剣聖は近衛騎士を叩き伏せました
「えっ、本当に模擬戦をやるのか?」
セドは呆れて私を見た。
「リゾート地に来た早々模擬戦させられるって何だよ」
ブツブツ文句を言っている。
「キャロライン嬢。何もそちらの男に模擬戦などさせることはなかろう。私の近衛騎士は我が国の国中から騎士志望の中でも有望なものを集めているのだ。負けることはないと思うが」
皇太子がなにか言ってくれているけれど、近衛騎士など、傭兵団に比べれば、大した戦を経験しているわけではない。
というか、セドは気に食わないところも多々あるけれど、私の白馬の王子様なのだ。負けるわけはない。
「あああら、殿下。負けるのが怖いのですか」
私は言ってやったのだ。
「殿下、そこまで言われて引き下がるわけにはいきません」
皇太子の護衛隊長と思しき男が身を乗り出してきた。
「ああら、まさか、皇太子殿下の近衛騎士が傭兵なんかに負けるわけはないですわよね」
私は嫌味を言ってやったのだ。
「まあ、キャロライン嬢がそこまで言われるならばやってもいいが」
不承不承皇太子が頷いた。
「まあ、帝国の近衛騎士などセドの敵ではありませんわ」
平然と私は言ってやったのだ。
そう、私の白馬の騎士様が帝国の騎士なんかに負けるわけないのだ。
私は皆が剣士も『傭兵バスターズ』にいるって言うから、周りにめぼしい剣士がいないか色々物色していたのだ。
そうしたら教会で剣聖を首になった男がいるのを知ったのだ。
教会の剣聖なんて大したことはないとは思いはした。
まあ、しかし、元剣聖といえば飾りにはなると思ったのだ。
しかも、この剣聖は馬鹿だった。
私達がグルだとも知らずに勝負に乗ってくれたのだ。
私の体をかけると言えばいやらしい笑みを浮かべて喜んで乗ってきたのだ。
本当に男どもは馬鹿だ。まあ、気に食わなければ燃やしてやるけれど……
そして、私がストレートフラッシュを出した時のセドのアホ面はいまだに思い出しても笑えた。
でも、私の前に聖騎士の鎧を試着して現れた彼を見て、私は固まってしまったのだ。
そこにいたのは、私が夢にまで見た白馬の騎士様だったのだ。
私が子供の頃、襲われた時だ。
馬に乗った彼は一騎で現れたのだ。
「たった一騎だ。やってしまえ」
盗賊たちは剣を抜くと騎士に斬り掛かった。
白馬の騎士は馬に乗った盗賊たちの剣を避けるやいなや、次々と斬り伏せていったのだ。
その剣技は見ていてもとてもきれいなものだった。
私は攫われようとしているにも関わらず、思わずその剣技に見惚れてしまったのだ。
そして、最後に私を人質にして叫ぶ盗賊の親分の腕を斬り落としてくれたのだ。
吹き出る血潮の中でショックで気を失った私をお姫様抱っこしてくれた騎士の腕の中はとても暖かかった。
「キャロライン嬢。聞いているのか?」
いけない。つい、昔を思い出していた。
「申し訳ありません。皇太子殿下。昔を思い出していたものですから」
私が正直に言うと、
「昔と言えば、学園時代に食事に誘ってこっぴどく振られたことがあったな。やっとキャロライン嬢と食事ができるかと思うと嬉しいよ」
皇太子がなんか言ってくれるが、どの令嬢にも言っているんだろう。私は無視することにした。
「疲れているだろう。模擬戦は明日にでもするか」
「こちらはいつでも出来ますわ。そうよね。セド」
「全然大丈夫だ」
私の声にセドが頷いた。
私達は皇太子の案内で、訓練場へ向かったのだ。
私をエスコートしたさそうな皇太子は無視して、私はセドにエスコートさせた。
白馬の騎士様にエスコートしてもらえている。
そう思うと私は少し嬉しかった。
私の笑顔を胡散臭そうな顔でセドが見てくるんだけど、これは私の本当の素顔なんだけど……
私は少しムッとした。
まあ、脅されても私の白馬の騎士がセドだなんて白状はしないけれど。
うーん、でも、これって結構いい場面かも。
私は自分の真っ赤なハンカチを取り出すとセドの腕に巻いてあげたのだ。
「何だこれは? 邪魔だな」
そのセドの言葉に私はセドを燃やしそうになったけれど。
「お前はお嬢の好意をなんてこと言うんだ」
トムにセドは頭を叩かれていた。
そうよ。そうよ。もっと言ってやって!
子供の頃、前世も含めて、自分のために決闘してくれる人の腕にハンカチを巻きつけるのが夢だった。
それも相手は私の白馬の騎士様なのだ。
なんか嬉しい。
「セド、絶対に負けちゃだめよ」
私は気持ちを誤魔化すためにセドに発破をかけた。
「えっ、お世話になるんだから、相手に花もたせたほうが良いんじゃないか」
セドが言ってくれるが、私は首を振ったのだ。
「私のために勝ってね」
そう言うとセドのほっぺにキスしてあげたのだ。
「えっ」
セドが唖然としていた。
なんか皇太子がセドを睨んでいるんだけど。
「エルキント絶対にあのいけ好かない男を地面に這いつくばらせろ」
なんか皇太子が言っているが聞こえた。
「はじめ」
審判の合図で模擬剣を二人が構える。
なんかセドのやる気が見えないんだけど。
せっかくキスしてあげたのに!
本当にムカつく。
騎士の男が大上段で斬り掛かってきた。
カキンッ
セドが軽く受け止める。
「中々やるな」
騎士の男は笑った。
「でも、これでどうだ」
ガキンッ
ガキンッ
ガキンッ
男がセドに息継がせる間もなく次々に打ち込んでいく。
セドはゆっくりと後ろに下がる。
相手に押されている。
私には信じられなかった。
こんな騎士相手ならセドが本気になればすぐに叩き伏せられるはずだ。
こいつは絶対に手を抜いている。
「セド、ちゃんとやらないと大聖堂の修繕貸出、後50日延長するわよ」
「はああああ! それはないだろう」
「じゃあちゃんとやりなさいよ」
「やっているだろう」
私の文句にセドは反論してきた。
「嘘つかないで、全然遊んでいるじゃない」
「隙あり」
騎士の男がそこに切り込んできたのだ。
「うるさい」
セドがその小手に打ち込んでいた。
「ギャッ」
剣が飛んでいって騎士は腕を抑えてその場に蹲ってしまったのだった。
ここまで読んで頂いて有難うございます。
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