皇太子視点 いけ好かない元剣聖を邪魔に思いました
俺はキャロラインを学園時代に食事に誘ったのを振られて以来、キャロラインを誘って受けてもらえたことは無かった。
皇太子の俺からの婚約の申込みは、返事さえもらえなかったのだ。
一応大陸に名だたる帝国の皇太子からの申込みなのに!
断られたから、無視されたから、余計に気になるというのもあるのかもしれない。
今回も来てくれるかどうかとても心配していたのだ。
それがアロイスが言うには招待を受けてくれたというのだ。
俺は万歳三唱したくなった。
仕事を怒涛のごとく仕上げると、ややこしいのは全て伯父である皇帝に丸投げして、俺は喜び勇んでバーミリオン城に向かったのだ。
バーミリオン城は子供の頃、父に連れられて一度行ったことがある。とても古風な城だったが、そんなのはどうでも良かった。
久しぶりにキャロラインに会えるのだ。16歳のキャロラインも可愛いと思ったが、もう20だ。さぞ大人びた美人になっているだろう。
キャロラインが着く予定の1日前に着いて、用意も万端整えたのだ。
俺はウキウキした気分でキャロラインの飛行船を迎えたのだ。
「えっ」
キャロラインは俺を見て、目が点になっていた。
何故、点になるのか? 招待状は俺から出したはずだ。
少しいぶかしんだが、やはり皇太子自ら出迎えに来るとは思ってもいなかったのだろうか?
俺が手を差し出して、キャロラインをエスコートしようとした時だ。
なんとキャロラインは俺の手をとらずに後ろから歩いてきたさえない男の手を取ったのだ。
男は傭兵風情で、安物の服を着ていた。
はああああ! 皇太子の俺よりもそんな薄汚れたやつの手を取るのか!
俺は思わず叫びそうになった。
いやいや、落ち着け俺。これは従者か誰かだ。
ここは俺が一言脅せばいなくなるだろう
「その彼は誰かな? キャロライン嬢」
俺がガン見してその男に退け! と心の中で威圧をかけつつ聞いたのだ。
「彼は私の好きな人、いえ、婚約者なんです」
ガーーーーーン
絶対に盛大な失望の鐘の音が響いたはずだ。
キャロラインに婚約者がいただと。そんな話は聞いていないぞ。
俺は後ろのアロイスを睨みつけた。
アロイスは必死に首を振っている。
「「「ええええ!」」」
しかし、キャロラインの後ろで傭兵バスターズの面々も驚いた顔をしている。
なるほど! 即席で俺から避けるために彼氏を作ったわけだな。
その手にはのらない。
俺は自分を取り戻した。
「殿下。彼が我が『傭兵バスターズ』のエースのセドリック・バースですわ」
キャロラインは紹介してくれた。
教会の元剣聖か。前剣聖の剣の腕前は確かだったと聞いている
性格も最悪だと聞いていたが……
こいつはその後継者だったが、1年かそこらで剣聖を首になったと聞いていた。
まあ、平民出身の二代目は剣聖に取り入るのがうまいだけで、剣聖を引き継げたのだろう。
能力が剣聖と言うには低すぎたので首になったに違いない。
「我が別荘へようこそ、セドリック」
俺はその男に手を差し出してやった。
帝国の皇太子殿下の手を取れるのだ。
こいつも感激して俺の言うことは聞くようになるだろう。
ただ、男の手は剣だこで固くなっていた。
あれっ? こいつは少しは出来るかもしれない。
まあ、しかし、我が近衛の精鋭に比べれば大したことはないだろう。
「私はあまり記憶が良くなくて、バースというような貴族家がこの大陸にあったという記憶がないのだが」
元剣聖に取り敢えず、嫌味のジャブをうってみた。
「殿下。我が傭兵団に身分は関係ないですわ。力が全てですから。彼の能力はあなたの後ろに付いているお飾りの近衛10人分以上の実力がありますわ」
なんとその言葉はキャロラインの怒りをかってしまったらしい。
これはまずい。
「何だと」
「生意気な」
途端に後ろの近衛連中が文句を言っているが、俺は視線で黙れと言ったのに、
「殿下、その後ろの元剣聖と是非とも勝負させて下さい」
俺の意向がわからない近衛の隊長が余計なことを言ってくれた。
