんなに取り乱してんの!? てか、茶色ってそんなヤバいの!?!?」


「ヤバいとかのレベルじゃねぇええええええ!!!!!」


カトリーヌ、ガッと俺の襟を掴む。


「なぁ、お前……マジでやべえやつなんじゃねえのか……?」


「おい待て、なんでここで僕の人間性疑われてんの!?」


レナもストーンを覗き込み、顔を青ざめさせる。


「……これ、本当に、茶色……? なんか……ぐにゃってないですか?」


「は?」


ストーンを見下ろすと——


「……え、動いてる!?」


ストーンの表面に、茶色の波紋みたいな模様がじわりと広がっていた。まるで生き物みたいに。


「やべぇよ!こんなストーン、見たことねぇって!!!」


カトリーヌは頭を抱えてぐるぐる回る。


「おい、レナ! これ、どっかの本に載ってなかったか!? 『伝説の属性大百科』とか、そーいうやつ!!」


「そ、そんな本、知りません!!」


「じゃあ『100のヤバい属性』とか!!」


「そんなにヤバい属性いっぱいあったら、この世終わってます!!!」


「じゃあじゃあ、『もしかしたらヤバいかもしれない属性』とか!!」


「なんですかその微妙な本は!!!」


カトリーヌの混乱が止まらない。僕は逆に怖くなってきた。


「ちょ、落ち着いて!! これ、ただの診断なんでしょ!? 変な色が出るくらいでそんなに騒がないでよ!」


「バカ野郎!!!!」


「ぎゃっ!」


突然、肩をガッと掴まれ、鬼の形相でカトリーヌが俺に迫る。


「いいか!? エレメントストーンってのはな!! そいつの魔法属性を映し出すんだぞ!? でもな!!!」


指差したストーンが、もにょもにょと波打つ。


「こいつ!! 映してるっていうか……ストーン自体が変質してんだよ!!!」


「…………。」


「これ、もう属性診断とかのレベルじゃねぇ!!!!!!」


カトリーヌの叫びが森に響く。


「お前!!! どんな魔法持ってんだよ!!! てか、お前の属性ってなんなんだよ!!!!!」


「も、もしかして……希少属性……?」


レナが震えながらボソッと呟く。


その一言が刺さる。心の中で、思わず呟いた。


(……転生してるから? それとも、女神様が言ってた“特別”って、これのこと?)


カトリーヌはストーンをしばらく睨みつけたまま動かなかった。


沈黙が続く。


僕は思わずゴクリと唾を飲み込んだ。


「…………。」


やがて、カトリーヌがゆっくりと肩をすくめる。


「まあ、わからねえもんは仕方ねえ。」


(おっ、思ったより落ち着いてる?)


ホッとした瞬間——


「——で、お前、他に属性は何が使えるんだ?」


ズバッと核心を突かれる。


「えっ?」


僕は思わず顔を引きつらせた。


(ヤバい、勘が鋭すぎる……)


「えっと……火、風、地くらい?」


適当に減らして言ってみる。


「…………。」


カトリーヌのジト目が突き刺さる。


「嘘ついてねえだろうな?」


「……つ、ついてないよ?」


「ふーーーん……」


ジト目がさらに鋭くなる。まるで嘘を見抜くスキルでも持ってるみたいだ。


(やばっ、これ以上隠してもバレそう……!!)


