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負けたら"すべてを失う"ゲーム

――この勝負、ただの遊びじゃない。


負けたら、すべてを失う。


「さあ、決着をつけるか。」


フードの男が静かに言う。


胸の奥がざわつく。嫌な汗が手のひらに滲む。


(こいつ……何か仕掛けてる?)


フードの男の手札は三枚。こっちは四枚。そのうち一枚はジョーカー。


(何とかして、引かせないと――)


「ふーん、僕は一番右にババを置いてあるよ。」


「見えてるなら、これを避けるはずだよね?」


相手の表情は微動だにしない。


「口の回る小僧だな。」


「お前に言われるまでもない。」


指先が汗ばむ。ヤバい。こっちの意図を読まれてる?


なら――


僕は、ゆっくりカードを入れ替えるフリをした。


「じゃあ、真ん中に移しちゃおうかなあ。」


「無駄だ。右にあるジョーカーのことだろう?」


一瞬、心臓が跳ねる。


(な、なんでこいつ……!?)


次の瞬間、フードの男が手を伸ばした。


僕は、すり替えのタイミングを狙う――


でも。


(……え? なんで止まった?)


相手の手が、わずかに軌道を変えた。


そして、迷いなくジョーカーを避ける。


「どうした?見えていると言っているぞ?」


フードの男がペアを捨てる。


(な……んだ今の動き!?)


まるで、僕の手の中が"見えていた"かのような――


ぞくり、と背筋が冷える。


(そんな……バカな。)


僕は男からカードを引きペアを作って捨てた。


僕は二枚。やつは一枚。


額から汗が滴る。負ける。次に引かれたら終わる。


テーブルにカードを伏せた。


「……まあいいか。」


僕は肩を落とし、虚ろな声で言った。


「もう僕の負けかもなあ。」


フードの男が冷たく笑う。


「……そうか、ようやく諦めたか。」


指先がカードに触れた、その瞬間――


(だめだ、引かせなきゃ終わる――!!)


僕は、ゆっくりと口角を上げた。


「――いや、違うね。」


フードの男の手が止まる。


「勝負はまだ終わってないよ。ほら、見てみなよ。」


相手は、余裕の笑みを崩さずに言った。


「知っているぞ?」


「これは――ジョーカーだろう?」


「お前が最後に動かした理由も、よくわかる。」


心臓が跳ねる。そんなはずは――


「引くわけないだろう。」


フードの男は無造作に腕を引いた。


(なんで……!?)


まるで、こっちのすべてを見透かしているかのような。


僕の策は、完璧だったはずなのに。


「……悪くない策だった。小僧にしてはな。」


フードの男が、指をテーブルにトントンと叩く。


「だが、これ以上遊ぶつもりはない。」


「ジョーカーを引いてやる。そのかわり――」


フードの男が、にたりと笑う。


「お前の世界は、すべて"赤"に染まるぞ。」


次の瞬間、世界が弾けた。


どこもかしこも、"赤"。


空が赤い。大地が赤い。目の前にいる人間も、赤い。


ザァ……ザァ……


(……なに、これ……この音……)


ざわめき、歓声、歌。


遠くで響く、どこか懐かしい旋律。


(これ……収穫祭……?)


祭りの灯りが揺れる。リボンが風に舞う。


けど、違う。何かが違う。


全部が赤い。


ふと、自分の手を見る。


滴る赤。


ぬるりとした感触。


鼻をつく、鉄の匂い。


「――血?」


視界が歪む。意識が落ちていく。


そして。


ふと聞こえた、誰かの声。


「なあ……昨日のこと、ちゃんと覚えてるか?」


村の広場。祭りの飾りが風に揺れる。


「収穫祭、だろ?」


「いや、そうじゃなくて……楽しかったはずなのに、なんか変だ。」


「ピアノ……アーサー様が……」


「そうだ、みんな泣いてた。でも、どんな曲だった?」


「……おかしいよな。」


広場にはもう、人々の笑い声はなかった。


ただ、ひゅうっと吹く風だけが、昨日と変わらず通り抜けていった——。

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