表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/70

ポテト革命と収穫祭の香り

食堂の入り口に近づくと、賑やかな笑い声が聞こえてきた。


「ヴィヴィアンの食堂」は活気に満ちている。


「元気な場所だね。」


僕がつぶやくと、リリーがにこにこしながら頷いた。


「はい! この村の活気が詰まった場所ですから!」


扉を開けると、温かな香りと賑やかな声が迎えてくれた。


テーブルには笑顔が溢れ、ヴィヴィアンが鍋を振りながら指示を飛ばしている。


ティナは客席を回り、僕たちに気づくと明るく駆け寄ってきた。


「アーサー様! カレンさんも! ようこそ!」


「お疲れ様、ティナ。すごく賑やかだね。」


僕が言うと、ティナは照れたように笑う。


「ありがとうございます。今日は特に忙しくて……お席を用意してますので、こちらへどうぞ!」


リリーが感心して言う。


「ティナさん、すごいですね。」


ティナが席に案内して、僕たちが座ると、ティナが嬉しそうに言った。


「実は、アーサー様が考案されたポップコーンが大人気で、昨日も売り切れちゃったんです!」


「美味しくて売れますよ!アーサー様!!」


リリーも嬉しそうに言った。


周囲の村人たちからも賛同の声が上がり、食堂がさらに賑やかになる。


「いや、ただの思いつきだったんだけどね。」


僕は照れくさく笑った。


ティナが嬉しそうに言った。


「アーサー様のおかげで売り上げが倍増してるんです。本当に感謝しかありません!」


(喜んでくれてるならいっか。)


その後、ティナが焼きたてのパンや料理を運んできて、僕たちは満足げに食事を楽しんだ。


「ヴィヴィアンさんの料理、本当にすごいよね。」


僕が言うと、リリーも同意した。


「この味が出せるのは相当な腕ですよ。」


しばらくして、ティナが真剣な表情で言った。


「実は、収穫祭に向けて、うちの食堂でも何か特別なメニューを用意したいんです。でも、まだ良い案が浮かばなくて……」


「うーん、何かあるかなあ。」僕は答え、リリーがすぐにメモを準備した。


ティナの提案に僕は少し考え込み、厨房の奥に積まれた食材が目に入り、閃いた。


「収穫祭の雰囲気に合うものを考えてみよう。」


ヴィヴィアンが厨房から近づき、アイデアを急かした。


「本当に思いついたのかい!? さあ、こっちへおいで!」


(うわっ、何だよ急に!!)