俺は観念し、渋々口を開く。


「……火、水、地、風、無、です……。」


——その瞬間。


「……は?」


カトリーヌが硬直した。


一瞬、時が止まったように見えた。


「……え?」


レナも目をパチクリさせている。


「ちょっ、お前、今……なんつった?」


カトリーヌの声が、ワントーン低くなる。


「いや、だから……火、水、地、風、無……」


「…………。」


カトリーヌの顔が固まる。


「…………。」


「…………。」


次の瞬間——


「フゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーー!!!!?????」


突然、カトリーヌが深呼吸とともに顔を覆い、全身を震わせた。


「え、ええ!? なんでそんなに取り乱してんの!?」


「取り乱してねぇわ!!!!!」


「いやいや、めちゃくちゃ取り乱してるじゃん!!!」


「当たり前だろバカァ!!!!」


カトリーヌ、顔を上げる。


その表情は、驚愕、混乱、絶望、そして諦め。


まるで今、世界の終焉を見届けたかのような顔だった。


「ちょ、待って待って待って待って……」


「え、なんでそんなに焦ってんの?」


「逆にお前、焦らなすぎだろ!!!!!」


カトリーヌが俺の肩をガシィィィッと掴む。


「お前……お前……やべぇよ……!!!」


「は???」


「火、水、地、風、無って……お前、それもう、ほぼ全属性持ちってことじゃねぇか!!!!」


「え、まあ……うん?」


「いや“まあ”じゃねぇよ!?!?!?」


カトリーヌ、全力で頭を抱える。


驚愕する彼女を横目に、僕はさらに焦る。


(……光と闇は言わないほうがいいのかな。)


そんな張り詰めた空気をぶち壊したのは、再びレナだった。


「アーサー様、すごいです!! そんなにたくさん使えるなんて!!」


満面の笑みで褒めちぎるレナ。その無邪気な声が場を和ませたけど、僕の心は穏やかじゃない。


「……すごい、か。」


カトリーヌが呆れたように首を振り、大きくため息をつく。


その仕草には、驚きや感嘆というよりも、厄介事を抱え込んだような疲労感がにじんでいた。


適性検査が終わり、僕たちは再び庭の中央に戻る。


カトリーヌは腰に手を当てて、僕に視線を向けながらぼそりと呟いた。


「お前の母親から地とか風が得意って聞いてたんだが……全部使えるとなると、正直、何を教えりゃいいか分からねえな。」


少し困ったように頭を掻く。


すると横から、レナが手を挙げた。


「基礎から始めればいいんじゃないですか?」


期待に満ちた声で言う彼女に、カトリーヌは軽く鼻を鳴らして返した。


「基礎だ?魔法ってのは体で覚えるもんだろ。考える暇があるなら、やって学べ。」


その一言に、昨日の膨大な座学を思い出した僕は思わずぼそりと呟いた。


「……昨日あれだけ勉強させといて、それ言う?」


小さな声だったけれど、カトリーヌは聞き逃さなかったらしい。


「何か言ったか?」


鋭い視線に、僕は慌てて口を閉じた。


カトリーヌは一瞬目を細めてから、面倒くさそうに手を振った。


「とりあえず何でもいいから、使える魔法を見せてみろ。お前がどれだけやれるか見ないと話にならねえ。」


「はいはい……。」


仕方なく肩をすくめて、彼女の指示に従う。


まず小さな火の玉を浮かべ、次に風魔法で草を切る。


そのあと土魔法でコップを作り、最後に水魔法でバシャッと花壇のほうへ水を飛ばしたつもりだったが…


運悪くその水がレナに直撃した。


「きゃっ、冷たいです!髪が濡れると広がるんですから!」


全身を濡らしたレナがプリプリしながら僕を睨む。


「あっ、ごめん……。」


慌てて謝るけど、レナの怒りは収まりそうにない。


そんな様子を見てカトリーヌが腕を組み、ニヤリと笑う。


「お前、練習してたんだろう。」


「まあ……。」


曖昧に答えると、彼女は面倒くさそうに息を吐いた。


「わかった。お前ができることはなんとなく見えた。アタシは火しか使えねえから、他の属性の教え方は考えとく。」


彼女がそう締めくくると、何か思いついたように指を鳴らした。


「じゃあ、次は身体強化だ!」


「いいか、身体強化ってのは魔法使いの基礎中の基礎だ。これができなきゃ、半人前どころか話にならねえぞ。」


強調するように指を突き出してきた。その勢いに、思わず背筋が伸びる。


「筋力や速度を一時的に上げられる。使いこなせるようになるには、練習あるのみだがな。」


(……身体強化か。やったことないけど、確かに便利そうだな。)