「良いですわよ。我が傭兵バスターズのエースが帝国の近衛風情に負けるわけはありませんから」
キャロラインが更に挑発してくれた。
俺は頭を抱えたくなった。
いや、別に剣の腕前など、どうでも良いのだ。
俺はキャロラインと少しでもお近づきになれればそれでよい。
「キャロライン嬢。何もそちらの男に模擬戦などさせることはなかろう。私の近衛騎士は我が国の国中から騎士志望の中でも有望なものを集めているのだ。負けることはないと思うが」
俺は思わず言ってしまった。
「あああら、殿下。負けるのが怖いのですか」
キャロラインが更に言ってくれた。
そこまで言われたらやらないわわけには行かないではないか。
「キャロライン嬢。取り敢えず、城に案内しよう」
俺がそう言って再度手を差し出してもキャロラインは明後日の方を見ているんだが。
「キャロライン嬢。聞いているのか?」
俺が再度聞くと。
「申し訳ありません。皇太子殿下。昔を思い出していたものですから」
「昔と言えば、学園時代に食事に誘ってこっぴどく振られたことがあったな。やっとキャロライン嬢と食事ができるかと思うと嬉しいよ」
俺が昔を懐かしむと、
「疲れているだろう。模擬戦は明日にでもするか」
俺は忘れようと思ったのだ。
「こちらはいつでも出来ますわ。そうよね。セド」
「全然大丈夫だ」
何故、ここで我が国の精鋭の騎士である近衛と底辺の傭兵風情と模擬戦をさせなければならないのだ。
キャロラインは俺の差し出した手を無視してその元剣聖の腕にもたれかかっているんだが……何だこれは!
俺は仕方無しに、先を歩いた。
キャロラインが嬉しそうに元剣聖にエスコートされている。
何なのだこれは!
まあ、その剣聖の表情が嫌そうに歪んでいるからまだ良しとしたが……俺はだんだんムカムカしてきた。
訓練場に着くとなんとキャロラインは自分の真っ赤なハンカチを取り出すと元剣聖の腕に巻いてくれたのだ。
ちょっと待て!
それって自分のために決闘してくれる人の腕にハンカチを巻きつけるって言うあれで、婚約者とか恋人が喜んでやるやつではないのか?
その上、儀礼上だとは思うが、俺に見せつけるように元剣聖のほっぺにキスをしてくれたのだ。
俺は唖然とした。
キャロラインが男に対してキスするのを始めてみた。
俺は何しにここにいるのだ。
「エルキント! 絶対にあのいけ好かない男を地面に這いつくばらせろ」
俺は部下に命じていた。
「お任せ下さい」
エルキントははっきり言ってくれた。
そう、こいつは有言実行なのだ。
ここで、あのエセ剣聖を地面に這いつくばらせてくれ!
俺はそれを期待した。
そう、最初は圧倒的に優勢だったのだ。
しかし、剣聖の小手への一撃の前にエルキント倒れ込んでしまったのだ。
「嘘?」
俺達は目が点になってしまった。
信じられなかった。
エルキントは帝国の騎士の中でも5本の指に入るはずだった。
それがあっさりやられてしまったのだ。
「凄い、セド、圧勝じゃない」
キャロラインは喜んで元剣聖に抱きついてくれたのだ。
俺はプッツン切れてその後何人もの腕自慢に勝負させたが、一回も勝てなかった。
「くそくそくそくそ!」
俺は早速騎士団長を呼び出して一からの鍛え直しを命じようと心に決めたのだ。
ここまで読んで頂いて有難うございます。
続きが気になる方はブックマーク、広告の下の評価☆☆☆☆☆を★★★★★して頂けたら嬉しいです(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾
私の人気作品『【電子書籍化決定】王子に婚約破棄されたので、義理の兄が激怒してこの国を滅ぼすと叫び出したんだけど……』
8月26日 コミックシーモアより先行配信です。
2万字の書下ろしを追加して、3千字超のssシーモア特典付きです。
おだやか先生の素晴らしい表紙絵やリンクは下記10センチ下をご覧ください。
私の初書籍も載せています。