「ヴィヴィアンさん、アーサー様は まだお食事の最中 です。急かすのは少々、ご無礼かと存じます。」


その言葉に、ヴィヴィアンはハッと固まる。


「あ、ああ……そうだった。ごめんなさい、カレンさん。」


珍しく恐縮した様子で頭を下げるヴィヴィアン。


「厨房は今、お母さんが忙しく使ってるでしょ!」


ティナが母親をフォローするように言い添える。


「お父さんも仕込みでスペースを使ってるし……だから、集会場のキッチンを借りた方がいいかも。」


「それなら邪魔にならないし、いいかもね。」


僕が頷くと、リリーがすかさず提案した。


「集会場の鍵なら、私が持ってます! すぐに準備できますよ!」


「おお、さすがリリーだね。」


僕が軽く笑うと、リリーは誇らしげに胸を張った。


ヴィヴィアンはため息をつきつつも、仕事を思い出したように再び厨房の方へ足を向けた。


「ティナ、あとはあんたがアーサー様たちを案内してちょうだい! 私は仕事に戻らないと、ほら、次の注文が――ああもう、フライパン焦がしてる!!」


「うん、任せて!」


その後、集会場のキッチンでアイデアを形にしようと準備を進めることになった。


リリーが鍵を開け、広い調理スペースに感心しながら、「これなら本格的にできそうですね。」と言った。


ティナが慎重に答えた。


「みんなが笑顔になれるものがいいです。」


「なら、ちょっと考えたものがあるよ。」


僕が言うと、リリーとカレンが反応し、「本当に?」と目を輝かせた。


僕は袋をテーブルに置く。


カレンに買ってもらってきたじゃがいもを取り出した。


「じゃがいも…ですか?」ティナが首をかしげる。


「うん、これでちょっとしたもの作ろうと思って。」


じゃがいもを手の中で転がしながら、自然と笑みがこぼれる。


料理って、こういう瞬間が楽しいんだよな。


「何作るんですか?」


リリーが興味津々でペンを止める。


「まあ、ちょっとした工夫で面白いものができると思う。」


肩をすくめて軽く笑うと、リリーがメモを取り始めた。


「工夫で? すごく気になります!」


その時、カレンが静かに口を開く。


「アーサー様、この量のじゃがいもで、何を…?」


「後でのお楽しみ。」


ニッと笑って答える。


ティナが手を挙げ、目を輝かせて言う。


「それで、私は何をお手伝いすればいいですか?」


「油を準備して。かなり多めに。」


「油…多め?」


ティナが驚きの表情を浮かべる。


「大きな鍋に、たっぷりと。」言いながら、僕は鍋を準備する。


「こんなに使ったことないです…」


ティナが不安げに呟く。


「大丈夫だよ、信じて。」


ティナは迷った顔をしてから小さく頷くが、まだ不安そうだ。


リリーはペンを走らせながら目を輝かせている。


「新しい料理、村で広まったら大人気になりますよね!」


「油だけで料理って……びっくりです。」


ティナが鍋を覗き込みながら目を丸くする。


「ティナ、普段どうやって料理してるの? まさか、生で食べる派?」


「えっ!生で…!? そんなことないですよ!」


ティナが手を振る。


「普通に煮たり焼いたり…」


「煮ると焼くだけで満足してるの? 僕が革命を起こすから見ててよ。」


「アーサーが革命を…!?」


ティナが驚いて目を見開く。


「いくよ。少しずつ、丁寧にね。」


鍋からジュワッと音が立ち、油が軽くはねた。


「きゃっ!油がはねてびっくりしました!」


ティナが後ずさり、カレンがサッと避けた。


「大丈夫です。これくらいなら問題ありません。」


「何、今の動き…速すぎて怖いんだけど?」


カレンが冷静に布巾を畳みながら、あっさり言う。


「訓練の賜物です。」


「油避けの訓練なんて、カレンくらいだよ。」


「馬鹿にしてますよね?」


「いいえ、ただの事実です。」


リリーだけはメモを取る手を止めず、目を輝かせながら言った。


「油を熱してから、丁寧に揚げる、と。」


揚げながら、僕は菜箸でじゃがいもをひっくり返しつつ言う。


「リリー、それ、メモってるの?後でレシピ本にするつもり?」


「ええ、もちろん!これから“アーサーの革命日記”って本出す予定なんです。」


リリーは誇らしげにノートを抱えた。


「はぁ?何勝手なことしてんの?」


「勝手とは失礼です!これは私の夢が詰まった本なんです!」


「じゃあ、その本売るつもりはないんだよね?」


「もちろんです!あっ…いえ…ちょっとだけ…」


「売ってたら、その本油で揚げるからね。」


僕はポテトをつまんでリリーにニヤリ。


「えぇっ!?本まで揚げちゃうんですか!?その本、まだ書き終わってないんですから!」


「でも、二度と書かなくてよくなるでしょ。」


じゃがいもの表面が黄金色に変わり、香ばしい匂いが広がった。