そんなことを考えていると、カトリーヌが指を鳴らし、僕を指差した。


「よし、やってみろ。」


「え?今?」


「そうだ、今だ。」


いきなりの無茶振りに、思わず言い返す。


「いや、説明聞いただけでできるわけないでしょ!」


「じゃあお前、身体強化なしでこのアタシと戦う気か?」


「えっ、戦うの?」


「そうだ。やらなきゃ意味がねえ。」


「……じゃあ、その辺でストレッチでもしててよ。」


僕がしぶしぶ言うと、カトリーヌが爆笑した。


「ハハハハ!お前、面白いこと言うな!」


彼女が腕を振り上げる。


「なら、こうしようか。山まで走るか?遠いぞ~!」


「……なんでそんな選択肢しかないんだよ。」


戦うか、走るかの地獄の二択。僕は覚悟を決め、身体強化を試すことにした。


◆◆◆


手のひらに力を込め、足を踏みしめる。


……が、何も起こらない。


「……無理。」


「ったく、見てろ。」


カトリーヌが腕を組み、一瞬だけ体が淡く光った。


ゴッ!


地面が軽く震える。


「こうやるんだよ。簡単だろ?」


「いや、それのどこが簡単なんだよ!」


僕が呆れると、カトリーヌが近づいてきた。


「しょうがねえな。ほら、力を抜け。」


彼女の胸が頭に触れた瞬間――


ズシッ


「お、重い……。」


「なんだその感想。つまむぞ。」


カトリーヌが呆れながら、少し手を動かす。


「魔力を流してやる。よく感じ取れ。それを掴むんだ。」


肩からじわりと流れ込む感覚が、全身を駆け巡る。


(これが身体強化……!)


魔力が身体の隅々に行き渡る――その時。


バチン!


突如、空気がビリビリと震えた。


「……ん?」


カトリーヌが眉をひそめた瞬間――


ドンッ!


衝撃が爆発する。


「うおっ!」


強烈な茶色の光が僕の体から溢れ出し、周囲の草が一気になぎ倒される。


ゴォォォッ!!


大気が揺れ、風が逆巻く。


「アーサー!!」


カトリーヌの声が聞こえた。


次の瞬間――


彼女の体が吹っ飛んだ。


「うわぁぁぁぁぁっ!?!?」


ドサッ!


思わず素っ頓狂な声を上げながら、地面をごろごろと転がる。


「いっ……てぇぇぇぇ!! 」


彼女の服の裾が土にまみれ、深紅の瞳が驚愕に見開かれている。


僕はその場で固まっていた。


(今の……僕なのか……?)


足元に目を落とす。


不安が、消えた。


でも、その代わりに――


僕の中で渦巻く、得体の知れない感覚が、背筋を冷たくさせた。


「……おい、アーサー。」


カトリーヌが立ち上がる。


その顔はさっきまでの余裕たっぷりの表情じゃない。


慎重で、鋭い目つき。


「……な、なんだ今の……!? ちょっ、お前、何やらかした!?」


「つーか……吹っ飛んだの、アタシか!?!?!?」


カトリーヌは土まみれになった服をバサバサ払いながら、呆然と僕を見つめる。


「マジで、今の、お前がやったのか……!?」


「わ、わからない……。」


嘘じゃない。僕自身、何が起きたのか理解できなかった。


カトリーヌはじっと僕を見つめた。


何かを言いかけて――飲み込む。


「とにかく……しばらく、この力の扱いを考えないとな。」


その言葉に、僕はただ頷くしかなかった。


横でレナが恐る恐る口を開く。


「アーサー様……今の、すごかったです……!」


その瞳には純粋な感嘆が浮かんでいる。


でも、僕の胸にあるのは――


複雑な感情だけだった。





***カトリーヌの心境***


「ありえねえ……。」思わず呟いてしまった。


まるで熊のような猛々しい力。


それに加え、地面が震えるほどの魔力……。


普通の身体強化じゃねえ。こんなことができるやつ、あたしの知る限りいない。


「こりゃあ、危険かもしれないね……。」


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