「そろそろいいかな。」


揚げたてを取り出し、余分な油を切る。


「うわあ、すごく美味しそう!」


ティナが興奮気味に声を上げる。


「まだだよ、ここからが仕上げ。」


僕は塩を振りかけて、完成させた。


「これで完成だ!」


黄金色に輝くポテトを皿に盛り、笑顔で掲げる。


リリーがペンを置き、感嘆の声を漏らした。


「これが……完成形ですか! 素晴らしいです!」


「さあ、あとはみんなで楽しむだけだね。」


カレンがポテトを皿に盛り、テーブルの中央に置く。みんなの視線が自然と僕に集まる。


「遠慮せずにどうぞ。」


僕が軽く促すと、リリーが一つ摘まんで口に運んだ瞬間、目を見開いた。


「な、なんですかこれ! 外はカリッ、中はほくほくで……!」


ティナも恐る恐る一つ手に取り、食べる。


「本当だ! こんなの初めて食べました!」


次々と手が伸びて、カレンもゆっくり一つ口にする。目を見開き、口元に手を添えて言った。


「……予想以上ですね。」


僕は内心で満足げに微笑む。


香ばしさと塩気が絶妙で、口の中で昔のあの味が広がった。ああ、やっぱりこれだ。


リリーとティナが夢中で食べ続け、カレンも手を伸ばして一つ摘まんだ。


「もうなくなりそうですよ!」


ティナが慌てた様子で声を上げるが、手は止まらない。


あっという間に皿は空っぽになり、リリーがぽつりとつぶやいた。


「こんな幸せな味、村の人たちにも食べてもらいたいですね。」


ティナも深く頷き、目を輝かせる。


「きっと、喜びますよ!」


僕はその言葉を聞きながら心の中で笑った。


(みんながこんな顔をしてくれるなら、やってみる価値あったな。)


ティナがふと顔を上げて提案する。


「収穫祭のメニューや、うちの食堂の新しい料理にしたらどうでしょう? きっとお客様に大人気になりますよ!」


リリーも即反応する。


「それ、絶対いいですね! 村全体で話題になること間違いなしです!」


「これはなんて名前なんですか?」


「ポテトだよ。」


カレンは静かに口を開いた。


「リリーさん、少しお待ちください。アーサー様が考案されたものですから、簡単に商品化するのは慎重にした方がいいかと。」


「あと、それが良いことかどうか、考えたほうがよろしいかもしれません。」


リリーがハッとした表情で僕を見た。


「確かに……私たちだけで勝手に決めるのは……。」


(レシピの権利とか、よくわからないけど、カレンが言う通り、話しとかなきゃ後で面倒だよな。)


僕は軽く肩をすくめて言った。


「父さんと相談してみてよ。それからでも遅くないでしょ。」


カレンがフォローする。


「アーサー様に感謝いたしてください。ただ、リリーさんとティナさんが熱心でいらっしゃるのも理解できます。」


リリーとティナが安堵した様子で頷く。ティナがふと思いついたように言う。


「でも、アーサー様って、本当に博識ですよね。こんな料理を思いつけるなんて……。」


リリーも鋭い視線で言った。


「そうですよね! 7歳でこんな発想をするなんて、ちょっと普通じゃないですよ!」


カレンも考え込むように頷く。


「確かに、非常に広い知識をお持ちですね。」


(やばい、突っ込まれた……どうしよう!?)


口が勝手に動いてしまう。


「いや、書庫で読んだ本にちょっと書いてあったのを思い出してさ。それを参考にしただけだよ。」


カレンが首をかしげる。


「クリーヴランド家の書庫にそんな本が……ありましたっけ?」


ティナとリリーが納得した様子で頷き、ティナが言う。


「そうなんですね! でも、それでもすごい発想力だと思います!」


リリーも続く。


「本当に! また新しいアイデアがあったら教えてくださいね!」


話題を変えようと必死だった。


「うん、まあ、また思いついたらね。それより、収穫祭って本当に盛り上がりそうだよね。」


話題が移ると場の雰囲気も和んで、心の中でため息をつく。


(なんとか切り抜けた……危なかったな。)


その後、食事と会話がひと段落し、ティナが椅子を引いて立ち上がる。


「今日は本当にありがとうございました、アーサー様! とっても素敵な時間でした!」


リリーも立ち上がりながら言う。


「アーサー様、後日ぜひ商品化について相談させてください!」


僕は軽く笑って言葉を返す。


「父さんに話してみたら?」


カレンが立ち上がり、穏やかに帰り支度を促す。


「アーサー様、そろそろお屋敷に戻られますか?」


「そうだね。帰ろうか。」


穏やかに微笑むリリーとティナに手を振りながら、集会場を後にする。


この時はまだ——ポテトのレシピが、火種になるなんて、夢にも思わなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